Ep42 予想外のこと

「な、なんだこれ!?」


明らかに俺が作ったものではない亀裂。いや、これは亀裂というよりか……切断したあと?綺麗にまっすぐ切れ込みが入っている。亀裂とするには綺麗すぎるか。


「こ、これはルークさんがしたのではないのですか?」

「俺じゃない。できなくもないが、俺がやったのは要塞の半分だ。残りの半分には亀裂はなかったはずだ」


兵士たちが邪魔だったので、一掃したときに要塞の半分を崩壊させたが、あんな綺麗な直線上の亀裂を入れるような攻撃はしていない。

──と、なるとだ。俺は外に行くとか言っていたやつを思い出した。


「まさか……ロブスターが?」

「ロブスター?先ほどまで一緒におられた方ですか?」

「ああ。帝国から出て行くときについて行くとか言われてな。連れてきたんだ」

「し、しかし。あの方は少し……」

「うん。俺も考えられないけどな。あの変態マゾヒストがこんなことできるはずないとおもったが……」


俺は少しだけ確信めいたものを感じながら、言葉を紡ぐ。


「あいつは背中に大剣を背負っていた。が、一度も使っていないんだ。もし、あれを使わなかった理由が、強すぎる力だとしたら……」

「この痕跡も納得ですね」


見た感じ、なにかしらの魔法が付与されていた思う。なんとなくそんな感じがしただけなので、特に気にしなかったが。それに、あいつのキャラが濃すぎてそれどころの話じゃなかったしな。

考えにふけっていると、エルナが顔を少し赤くしながら俺に呟いた。


「あ、あの……。もう大丈夫です」

「あ。すまん。今下すな」


エルナをずっと抱っこしたままだった。少し名残惜しさも残るが、俺はエルナをそっと地面に下ろした。


「ありがとうございます。もう、歩けると思います」

「そっか。ならよかった」


なんとなく、和やかな雰囲気になった時

、俺がいましがた考えていた男の声が聞こえた。


「あれ?もう終わったのか?」


ロブスター……ロブスだ。ロブスは要塞の下の階から出て来る。その際、重そうな扉を蹴り飛ばして来たが。


「これ、お前がやったのか?」

「ああ。ここを潰すのは元々の予定だったしな」

「予定?」


おかしなことを言う。こいつはなんの目的があるかわからないがついて来ると言った。俺はここに向かうなど、連れて行くときには話していない。こいつはここを潰すのが最初からの目的だと言った。ということはだ。


「お前、俺について来ると言ったとき、俺がどこに向かっているのか知ってたのか?」

「いや?最初は分からなかったさ。だけど、帝国が戦争を仕掛けると言うのを聞いていてね。それでもしかしたらと思ったんだ」


なるほどな。それでここまでついて来たってわけか。


「お前がマゾヒストだったのも演技か」

「え?痛みや屈辱は最も尊いものだろう?」

「あ、そっちは本当なのか」


嫌なところだけ本当だなこいつは……。

まあいい。今知りたいのはそこじゃない。


「その背中の剣。それでこれをやったんだな」

「そうだ。こいつは不思議な洞窟から見つけて来てね、込める魔力の量に比例して威力や切断力を増すんだ」

「……洞窟ってとこからデジャブが半端じゃねぇな」


まさかとは思うが、あいつの作品なのか?いや、だがあいつは変身マントを持っているとしか言っていな……あ。


『森の中に眠っている遺産は、変身マントを持っているものしか入れない』



たしかこんな感じだった。ということは、あの剣は森の中ではない所から見つかったと言うことだろう。


「その剣って、どこで見つかったんだ?」

「ええっと。たしか、砂漠地帯にあるドラゴンの巣だな」



ふむ。やはり違ったか。が、あれほど強力な武器なのなら、もう一つの洞窟も探しておくべきかもしれない。使えそう。


「ちなみにだ。こいつを手に入れた瞬間から俺はMに目覚めた」

「よし。探すのはやめだ」


ふざけた呪いをつけていやがる。なんで手に入れたらMになるんだ。一体なんの目的でMにするんだよ。代償とかなら血で目覚めるとか、使ったらしばらく動けなくなるとかでいいだろ。なんでMに……。


「これ作った人がMだからとか書いてあったな」

「ああ、もう救いようねえわ」


もう嫌だ。あの人。あの変態発明家……なの作品なのかは分からんが、ロクなのがない。


「この話はやめだ。んで、いきなり聞くが、お前の正体はなんだ?」

「?普通の剣士だが?」

「とぼけんな。普通の剣士がそんなもの持ってたり、要塞をここまで壊したりできるもんか」


明らかに怪しい。俺も人のこと言えないが、こいつが普通の剣士とかな訳がない。見極めねば。


「あ、あの……」

「ん?どうした?」


エルナが突然声を上げ、発言をしようとする。


「将軍たちはどうされたのですか?」

「そういえば……」

「ああ、全員縛ってあっちの檻の中に入ってるよ。逃げられないから安心しな」


仕事の早いやつだ。が、そこでもだな。強すぎる。明らかに一般の剣士の強さを凌駕しているほどだ。


「……お前は何者だ?」


再度質問。こいつが危険なやつかどうか、ここで知っておかなければいけない。俺の安全にも関わることだ。


「悪いが教えられない。これは、極秘事項だからな」

「そうか。なら……」


俺は腕をゆっくりと上に掲げ、そのまま手刀の形を作る。


「力づくで吐かせるか」


俺にはその覚悟はある。こいつと戦い、勝利をしてから吐かせることもできる。


「……やる気か?」

「お前が教えないなら、やってもいい」


しばらくその状態でにらみ合い、あたりに緊張がはりつめる。すぐ隣では、エルナが心配そうな表情で俺を見つめている。


「仕方ない。が、俺は教える気はない」

「戦うってことでいいのか?」

「いや、違う。戦わずして勝つ・・・・・・・」

「どういうことだ?」

「俺は、正体を知られなければ勝ちなんだよ」


そこまで聞いて、俺はようやく気がついた。あの剣に、魔力が集中しているのを。


「まさかッ!」

「じゃあなルーク。助かったぜ」



ロブスは剣を振りかざし、地面に叩きつけた ── 。

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