Ep43 消えた男
ロブスが剣を振りかざし、地面に大きな亀裂を作った。とてつもない衝撃が俺たちを襲うが、瞬時に指を鳴らし、その衝撃を相殺する。が、視界はかなり悪くなった。
「クッ……おい!どこに……」
舞い上がった砂埃を右腕で振り払い、あたりを確認する。が、そこにはすでにロブスの姿はなかった。この短時間で一体どこに……。
「聴力【強化】」
俺は視覚では姿をみつけられないと判断し、聴力を強化してロブスを探す。
「……反応がないのか?」
が、耳に入ってくるのは風の音と、壊れていく要塞の音。それからエルナの呼吸の音などで、ロブスの足音などは一切入ってこない。
「この一瞬です遠くまで逃亡したのか……それとも、何かの魔法か……」
魔法で音をかき消すことができるとなれば、音で追跡することは難しいか……。
「ルークさん!大丈夫ですか?」
「あ、ああ。大丈夫だ」
エルナは砂埃で隠れ、姿は確認できない。彼女も同様に俺の姿が見えなくなったので、心配して俺の安全を確認しようとしたのだろう。
「よかった……。いなくなってしまったかと……」
「安心しなよ。俺は急にいなくならないから。これくらいで吹っ飛ばされるくらいじゃない」
俺は彼女の無事を確認していたので、そこまで焦らない。それに、先ほどの衝撃は相殺して影響をほとんど受けていない。無論、エルナにも衝撃がいかないように配慮はしてある。
「それで……彼の方は?」
「すまん。逃げられた。あいつの正体はひとまず置いておこう」
ただの武器になるドMやろうかと思ったが、とんでもない力を隠していやがった。能ある鷹は爪を隠すってやつか?あの剣もかなりの物だ。Mになるのが難点だが。
「とりあえず。将軍とかのところに行くか。あと、エルナを襲おうとしたあのクソ野郎を回収したいし」
「そうですね。将軍は重要な人物ですから。今回の進行で、かなりの村が被害にあいましたし。罰を下さなければなりません」
将軍とやらは帝国にあるたくさんの村を襲撃し、略奪をしていた。きっちりとその罪は償ってもらう。
「そ、それにしてもルークさん……」
「ん?」
「そ、そこまであの男のことをかいしゅうしたいのですか?」
男と言ったら、地下牢の男だ。俺は自分の腹の虫が収まらんことを伝える。
「俺はエルナを襲おうとしたことを許してない。公爵様も、絶対に許さないだろうな。あいつは捕まえて、公爵様に然るべき処置を下してもらう」
公爵様には今回のことに対する罰を下してもらう。実の娘が傷つけられそうになったのだから、さぞお怒りになるだろう。が、エルナは俺の言葉に顔を赤くし、少しうつむきながら言葉を口にする。
「そ、そこまで私のことでお怒りに……」
「?当然だろ?」
なにを気にすることがあるのか。
「とにかく行こう。日が沈む前に終わらせる」
「は、はい!」
俺はエルナを再び抱え上げ、将軍たちのいる牢のもとまで走った。
◇
将軍たちは、ロブスの言った通り、牢の中に閉じ込められていた。腕を縛り上げられ、口には猿轡がされていた。一体どこにあったのやら……あ、牢屋か。
その将軍たちを牢屋の中に閉じ込めたまま移動させるために、俺は懐にずっと息をひそめていたファルを呼び、ファルの力をかなり【強化】して、運ぶことにした。
「さぁファル。頼むぞ」
「ピェエエエエエエ!」
大きい声で鳴き、牢屋の柵を掴み飛び立つ。そのまま帝国に運ぶように頼み、ファルは帝国の方向に飛び立って言った。きちんと将軍だということを書いた手紙を忘れない。ああ、あの男もきちんと回収して牢屋の中に突っ込んで置いた。気絶しているので、しばらくは起きない。
ちなみに、エルナは運んでいる間に眠ってしまった。やはり緊張がほぐれたことによって、猛烈な疲れが襲ってきたのだろう。無理もない。睡眠というよりかは気絶に近い。
「クゥ……」
その寝顔も、目を奪われるように美しい。
「い、いかんな」
美しい寝顔に見とれて、しばらくそのまま動けなかった。腕の中にいる彼女は、まるでおとぎ話の眠り姫である。
「平常心。平常心」
俺は自分の中に湧き上がる劣情を押さえ込みながら、帝国を目指した ── 。
◇
〜その頃のリアたち(久しぶりすぎる)〜
リアたちは零人がいない間、狩り……にはいかずに少しいつもと違うことをしていた。
「こ、こうやるの?」
「わからないけど、零人はこうやってた気が」
リアとエマはやったことがないようで、戸惑いを見せている。
「…………」
そんな2人の横で、黙々と作業をするのが1人。
「カナ……なんでそんなに上手いの?」
「ああ、カナは元々やってたんだけど、零人がきてからあいつのに夢中になっちゃって」
「まぁ、零人より上手い人がいるのかもわからないけれど」
やはり、この分野では零人に勝てるものはいないだろう。そう確信している。
「ここの捌き方は……」
「すっごい真剣になってるわね」
「昔からこういう子だから」
3人は、帰ってきた零人に料理を作ってあげようと頑張っていたのだった。
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