Ep48 英雄の帰還

「…………え?」


俺は呆けた声を漏らす。今、俺は自分の状況を理解することができず、そんな声を上げてしまったのだ。


「な、なにこれ?」


ゆっくりと視線を動かす。現在いるのは真っ暗な室内。目隠しをされているわけでもないのに、視界は真っ暗のままだ。おそらく、光の入らない暗室の中なのだろう。まぁ、視界は別にいい。問題なのは手と足だ。


「……全く動かないぞ……?」


そう。俺は今身動きを取ることができない。なぜなら、自由に動かすことができるはずの手足が、ロープで固く縛られているからである。一体なにが……?俺はまだ働かない頭をフルで回転させながら、こうなる前のことを思い出していた……。





「やっと帰ってこれたか……」


帝都から離れて1時間と少し。スピードをかなり強化していたので、あっさりと村に到着することができた。強化万歳。

久しぶりに帰って来た村の中に入ると、村長が木の椅子に腰掛けているのが見えた。


「村長」

「ん?おお、零人君か!少し見ていなかったが、どこかいっていたのかね?」

「ええ。少し帝都の方に買い出しを」

「ほぉ、帝都にかね?わしは帝都にはいったことがないから、一度行って見たいもんじゃの〜」

「いや、村長が行ったら大変なことになりますよ」

「はっはっは。わかっておるよ!」


前にあった時は4足歩行だったけど、今は2足歩行している。2足歩行する亀とかどんなやつだ。今も椅子から立ち上がった状態で葉巻を吹かしているし。


「そうそう。エマ達が零人君が帰ってこないのを心配しておったよ?」

「ああ〜やっぱりですか。あいつらは今どこに?」

「多分、君の家の近くにおると思うが。あそこは少し離れておるけど、居心地のいい場所なんじゃろうな」

「了解です。一旦家に帰ってから探して見ます」


亀の村長との会話を早々に切り上げ、自分の家に戻ることにした。







「久しぶりに帰って来た気がするぞ」


俺は家の前で独り言を呟く。帰ってきたって感じがするな。2、3日あけていただけなのに。


「あ、中にいるか?」


そうだ。その可能性を忘れていた。あいつらは基本的に俺の家には勝手に入ってくるような子達だ。リビングあたりでくつろいでいるかもしれない。


「……ま、いてもいなくてもいいか。中に入って紅茶でも淹れるか」


そして、玄関の扉を開け中に入り、そのままリビングに入室した時だった。


「?これは……お香でも焚いているのか?」


リビングに不思議な香りが漂っていた。嗅いだことはないが……結構いい匂いのするものだ。きっとカナが焚いたんだろう。女子力が1番高いのはあの娘だ。他の2人は少し考えづらい。


「で、肝心のあの子達は……出かけてるのか?まぁ、お香を焚いたあたり、すぐにでも戻ってくるだろ」


俺はキッチンへと向かい、帝都で買ったばかりの紅茶を淹れる。ちゃんと保温効果のあるポットを買い、さらに俺が強化したので実質的に冷めないポットだ。そこに紅茶を注ぎ、カップを持ってリビングに戻る。この紅茶の香りを堪能したいところだが、お香の匂いも中々強く、邪魔されてしまう。


「消したいけど……消した怒りそうだな」


カナのものだろうから、勝手に消すのは悪い気がする。いや、家主は俺なんだし、勝手に焚いたので消されても文句はないだろうが、あまり勝手消したくない。少し考えていると、身体に変化が……。


「……あれ?なんか……眠くなってきた……」


なんだろうか?突然猛烈な眠気に襲われる。


「走って疲れたのか?それとも帝都での疲れが取れていないとか……」


考えられることはいくつかあるが、とりあえず眠ることにしよう。ああ、紅茶もまだ飲んでいないのに……。


そこで、俺の意識は闇に落ちた。







「あ、そうだ。多分眠くなったのはあのお香の所為だ」


今更だが、原因はあれだろう。あんなに強烈な眠気になるとは……睡眠誘導剤みたいなものか?

と、そこで暗い室内に光が差し込んだ。


「あ、目が覚めた?」

「……カナ?」


そこにいたのはカナだった。その話し方はいつも通りだが、なんだろう?有無を言わせない迫力と、逆らってはいけないという警告が俺の中に走った。なんか怒ってる?心当たりはありますが。


「あ、あの〜カナさん?これを解いてもらえないでしょうか?」

「ふふふ。ダ〜メですよ?またどこに行くかわかったものじゃありませんから」


怖い。口は笑ってるのに目が笑ってない。マジ怖いっす。


「い、いや!どこも行かないから!怒ってるのはわかってるから話し合おう!?」

「大丈夫です。このままでもお話はできますから。ね、お姉ちゃん?」

「ええそうね。口は塞いでないから喋れるでしょ?」


突然カナが姉を呼んだかと思うと、暗い室内にそ姉の声が響く。


「い、いつからそこに?」

「あんたを運んできてからずっと?」

「ずっといたのか……」


まじで怖ええ。てか気づかなかったぞ?隠密能力でもゲットしたの?


「もしかしてリアもいるのか?」

「ここ」


目の前にリアが出てきた。カナがこの部屋に入った時に灯を点けたので、視界は暗くない。が、目で見えるからきついものもあるわけで……


「と、とりあえず、俺が縛られている理由を教えてくれ」

「ちゃんと話してくれるように」

「話を聞くためですよ?」


話すために縛るのか……まあいい。いつでも引きちぎることはできるからな。それより、先に話を進めるべきだろう。


「もしかしなくとも、帰りがこんなに遅くなった原因だよな?」

「うんそう。私たちはそれが聞きたいの」

「かなり心配したんですから、納得のいく説明をお願いしますね?」

「君たち一旦落ち着いてくれない?」


先ほどから威圧が半端じゃない。これだと話したくても話せないじゃないか。


「諦めなさい。この子達はかなり心配してあんまり眠れてなかったのよ」

「そ、そういうことか……」


今更ながら、申し訳ないという気持ちが強くなってきた。申し訳ないから、一旦落ち着いてほしいな。

が、2人が落ち着いてくれるはずもなく、俺はこのままの状態で話を進めることになった……




「……というわけで、こんなに帰るのが遅くなってしまったんだ」


俺は帝都で起こったことを話した。一応、エルナとのことは伏せたけどな!


「そういうことでしたか。それなら遅くなった理由もわかります」

「でも、もう少しはやくファルをこっちによこすとかできなかったの?」


カナは納得できたようだが、リアはまだ少し納得していないようだ。その考えは、あの時の俺にものすごく言いたい。


「確かに、その方が良かったかもしれない。あのとき思いつかなかったことは謝罪する。でも、ファルがいなかったら将軍たちを運べなかったんだ。そこは妥協してほしい」


一応の反論をしておく。ファルがいなかったら、あそこから将軍たちを連れて行くのは大変だっただろうし、下手をすれば帰ってくるのが1日ほど伸びるかもしれなかった。帝都の兵士にやらせろよと思うかもしれないが、あれは俺が持って帰りたかったのだ。


「ま、一応わかったわ。でも、これからは帰ってくる日にちを伸ばした方がいいわね」

「ああ、もう1日で帰るとかは言えないな」


って感じで、話はうまくまとまりそうだったのだが……縄を解いてもらえない。


「あの……いつになったら解いてもらえるんですかね?」

「え?まだですよ?事情はわかりましたが、少し反省をしてもらいますからね?」

「反省って……なにを……」

「んふっふっふっふ♪♪♪」


楽しそうにリアが笑いながら、何かを取り出す。あれは……まさか……!?


「くすぐりの刑を受けてもらうよ?」

「ま、待て!!早まるな!!無抵抗の人間にそんな真似を!!」

「お?なんだか必死だね?もしかして……」


リアが何か気付いたらしく、俺の耳元でやってきて、息を吹きかけた。


「ふっ」

「うぁッ!」

「…………ほお?」


俺は、他人に触られるのがとても苦手なんだ。なんだか、自分の体ではないものに触られると、すごくゾクゾクしてしまう……かなり感じやすいタイプなんだ。敏感ってやつだ。


「楽しくなってきたね……」

「ふふふ。私も行きますよぉ?」

「ほどほどにしときなさいよ?」


くっ!もう逃げる道はないのか!俺は必死に思案するが、いい案は全く思いつかなかった。



「ま、待て!!お前ら!!そんな人を弄ぶような真似を……!!や、やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」




その後、室内に俺の悲鳴がしばらく木霊したが、助けが来ることはなかった。

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