Ep35 英雄、謁見する

「お兄さん・・・誰?」


知らないお兄さんに声をかけられました。なに?この人なに?ナンパ?男なのわからないのかな?あ、もしかしてホモ ── 。


「ああ、すまない。説明が遅れたな。私はロイド=クレリアル。帝都の騎士団の団長をしている」

「はぁ。んで、俺になんのようですか?」


正直めんどくさいな。俺は何もしていないと思うのが。っていうか早く酒買いに行きたいんだが!


「少し場所を変えよう。どこかの喫茶店に」

「は?いやいやいや、ここでいいじゃないですか!」

「いや、周りに聞かれるとまずい」

「まずい!?な、なにを話す気ですか!!生憎俺は正常なんで!」

「ど、どうしたんだ?別に変な話をするわけではないぞ?」

「すでにおかしいわ!」


誰が好き好んで男と喫茶店に行かなければならないんだ!俺はホモじゃない。女の子大好き。


「そんなに警戒しなくていい。以前あった、骸骨アンデッドの話だ」

「アンデッド?」


どうやら誘われていたわけではなさそうだ。が、喫茶店に行くのは嫌だ。


「話すなら、騎士団のとこでいいんじゃないか?」

「む。君がいいのなら、私は構わないが・・・」

「じゃあ決まりだ。そこにしよう」


話は決まった。一旦騎士団の駐留所に行くことになった。早く終わらせて、酒を飲み・・・買いに行くとしよう。




騎士団の駐留所はすぐ近くにあった。最初からここっていえよ。なんで喫茶店にしたんだよ。


「とりあえず座ってくれ」

「ん」


騎士団長に向かい合って座り、話が始まった。あ、紅茶が出された。お姉さん、ありがとう。


「単刀直入に言う。あのアンデッド達を殲滅したのは君かい?」


いきなり切り込んできたな。でも、もう見当がついているのだろう?なら、話してもいい。追われることになったら、最悪姿を変えれば見つかることはない。


「ああ。俺がやったよ。一発で終わったけど」


あれはあっけなかった。俺も強くしすぎたかもしれないが、脆すぎた。が、俺の返答に騎士団長と、その隣にいた秘書っぽい人が顔を見合わせる。


「実は、君のことを皇帝陛下が探していたんだ。君ほどの実力の持ち主は放っておけないとね」

「は?」


俺はどうやら疲れているようだ。皇帝が探している?俺のことを?いや、ありえないだろ。なんで俺なんかを・・・アンデッドの件か。


「はぁあああああああ!?」

「まあ、無理もないだろう。突然陛下に呼ばれたと言われても、実感がわかないのは当然 ── 」

「めんどくせえぇえええええ!」

「え?」


俺の言葉に、騎士団長は意味のわからないような顔をする。当然だ。めんどくさいだけだから。


「これから陛下に会えってことか!?俺のショッピング邪魔すんなよ!」

「い、いや、これは陛下からの勅命で」

「知るか!勝手に連れて行こってか!?ふざけんな!俺は今から酒屋に行って酒を満喫するんだぞ!?」


これはキレてもいいだろ?突然人連れて来いとかなめてんのかよ。俺をどうすると?俺の貴重な帝都ショッピングタイムを潰すと?


「落ち着いてください。なにもそう長い時間ではないはずです。陛下は貴方との対話を望んでおられます」

「対話?」


秘書のお姉さんが騎士団長に変わって俺に説明してくれた。おお、見事なフォロー。


「はい。アンデッドの件で、なにかしらの褒美を下さるのだと思いますが」

「うわいらねぇ」


褒美なら王国で腐る程もらった。金も全然減ってない。当然だ。使いきれるわけないくらいあるもの。


「で?いまからそこに行けと?」

「陛下は見つけ次第連れてくるようにおっしゃられています。それに従えば、すぐにでも」


・・・仕方ないか。酒はまた後だ。すぐに話が終わるなら、速攻で城から出て酒屋に向かう。アル中かもと思われるかもしれないが決してそうではない。実際、酒を飲むのは夜に1〜2杯だけだ。


「じゃあすぐに行きましょか」

「あ、君の名前を教えてくれるかい?」


そういえばまだ名乗ってない。が、本名を教えるわけにもいかないので、エルナに名乗った名前を使おう。


「ルークだ。旅人」

「うん。了解したよルーク君。随分と若いようだが・・・」

「歳は15歳だ」

「お若いですね」


そりゃ若い。なんせ俺は中学生だったんだから。今年で高校生だったが。


自己紹介を終えたところで、外に待機していた馬車に乗り込み、城に向かった。待機してあるとか何が何でも連れて行くつもりだっただろ・・・。





「どうしたものか・・・」


皇帝、ウレアーゼ=フォア=ベネトナシュは頭を抱えていた。


「まさかエルナが・・・」


元々、戦争はせず、いがみ合い程度に済ませるつもりだった。が、実の姪がさらわれたとあらば、そうも行かない。公爵令嬢を人質にするなど、戦争の勃発には十分すぎる材料だ。


「クリスはどうしているのだろうか・・・」


さらわれたとエルナの父親である公爵の顔を思い浮かべる。皇帝の義理の弟でもある公爵は、とても温厚な性格だ。一体どんな心境でいるのか・・・。


「陛下!ご報告いたします!」


突然、玉座の間が開き、皇帝はその音で顔を上げた。


「どうしたのだ?なにか進展があったか?」

「いえ。陛下のお探しでした、アンデッドを殲滅した者が見つかりました!」

「なんと!」


その言葉を聞き、皇帝は立ち上がる。そうだ、その者に協力してもらえるのなら、この状況も・・・。淡い期待を抱きながら、応接室に向かって行った。



「で、でけえ・・・」


城の敷地内に入った俺は、そのあまりのデカさに唖然とした。


「一国を背負うものの根城だ。これくらい豪勢でないと、民に示しがつかないだろ?」

「この城は国の豊かさをアピールしているのですよ」


説明をしてもらったが、それで落ち着くものでもない。皇帝の暮らしが想像できないな。


「さ、降りようか」


検問所はあったが、馬車を見た瞬間に門を開けた。誰がのってるのかとかわかっているのだろう。


俺は馬車を降り、城の中に入って行く2人の後に続いた。









「すまない。陛下に合わせて欲しい。大至急だ」

「かしこまりました」


執事らしき人に連れられ、俺たちは応接室にやってきた。仕事が早いことだ。


「陛下はすぐにいらすと思うよ。少し待ってくれ」


ソファーには俺だけが座り、騎士団長と秘書さんは俺の後ろに控えた。なんでこうなるのかな?非常に居心地が悪い。早く帰りたい。

しばらく居心地の悪い空気を味わった後、皇帝らしき人が応接室に入ってきた。


「君が、アンデッドを滅ぼした者かね?」

「一応」


俺の顔を見た途端、そんなことを言ってきた。本当の姿じゃないけどな。返信してあるし。


「そうか。いや、随分と探したよ」

「私は旅人ですから。買うものがありましたので、この国に寄らせていただいただけです」


やはり慣れない敬語は疲れるな。王国の国王とはそれなりに仲が良かったので、砕けた敬語を使っていたのだが、皇帝は初対面だ。そうも行かない。


「まずはお礼を言わせて欲しい。国を救ってくれて本当にありがとう」


皇帝陛下が頭を下げる。後ろの2人は少し驚いた顔をしているが、特に何も言わない。無論、俺も驚いてはいる。一国の王が一旅人に頭を下げるなど、聞いたことがない。


「頭を上げてください。私は自分に降りかかった火の粉を振り払っただけですので、そこまでお礼を言われることはしておりません」

「いや、しかしだな」

「アンデッドのことは気にしないでください。そうしてもらいたい」


ここであまり感謝されるのは好きではない。自分が勝手にやったことだ。感謝などもらうものじゃない。


「そなたがそういうのであれば、これ以上はやめておこう」

「助かります」


・・・で、これで終わりだろうか?ならすぐに帰りたい。


「して、今回そなたを探していた理由はだ」

「・・・そうでしたね。一体どんな要件でしょうか?」


俺は非常に落胆した気持ちを抑えながら、皇帝陛下の話に合わせる。早く、要件よ、終われ!


「本来の要件は、兵役にはつかないようにお願いをすることだった」

「だった?」


なんで過去形なんだ?もしかして、やっぱり騎士団に入れとか・・・?


「だが、話が変わった。どうか、力を貸して欲しい」

「・・・なにかあったのですか?」


皇帝陛下は真っ直ぐに俺を見据えながら頼み込む。なにかあったのだろうか?もしかして、帝都に入るときに人が異様に少なかったことと関係があるのか?


「実は、もうすぐに隣国のアルヘナ軍自国と戦争が始まるのだ」

「せ、戦争ですか!?」


だから人が少なかったのか?でも、街はそれなりに賑わっていたが・・・


「国民は戦争のことは知らんのだ。伝える前に、奴らは進軍を始めておった」

「・・・私に戦争に参加しろと?」


俺は口調をきつくしながら、皇帝を睨む。俺が戦争?冗談じゃない。そんな面倒で無意味な人殺しに参加できるわけないだろ。


「いや、違う。そなたには別の事を頼みたいのだ」

「別の事?」


一体なんだ?戦争に参加するのではないなら、一体何をしろと・・・。

俺は皇帝陛下から聞いた内容に、耳を疑うことになった。


「我の姪である公爵令嬢、エルナ=レイステンが人質にとられた」







「・・・・・・は?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る