Ep41 救出完了
「あ、あれ?」
エルナが泣き止むのを待っていると、ロブスター野郎……ロブスが目を覚ましたようだ。思いっきり力を込めたので、気絶していたのだ。
「起きたかロブスター。あのクソ男なら吹っ飛ばしたぞ」
「そ、そうか……。いや、気絶するほどの衝撃だったとは……」
「お?お前でもさすがにきつかったか?」
「後でもう一度やってくれ」
「絶対嫌だわ変態野郎」
もしかしたら変態が進化してしまったかもしれない。あの衝撃でも大丈夫とか、一般的にこいつが満足するような衝撃なんかないぞ?
「まぁいいや。そういえばお前の名前聞いてなかったんだけど?」
「あ?……そういえばそうだな」
ここまでこき使ってきたが、俺の名前を教えてなかったか。まぁ、別に減るものでもないか。偽名だし。
「ルークだ。好きに呼べ」
「了解だルーク。俺は少し外に出てくる」
「なにするんだ?」
「ここは埃っぽいから外の空気を吸ってくる」
別にそこまで埃っぽくもないのだが、なにか用があるようだ。そもそも、あいつがここについてくるといった理由もわからなかったのだから。
「……落ち着いたか?」
「…………はい」
エルナの背中をポンポンと叩き、様子を伺う。少し震えているが、話せるくらいには落ち着きを取り戻したようだ。俺はエルナを少し離し、顔を見ながら話を始めた。
「いつ……連れてこられたんだ?」
「……昨日の朝方でしょうか」
「他に護衛は?」
「つけておりました。以前襲われたので、人数も増やし、魔道士の方も数名いたのですが……」
「護衛は倒され、誘拐されてしまったか……」
「はい……」
魔道士を負かしたということは、魔法無効化の道具をつかったのだろう。もしくは同じく魔道士をぶつけたか……。なんにせよ、負けてしまったことに変わりはない。
「その後、ここに連れてこられたのか?」
「はい。気がついたら、ここに閉じ込められていました」
「ここでなにか食べたりしたか?」
「いえ。昨日からなにも口にしていません。食事などは出されませんでしたが、出されても口にはしないです」
昨日から食べていないとは、相当お腹が空いているだろう。喉も渇いているはずだ。俺はまずエルナに食事を摂らせるべきだと判断し、収納袋の中から作っておいたシチューを取り出す。
「これは?」
「シチューだ。いきなり肉とか食べたら胃がびっくりする。これはお腹にも優しい。あ、俺が作ったものだから安心しろよ」
「ルークさんの手作りですか……。それなら安心ですね」
優しく微笑み、エルナはシチューをスプーンで掬い、口に含む。その姿もなんと絵になることか。
「……とても美味しいです」
「それはよかった。じゃあ、食べながらでいいから聞いてくれ」
「はい」
俺はこれからの予定をエルナに伝える。
「この後、君を外に出した後、俺はこの要塞の主のところに行くつもりだ」
「ここの主……というと将軍でしょうか?」
「そいつだな。俺はそいつに話をつけて来るよ。そこで、エルナは俺についてきた方がいいんだが……」
「なにか問題があるのですか?」
問題……というよりかは、彼女の意思によるものだが……。
「もし、エルナが行きたくないのなら、俺はこのまま君を連れて帝国に帰るよ。俺は君が帝国に帰ることができればそれでいいからな」
俺がこの要塞を潰す理由は、正直言ってない。しいていえば、戦争が起こって森に影響が出るかもしれないこと、エルナを誘拐して言ったことに対しての仕返しだが、前者はすでに気にしなくていいだろう。俺がほとんど潰してしまったし。後者はエルナを助けられたので、それで終わらせることもありだ。
「私は……ルークさんの意思に従います」
「……そうか」
エルナの意思を聞き、俺はひとまず決めることにした。
「一旦外に出ようか。そこから考えよう」
一旦外に出てから、どうするかを考えることにする。エルナがシチューを食べ終えたので、彼女を抱きかかえる。俗に言うお姫様抱っこだ。
「あ、あの?ルークさん?」
「少し我慢してくれ。このままあの穴を抜けて外に出る」
俺がここに来るときにぶちあけた穴だ。あそこから外に出る。階段もあるのだが、あそこだと警備兵がいそうなので除外する。
「じゃあ、しっかり掴まっておけよ」
「は、はい!」
エルナが力強くしがみつき、彼女の形のいい胸の感触が服越しに伝わって来る。これは……なかなか……。
俺は心地の良い感触を味わいながら、穴に向かって跳躍した。
そして、外に出たときに目に入ってきた光景は、俺が壊したのとは明らかに違う亀裂の入った要塞だった。
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