Ep52 迷宮探索

肌寒い空気が空間に漂う。

迷宮に入った俺たちは、暗い通路を一直線に進んでいる。片手に松明を持ち、暗い周囲を照らしながら歩く。


「なんか寒いな」

「そりゃ、陽の光もないんだから寒いでしょ」

「ジメジメする」


陽の光もないので、ジメジメとした空気が漂っているのだろう。俺も正直あまり長居したい空間ではない。が、迷宮とはこんなところだ。我慢して先を進むとしよう。


「………カナ、大丈夫か?」

「大丈夫です大丈夫です大丈夫です大丈夫です大丈夫です」

「カナがおかしくなった」


リアが静かにカナの頭を撫でながら呟く。ここに入った時からブツブツと独り言を繰り返し、自分に暗示をかけているのだ。相当怖いんだろうな……。


「どうして着いてきたんだか……」

「でも、今更引き返すとかは無理よ?」

「流石にわかっている。でも、長時間いるとカナがもっと壊れると思うんだ」

「それは見ていればわかるけど……」


あまり長時間いるのは望ましくないが、この迷宮はおそらく攻略するのに結構な時間がかかる。仲間たちで励まし続けるしかなさそうだ。


「仕方ない。カナ、おぶってやるから乗りな」


俺はしゃがんでカナに背を向ける。すると、虚ろな目で暗示を続けていたカナの瞳に光が映った。


「……え、い、いいんですか?」

「そんな死にそうな顔してたら本当に死ぬぞ。いいから乗りな」

「………は、はい」


一瞬ためらったものの、カナは大人しく俺の背中に乗った。俺は片手でカナを支えながら立ち上がり、歩みを再開した。


”ジトーーーーーッ””


「なんだ?どうしたんだリア」

「別に」


ムスッとした顔で俺に視線を送るが、話しかけるとすぐに視線を逸らしてしまっった。一体どうしたのだろうか。


「あんまりカナばっかり甘やかさないでよ?」

「これは仕方ないだろう」

「まぁ、こんな所に連れてきたのは私たちだし、文句も言えないけれど」


カナは未だに微かに震えている。首筋に彼女のケモミミがフサフサとかするのだ。


「すっげぇモフモフの耳だな。めっちゃ揺れてる」

「カナは怖くなると耳をピコピコさせる癖があるからね。あと、多分寒いのも関係してるわ」

「ああ、身震いしているみたいな感じか?」

「そうそう」


俺たち人間が寒い時に身震いするのと同じように、獣人族……というよりカナは耳も使って震えるのだという。なんとも不思議な癖である。全身+耳。


「リア。機嫌直しなさいよ。こんどやってもらえばいいでしょ?」

「そうだけど……」

「なんだ?リアもおんぶして欲しいのか?」


2人の話を聞いていたので、俺は割って入る。


「べ、別に……」

「別にしてあげるぞ?今はカナがいるから無理だけど、また今度でいいならな」

「……わかった」


とりあえずの機嫌は直してくれたようだ。リアは無言の圧力という特殊スキル?をもっている。あんなのに長時間耐えられるほど、俺の神経は図太くない。


「あ、そうだ零人。今日は魔獣とか出ても私たちが相手するからね」

「え?なんで?」

「カナをおんぶしたままじゃ戦えないでしょ?それに、ずっとあんたに頼ってばっかりだったから、私たちも戦わないとって思ってたし」


俺はそんなに頼られていただろうか?思い返してみれば、それなりに戦っているが、ちゃんとリアとエマも戦いに参加している。


「そんなに頼られてばかりじゃないと思うけどな」

「ううん。今日は私とエマでやるから」


リアもエマに同調するように首を横に振った。ここまで言われてしまっては俺は2人に任せる他にない。


「わかった。今日は頼むよ」

「「了解」」

「特にゴキの相手は……」

「「あー」」


以前の俺の反応を思い出したのだろう。あんな状態の俺では奴と戦うなんてできない。


「前の零人はすごかった」

「悲鳴をあげてかたまってたもんね」

「あれだけは本当に無理なんだ……」


今回も出てくる可能性は十分にあるため、そこのところよろしくお願いしたい。


「わかったわよ……って、なにか見えてきたわ」

「え?……なんだ?」


どうやらかなり進んでいたようだ。

そして、目の前にはとあるものが静かに鎮座している。


「扉……?」

「扉だな」

「扉ね」

「……(ガクガク)」


目の間にあるのは巨大な扉。

分厚く、重そうな黒光りの扉があったのだ。


「……この魔法陣に魔力を流し込むのか?」


その扉の下の方には、手のひらくらいの小さな魔法陣が描かれていた。まるで、魔力をここに流せと言わんばかりに。


「どうする?」

「そうだな。とりあえず色々と調べてから………」


と、いいかけた時だった。


「ん」


リアが魔法陣に手のひらを押し付け、魔力を流してしまった。


「?どうしたの?」

「……なにやった?」

「魔力を流した」

「俺の忠告……」

「聞いてなかった……」


仏頂面で俺とやりとりをするリア。なにか問題でもあったかとでもいいたげな目だ。


「一旦ちゃんと調べないとダメだろぉぉぉぉ!!」

「大丈夫。問題ない」


グッと親指を突きつけてくる。どこからその自身がわいてくるんだ全く………。

と ── 。


「ちょッ!魔法陣が!」

「!?」


リアが流し込んだ魔力に反応してか、魔法陣から光が漏れだす。

その光りは虚空で文字を描き始め、まるで手紙のような文章になっていく。

そこに書かれていたのは ──



『ようこそ私の迷宮へ!!』



この迷宮を作ったと思われる者からのメッセージだった。

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