Ep49 英雄、迷宮探検準備

「ひ、ひどい目に遭った… …」


数十分後、ようやくあの拷問から解放された俺は、家のリビングでグッタリとしていた。側から見たら残業で疲れきったサラリーマンの帰宅後みたいな感じだろう。よくわからんが。


「さ、流石にやりすぎたかも……」

「は、はい……」


やっていた張本人達が罰の悪そうに視線を俺からそらしている。やったのはお前達だろうが……。


「全く……やった方もやられた方もこんなんじゃ意味ないじゃない」

「止めなかったエマも大概だろ……」


エマはリアとカナが俺に刑を執行しているとき、傍でずっと見ていた。と目に入らなかったのは人としてどうなんだろうか?


「だって止めたらこの子達が納得しないだろうし、私になにか矛先が向くかもしれないじゃない?それに、零人も心配させた罰は受けるべきだったし」

「素敵な言い訳ありがとう」

「言い訳じゃないっての……」


呆れた目で俺に視線を向けて来る。が、俺は疲れきった顔で反応せずに紅茶を味わう。美味いな。


「あ、この紅茶美味しいですね」

「本当だ。美味しい」

「帝都で買った少し高い目の紅茶なんだ。いつものと違っていいだろ」

「そうね。中々美味しい紅茶だわ」


買ってきた紅茶は大絶賛だった。これで多少は気分が良くなったかな?現金な娘達で助かった。本当に。


「あ、そうだ。村長からちょっと面白い話を聞いたんだけど」

「村長から?」


不意にエマがそんな話をしだした。村長から聞いたとなれば、また変な洞窟関連のことか?


「なんかね。今いる森から少し離れた山に、大きな洞窟があるらしいの。それも、唯の洞窟じゃなくて、色んな魔獣がいたり罠が仕掛けられているらしいわよ」

「相変わらず村長はどこからそんな情報をゲットして来るんだか」

「謎の多い村長ですからね。私たちもわからないです」


村にずっといるのかと思っていたが、そうでもないようだな。あの亀の姿で、どうやって外をうろついていたのかは気になるが、一先ず置いておこうか。


「んで、そこに行きたいと?」

「最初は私たちだけで行こうかと思ったんだけどね。でも、零人がいないと危険度が増すだけだから」


リアは俺の問いに答えてくれたが、そこには早く行って見たいという気持ちが伝わってきた。探検気分なんだろうが、あまり浮かれた気分で行くと痛い目を見るので、よく考えてから行動してほしいな。


「俺は行くのは別にかまわない。だけど、そこに行くまでどれくらいかかるんだ?」

「わからない。場所がしっかりしているわけじゃないし。また向こうで探すことになりそうだから」

「ってことは時間がかかるってことか。行くなら向こうで夜を明かす覚悟をしていかないといけないと」

「ええ!?向こうで一晩過ごすんですか!?」

「だって仕方ないだろ?距離が離れていたら早く帰ってこれるかわからないんだし」

「うん。カナ、行くなら覚悟して行くべきだよ」


俺とリアが説得したが、まだ渋っている様子。一体なにがいけないのか……。


「知ってるでしょ?カナは暗いところが苦手。さらに魔獣が出るかもしれないようなところで1泊なんて、この子からしたら考えられないことなの」

「そういえばそうだったな」

「完全に忘れてた」


あの洞窟のことを思い出す。俺からしがみついて離れなかったな……。今回行く洞窟でもあんな感じになるのかもしれない。


「でもカナ。置いていかれるのは嫌なんだろ?」

「嫌です。絶対嫌です」

「じゃあ、嫌かもしれないけど妥協しないと連れていけないぜ?」

「うっ……そ、そこは何とか零人さんの力で……」

「無理だ。流石にそこまでのことはできない」


俺は先日の夢で女神様から力のことについて教わった。100倍以上の強化を行うと、それなりの負荷がかかって来る。なので、俺は100倍を超えた強化は行わないようにした。そのことを知る以前はそれなりに100倍以上の強化を使っていたので、知らないうちに負荷がかかっているのだろう。恐ろしや。


「そ、そんな〜」

「あきらめろ。これは決定事項だ」

「カナ。あんまり零人を困らせるものじゃないよ」

「そうよ?一応、向こうではカナを守ってくれるわけだし」

「それは聞いてないが」


俺がカナを守る……というより暗いところでカナのお守りをするということだろう。それは別に構わないが……。


「……わかりました。怖いですけど、私も行きます」

「よし。偉い偉い」


カナの頭を撫でながら、俺は後の2人に声をかける。


「俺はこの後風呂に入る。そんで、風呂から上がったら村長のところに行って来るよ」

「村長のところに?」

「一応、お前らがいたことを報告に行く。あの人からどこにいるかとか教えてもらったからな。いなかったけど」

「そういうことね」

「あと、もう少し詳しく洞窟の場所を聞きに行く。曖昧な位置じゃ、探すにも探しにくいだろ。あの村長なら詳しく聞けば教えてくれそうだし」



村長ならまだ情報をしっていてもおかしくないだろ。あの人?は姿からして何か知ってそうな人だし。


「とりあえず、風呂にはいってくるから。あ、これ帝都のお菓子な」

「わぁーい。ありがと〜」

「見事なまでの棒読みお礼だな」


リアのお礼を聞いてから、俺は風呂場に向かう。もう一度湯船にちゃんと浸かりたかったい。公爵様がいたので、ちゃんと落ち着いて入れたかというとそうではない。俺は1人で入る方がリラックスできる。


「ちゃんと疲れを取ってからじゃないと移動したくないからな……」



俺は身体を清め、リラックスした後に洞窟に向かいたい。そんなことを思いながら、俺は浴室へと向かって行った ── 。


















「な、なんだ?だれかに見られているような……」


浴槽に浸かっている途中、何者かの視線を感じていた………。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る