Ep53 迷宮2

虚空に出現した謎の文字列に唖然としながら、紡がれていく光の言葉を見つめ続ける。俺を含めたこの場にいる全員が同じような反応を示していた。


「これは……何かの魔法だよな?」

「魔力を流すことによって発言させる記憶型の魔法だと思う。使われていたのは、かなり太古のはずだけど……」

「博識だな……」

「それほどでも」


さすがはエルフといったところか。魔法に関する知識は多いようだ。俺は覚えたところで魔法が使えないからあんまり意味がないけど。そもそも勉強が好きじゃないし。


『私の迷宮にたどり着いたということは、門番にしていた魔物を倒したということだと認識する。素晴らしい=力を持っているようだな』

「門番?って、あのカマキリのことか

?」


恐らくそうだろう。あの岩の上に鎮座していた巨大なカマキリに違いない。その他にも数多くの魔獣を倒してきたが、どれも門番と言えるほどの力を有しているとは思えなかった。……けどさぁ……。


「倒してないんだけど……」


あのカマキリは交戦する前に何処へと飛び去ってしまった。本来ならばあいつが迷宮へと侵入しようとする者に立ちふさがるはずだったのだろうか?ちゃんと教育しとけよ。迷宮のセキュリティガバガバじゃねえか。


「まぁ……簡単に入れたからいいじゃんじゃない?」

「手間が省けてよかったと……思います」

「そう考えればいいんだけどさ……この迷宮を作った奴はとんだバカなんだなぁと思って」


バカと天才は紙一重じゃない。馬鹿と天才が合成されたような人だ。

そんな考えを浮かべている間にも、文字は次々と更新されていく。


『あの試練を超えてきたということは、相当の実力と精神力を持っていることに違いない。つまり、この迷宮を攻略することができる可能性も高いと思われる』


確かにこちらは英雄と呼ばれた身だが……そこまで凄い力があるかと言われればピンと来なかった。


『私が残したこの迷宮は他でもない……私が作り出した宝を安全に、誰にも知られずに保管しておくためだ』

「ん?」


なんだろう。そのどこかで聞いたことのある事柄は。つい最近、似たような迷宮を発見した気がするのだが……


「ねぇ零人。妙な既視感が……」

「安心しろ。俺もだ」


エマが首を捻りながら言う。どうやら俺ではなかったようだ。横を見ると、カナとリアも似たような表情をしている。


『それは、悪意のある存在からこの宝を隠すため……宝がそのような輩の手に渡った時には、一体どんなことに使われるのか想像もできない。それほどまでに、ここに眠る宝は危険で有用で、魅力的なものだ』

「「「「………」」」」


俺たちは連なる文字の続きをジッと待つ。この中で俺だけ、小馬鹿にしたように目を細めながらだが。


『この迷宮に入ることが出来るものは邪悪な心を持たない純粋で美しい魔力を持つ者だけ。君たちは悪な存在ではないことの証明だ。故に、私のこの宝は君たちの手に渡ってほしい。危険で苦しい道のりではあると思うが、どうか待ち受ける試練を乗り越えてほしい。無事を、祈っておるよ』


そこで文字は宙に搔き消え、後には怪しげな光が灯るランプだけが残された。消えゆく光をボーッと眺めながら俺は3人へと向き直った。


「どうする?」


正直、胡散臭い。

奥に一体何があるのかもわからないし、どんな宝なのかもわからない。危険が付きまとうならばこの場で帰ってもいいと思う。

そこまで伝えたところで、3人の目に宿る冒険魂が消えることはなかった。


「何を弱気なこと言ってるのよ零人。お宝がそこにあるんだから、逃さないわけにはいかないでしょ」

「あの……ここまで来たんですから……頑張りませんか?」

「大丈夫。きっと大丈夫」


リアに至っては何が大丈夫なのかわからないが、3人とも進むの一択しか頭にないようだった。危険でどんなことが待ち受けていようと、奥にある宝を手に入れたい。どんだけ男らしいのこの子たち。

流石にこんなにもワクワクさせている3人の意見に反対するわけにもいかず、俺は溜息を一つ零して頭を掻いた。


「わかったよ。俺が常に索敵する感じで、なるべく安全に行くってことで文句はないか?」

「「「異議なし」」」

「こういう時だけ息ぴったりになりやがって……」


現金な奴らだなと思いながら、俺は早速聴覚や触覚【強化】する。周りに聞こえる小さな虫たちの足音までもが細かく聞こえ、動くことで感じる空気を鋭敏に感じ取る。


「……って、どうやって奥に行くんだ?」


以前行き止まりのままだ。この先ってそもそもどこだ?奥に繋がる通路なんてものがあるようにも思えないし……。

と、その時。正面──先ほどリアが手を当てて魔力を流した壁がガラガラと音を立てて崩れ落ち、迷宮の奥へと繋がると思われる通路が露わになった。うっすらと灯された青い光は蓄えられた魔力によるものだろう。少しお化け屋敷に近い感じだ。


「ッ……」

「あー大丈夫だからなぁー」


びっくりしたように尻尾と耳を逆立てるカナの頭を優しく撫で着けながら落ち着かせる。この子は本当に怖がりだなぁ。放って置けない妹みたい。


「じゃ、進もうか」

「「おー」」

「……(コクコク)」


促し、俺たちは薄暗い奥へと通じる不気味な通路へ向かって足を踏み出した。
















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