Ep34 英雄、帝都にて

俺は以前のように森を駆け抜け、花畑のある道に出た。俺の頭上にはファルが飛んでいるのが前回と違う点か。


「魔獣がいなかったな」


今回は途中で魔獣に出くわすこともなく、あっさりと森を抜けることができた。ファルがいたので、思いっきり【強化】して走るということはしなかったが、それでも1時間くらいで森を抜けることができた。ファルも中々速い。


「ん?」


ふと、花畑の一箇所を見ると、なぜかそこだけ花が折れており、周囲に散らばっているように思えた。魔獣か何かが寝ていたのか?それにしては、なんだか暴れたような痕跡が・・・。



「ま、いいか。検問所を目指すぞ」

「ピエ!」


ひとまず検問所を目指そう。なにか嫌な予感がするが。




それから再び1時間ほど走り、俺たちは帝都の検問所に着いた。

が、検問所で順番待ちをしている時、違和感を感じた。


「人が少ないな」


以前はエルナとともに入ったので、詳しくは知らないが、今日は人が少ない気がする。俺の前に並んでいるのは10人ほどだ。


「なあ、いつもこんなに少ないのか?」


俺は前に並んでいる男に話しかけた。大きめの剣を持った若い男だ。待っている間は暇だし、話しておこう。


「ん?ああ、旅人か何かか?」

「ま、そんなとこだ」

「今日は少ないぜ。普段なら、70人は常に並んでいるようなもんだ」

「そんなにか・・・」


普段そこまで並んでいるのなら、今日はなぜこんなにも少ないのだろうか?朝だからと言っても、すでに日は昇っている。


「理由はわからないんだよな。なんせ、俺も久々に帝都に帰って来たからな」

「どこか行っていたのか?」

「仕事だよ。俺は剣士だからな。いろんな仕事を受けるんだ」


なるほど。背中に大きめの剣を背負っていたのはそのためか。


「ま、実力派あんまりないけどな」

「なんじゃそりゃ」

「男は度胸で勝負だろ?」


随分とバカのようだ。これ以上深く関わるとろくな目に合わないかもしれない。距離を置きたくなってきた。


「次!いいぞ!」

「お、俺の番みたいだ。じゃあな!」

「はいはい」


男が衛兵に呼ばれたため、俺は解放された。ナイスだ衛兵。


「とはいえ、なにかありそうだな」


この人の少なさは一体なんなんだろうか?またモンスターが大量に出現しているとか?まさかな。


「まずは帝都に入って買い物だ。買うもの買えば、人が少なくてもいい」


逆に空いていればラッキーだな。楽観的に考えながら、俺は呼ばれるのを待っていた。






「次!こっちにこい!」

「早いな」


前の男が検査に向かってから5分くらいだ。どんだけあの男の検査は早いんだ。


「帝都に来るのははじめてか?」

「2回目だな。食材とかを買いに来た」

「ほお。料理人か何かか?」

「いや、旅人」


食材だけで料理人って言うんじゃねえ。料理人に失礼だろ。


「旅人か。なにか、身分を証明するものとかはあるか?」

「そうだな。こいつの足に着いている金具なんてどうだ?」

「金具?・・・ッ!」


ファルの金具を見た瞬間、衛兵は驚愕の顔を見せた。それはそうだろう。俺は知らなかったが、この帝都の住人なら知らないものはほとんどいないと思う。


「こ、公爵家の紋章!き、君は公爵家の者だったのか?」

「いや?ちょっとした縁があってな。その時に貰ったんだ。ああ、この指輪にも同じものが」


俺はエルナから貰った指輪も衛兵に見せる。これで、あっさり通れる。


「し、失礼した。問題ないことを確認したよ。通っても構わない」

「ああ、お疲れさん」


なにこの気分。超いいんですけど。優越感が半端ない。俺は貴族か何かですか?いや違う!俺は森の村人だ!!


「さて行こう。ファルもありがとな」

「ピェ!」


俺は気を取直して、帝都の商店街に向かう。必要なものを買った後はどうしようか?ちょっと高い店にでも行こうかな?お土産も考えなくては・・・。


あれこれ考えながら、大通りを歩いて行った。




帝都の城内。謁見の間にて、皇帝の元に、1人の男が膝を突いている。


「そなたか。アルヘナの使者とやらは」

「は!」


ガタイのいい青年の見た目をした使者は、将軍からの書状を持って、謁見の間にやって来たのだ。


「して、その書状とやらは?」

「こちらにございます」


男は懐から手紙を取り出し、近づいて来た側近に手渡す。側近が書状を皇帝に渡すと皇帝はすぐさま封を開け、中身の手紙を読む。


「な、なんだと!?」


皇帝は手紙を読んだ瞬間、その顔を驚愕と怒りの顔に変えた。


「き、貴様ら!!これはどう言うことだ!!」

「申し訳ありません」


使いの男が申し訳なさそうに皇帝に謝罪をする。


「へ、陛下!一体なにが書かれていたのでございますか?」


本来、直接皇帝に聞くのは失礼なことだろう。だが、皇帝がここまで怒りをあらわにしてことなど、一度もなかったのだ。それほどまでの内容が書かれていたのだ。


「我の姪が・・・エルナがアルヘナに誘拐され、人質にとられたようだ・・・」

「「「なッ!!」」」


このことに、側近の皆が驚愕した。皇帝の姪とは、公爵令嬢であるエルナ=レイステンである。彼女を人質に取られたとあらば、戦争はもう避けることはできないことなのだ。


「申し訳ありません・・・軍はすでにこちらに向かっております・・・」

「・・・そなたは戻らんのか?」


この青年は先程から謝ってばかりだ。軍にいる自分を恥じているかのように。


「私は軍に戻るつもりはありません。今の軍は狂っています」

「そうか・・・。では、我のため、帝国のために力を貸す気はないか?」

「は?」


皇帝からの突然の申し出に、青年は一瞬わけがわからなくなった。が、構わず皇帝は続ける。


「そなたは軍について色々と知っているのだろう?なら、その情報を我々帝国のために活用してくれないか?」


軍に内部情報は今現在大変貴重だ。戦争で力となるのは事前の情報。この情報次第で、戦況は大きく変わるのだ。


「・・・ッ、承りました。このレスト=ディア=アルヘナ、帝国のために尽力を尽くします!」

「・・・いまなんと?」


皇帝は青年からでた名前に、耳を疑った。


「は?」

「そ、そなたの名前だ!もう一度言ってくれんか?」

「レスト=ディア=アルヘナですが?」


もしや、と思い、皇帝は青年に尋ねる。


「王子なのか?アルヘナの王子であるか?」

「・・・過去の話であります。今は、アルヘナの使いっ走りの兵でございます」


皇帝は今度こそ驚愕した。いや、皇帝だけではない。側近や護衛の者たちも全員が驚愕した。

この使者は、旧アルヘナ王国の王子であったのだから・・・。



「お!これも買っとこ」


露店でいい果物を見つけたので、つい買ってしまった。というのを先程から10回ほど繰り返している。


「ついつい買っちゃうな。安いからいいんだけど」


すでにたくさんの食材を買っているが、まだ買い足りない。森の中では自給自足のようなものだが、手に入らない物もたくさんある。なので、いくらあっても困らない。


「とりあえず必要なものは大体買ったか。じゃ、最後は酒だ」



俺があの酒屋に行こうとした時、声をかけられた。


「すまない。少しいいか?」

「ん?」


振り返ると、そこにいたのは茶色の少し長めの髪をした、美青年だった。



ナンパか?男に興味は無いんだが・・・・。












「退屈か?」

「ピェピェ!(そうでもない)」

「ならよかった」

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