Ep46 英雄と令嬢
「私と……婚約するおつもりはありませんか
?」
エルナからの突然の申し入れに、俺は数瞬固まってしまった。いや、仕方ないだろ?初めてのことなんだから……。
「こ、婚約って言ってもな……」
「わ、私ではなにか問題が?」
「いや……その……」
俺からいえば、特段エルナがダメということはない。むしろこんな美少女と婚約できることを神に感謝するべきだろう。いや、あの女神様とは言ってない。が、俺は正直婚約はしたいとは思わない。
「それって、エルナ1人で決めていいことなのか?仮にも公爵令嬢だ。嫁ぐなら権力の大きな貴族とかじゃないのか?」
「そういうわけではありませんよ?私のお父様も、元々は一介の魔道士でしたし」
「いや、でもな……俺は旅人な訳で……結婚とかは考えてないっていうか……」
「ですから婚約です。すぐに結婚というわけではありません」
「あ〜……そ、そうだ!公爵様が許してくれるとは限らないだろ?」
突然の婚約など、公爵様が許してくれるはずがない。どこの馬の骨ともわからん小僧に、娘を預けられるものかと言われるに違いない!
俺がそう考えていると──── 。
「話は聞かせてもらったよ2人とも」
「お父様!」
公爵様ご登場である。なんでこのタイミング……。ずっと扉の前でスタンばってましたとか言わないよな?
「こ、公爵様……どうしてここに?」
「いや、夕食の準備ができたから、呼びにきたんだけど……さっきの話が聞こえたのでね。つい立ち聞きしてしまった」
「つい立ち聞きしないでくださいよ」
趣味が悪いぞ。隣でエルナが恥ずかしそうに顔を伏せてしまった。父親に自分の告白を聞かれるのは恥ずかしいわな……。
「それはすまなかったな。だが、娘の将来に直結してくることだからね。聞かずにはいられなかったんだ」
「その気持ちもわからないでもないですけど……」
娘を想う父親の心境を否定するつもりはない。娘の将来に関わるのだから心配もするし、気にもなる。
「エルナとの婚約の件なら、私は問題ないよ。君になら、エルナを頼めそうだ」
「なッ……!」
「お父様!」
まさか公爵様はOK出すとは……いや、公爵様が認めても意味ない……意味はあるか。だけど、最終的には俺がOK出さないと話は決まらないか。
「し、しかしですね!公爵令嬢の婚約ですよ!?他の貴族の方からなにかあるんじゃ……」
「心配はいらない。なにか干渉してこようものなら私が黙っていないからね」
「流石にお父様です!」
「そ、それはそれは……」
待て。逃げ道がなくなってきてないか?いや、まだだ。俺はこの歳で結婚なんてしないぞ!それに、森でのんびり暮らしたいんだから、帝都なんかに住んだら全然休めない。NO都会。YES田舎。
「い、いや、他の貴族とのいざこざがないとしてもですね。俺はまだ婚約するつもりはありません!」
よし。言い切った。自分の意見を貫いたぞ。だが、やりきった感があったのも一瞬だった。
「ほぉ?うちの娘のどこが不満なんだ?」
「いきなり圧をかけないでください怖いです」
公爵様が俺にかなりの圧力をかけてくる。可愛い娘を認められなかったことが腹ただしいのか?まずは相手についての品定めをしてくれよ……。
「いや、エルナに対しての不満はないです。少しの縁ですが、彼女は誠実な女性です。容姿についても申し分ない」
「じゃ、じゃあ……」
「ですが、俺は旅人です。まだ世界を見て回りたいんです。婚約してしまったら、俺はここにとどまらないといけない。俺はまだ旅をしたい」
嘘だ。本当は結婚せずに森で自由に暮らしたいだけ。だが、そんなことをいうわけにはいかない。第一、あの森の村は知られていないのだ。知られるわけにもいかんが。
「……どうしても旅がしたいのかい?」
「はい。それが生きがいでもあるので」
「そうか……」
納得してもらえただろうか?少し残念な気もするが、貴族になることは避けたい。いや、エルナ自体は本当にいい子だ。輝く白髪はくはつも、端正な顔も、全て魅力的だ。だけど婚約するわけにはいかない。
自分にそう言い聞かせていると、公爵様から想定外のことを言われた。
「ちなみに、君は恋人がいるなどはないのか?」
「へ?」
俺に恋人?ま、まぁ婚約させようとしてるんだから確認するか。っていうかもっと早い段階で確認するべきだったんじゃ?
「い、いませんけど?」
「では、旅の仲間などに女性はいるのかな?」
「……います、けど……」
一応、エルフと獣人の少女ということは言わない。それに、あの娘達とは一緒に暮らしているわけなので、旅の仲間と説明しておく方がいいかもしれない。
「旅のお仲間に……女性が?」
ゾワッ……
俺が発言した瞬間に、エルナの周りの空気が重くなった。え?なんで?あ、そうか。
「い、一応ちゃんとした旅の仲間ですからね?そういう関係にはなっていませんからね!」
「その心配はしていないよ。君がそんな関係に発展しているのだとしたら、もう少し女性と慣れて話しているだろうからね。エルナと話すとき、少し緊張しているように思えるから、女性経験はないと思っていたよ」
「そういわれるとなんか複雑!!」
そうだよ。女性経験なんてないよ。女子と話すことなんかない生活送ってたんだから。
っていうか俺別に緊張してる風に見せてないはずだけど……自分でそう思ってるだけかもしれないが。
「あの……ルークさん」
「ん?」
エルナがおずおずと俺に声をかけた。俺とエルナのことだというのに、先程から公爵様と話しているのでほとんど彼女は話してなかったな。すまん。
「私のことは……お嫌いではありませんか?」
「え?……あ、ああ。嫌いじゃないよ。嫌いだったら助けに行ったりしないからな?」
当然である。俺はこの娘がさらわれたと聞いた時、自分でもびっくりするくらいブチ切れた。そう考えると、この娘に好意的な部分はあるのだろうが。
「で、では!旅が終わるまで……このことを約束としてもらってもいいですか?」
「や、約束?」
「はい!その……私との婚約はまだしなくてもいいです。旅が終わったあと……私とその……すぐに結婚という形に……」
ほっほーまじか。これはもう逃げられないルートなんかな?こんな可愛い子を嫁に貰うって光栄なことなんだろうけど……自由に生きたい。
「その……俺はエルナが嫌いなわけじゃない。だけど、俺がエルナと結婚したとしてだ。俺は貴族になるつもりはないんだけど……」
「それについては問題ない」
と、俺の不安を告げたところで、公爵様から声がかかる。
「君が私の地位を受け継ぐことはしなくていい。なんだったら、この帝都を出て暮らしてもいい」
「どういうことですか?」
「実はね……エルナに弟ができた」
「「え?」」
弟?弟ってことは……
「ええええ!お父様!?私は聞いていませんでしたいよ!?」
「すまないな。つい先日わかったことだから、伝えるのが遅くなった」
そうか。弟なら公爵を継ぐことができる。それならエルナと結婚しても大丈夫っぽいか……な?
「それで……どうだろう?エルナの提案を受けるつもりはあるかい?」
「なんともいえない……ですね。旅の途中で何があるかわかりませんし……」
森で暮らす俺と一緒に暮らせるとは思えないのだ。あの森は一定の強さを必要とするくらいの場所。魔獣が多いのだ。
「大丈夫です。私は信じて待っていますので……」
「い、いや、本当に何があるかわからないし……」
「心配しないでください」
そう言った後、エルナは俺が言っていることとは別の心配をしていることに気がついた。
「別の女性がいても……私はあなたの側に居られれば構いませんよ」
なんで俺に複数の女の人ができるということになっているのだろうか?
「俺、そんなにモテないぞ?」
「ご謙遜を。私から見れば、女性からの人気はかなりありそうですよ?」
「い、いや、そんなことは……」
「大丈夫です。私はあなたと結ばれればいいですから。それだけ……あなたを愛することができる自信はありますよ?」
「……ッ!」
なんだか急に積極的になってきたが……今ので俺の心臓の鼓動がかなり速くなってしまったのはいうまでもない……。
「と、とりあえず。このことは約束として覚えておくよ。旅が終わったあと、改めて気持ちを告げに来る。」
「はい!ありがとうございます!」
とても綺麗な笑顔を向けられ、俺は自分の顔が熱くなるのを感じた──── 。
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