Ep32 新しい仲間の狩猟力

「飯も食ったし、まずはファルの強さを確認するか」


昼飯を食べ終え、腹がいっぱいになったところで、俺たちは森の外に向かうことにした。鷹はかなりの狩猟能力を持っていると聞く。なら、このファルも例外ではないはず。


「狩りをするけど大丈夫か?」

「ピェ!」


いい返事だ。心配はないだろう。随分と自信があるようだし、弱くはないとリアも言っていた。


「獲物はどうするの?」


リアが今日狙う獲物を聞いてくる。鷹が狙うのにもってこいの獲物と言えば、たくさんいる。が、ファルは体が小さいため、大きいものは狙えない。


「となると、小型のラプトルか」

「あのちっこいの?」


前の世界では、ラプトルは絶滅しているのだが、この世界ではなぜか生息している。もしかしたら、別の所には恐竜もいるかもしれないな。


「あれならファルも狙えるだろ」

「確かに弱いし、ただ噛まれると厄介」

「話そうとしないからな」


噛まれているやつを見たことがある。あれは痛そうだった。かなり深くまで歯が肉に食い込んでいたため、止血するのが大変そうだったのだ。


「けど、肉は美味い」

「うん。前は捨ててたけど、零人に料理してもらってから食べるようになったよ」


ラプトルの肉は基本的に食べる人が少ない。なぜなら他にも美味い魔獣が生息してないるからだ。

だが、俺の手にかかればランクの低い肉でも極上の肉になる。全ては料理人の腕次第なのだ。


「ファルが狩れたら、今夜はラプトルのフルコースにするぞ」

「ファル。頑張ってね。夕食のためにも」

「ピェェ!!」


気合も入ったようだ。なら出発だ!美味い夕飯の食材を取りに!




村を出てから30分。幸運なことに、ラプトルの群れに遭遇することができた。


「よし。チャンスだファル。あの群れから15匹くらい狩ってきてくれ。残りはウルがやる」

「ピェ!」


いい返事で鳴くと、ファルは空高くに飛んで行った。その間に、ウルが突撃し、軽く2〜3匹のラプトルを襲う。


「ガルルルル!」

「グア!グァァァ!!」


ラプトル達も負けじとウルに突撃していくが、ことごとく跳ね返されている。ウル、強い。


「ピエエエエエエエ!!!」


突然森の中に甲高い鳴き声が響いたと思うと、ファルが急降下してきた。そのままの勢いでラプトルを捕まえると、掴んだまま空に飛び立ち、上空から落下させた。


「グァァ・・・」


落とされた先にはもう1匹のラプトルがおり、そのまま直撃。2匹はあえなく絶命した。


「ほお。なかなか強いじゃないか。魔法も使わずに」

「あれは元々の強さ。魔法を使ったらもっと強くなるはずよ」


確かに狩りには持ってこいの生物だ。が、少し速すぎないか?掴む強さも鷹とは段違いに強い。


「あれって・・・もしかして隼なのか?」


隼だとすると、名前はそのままの意味になってしまう。そこはいいのだが、かなりの狩猟能力を有していることになるのだ。ウルと互角の狩りをしている。すげぇ。


「とんでもない奴をペットにしたもんだな」


そう呟く頃には、たくさんいたラプトルが全て狩られていた。恐ろしいハンター達だ。まさに狩人。人じゃないけどな。


「ガウ」

「ピェ」


どうだと言わんばかりの視線をぶつけてくる。なんだその目は。褒めろということか?


「よし。よくやったなお前ら。今日はごちそうにしてやるからなー」

「ガウゥゥゥゥ!!」

「ピェエエエエエエ!!!」


喜びすぎだわ。森の中に響き渡ってるぞ。食い意地張りすぎだ。


「どんな料理に・・・ん?」

「今日はごちそうなんだよね?」


おっとここにも食い意地の張った野獣がいたか。ってことはまだあと2匹ほどいるな。はは。俺の料理は野獣生産機か。


「ああ。たくさん作るけど、どうかしたのか?」

「お酒を開けましょう。結構いいやつ」


なるほどな。確かにいい料理には酒が欠かせない。仕方ない。ここはいい酒を開けるとしよう。


「帝都で買った酒がまだ残ってるからな。それを開けようか」

「了解!」


上機嫌に返事をする。現金なやつだ。


「とりあえず、ラプトルを回収するぞ。リアも手伝いな」

「わかった!」


元気よくラプトルを回収していくリア。子供っぽいが、実年齢だったら俺よりかなりの上なんだよな。エルフで言ったら14だったか。


「さ、俺も回収するか」


腰の収納袋に手を伸ばしながら、俺は肉ラプトルの回収に向かった。



「これはまた・・・」

「いっぱい狩ってきましたね」


村につき、エマとカナに今日の成果を見せた。2人とも俺たちが村を出たあたりに目を覚ましたらしく、今はかなり元気だ。もう夕方だが。


「んで、こいつが俺の新しいペットのファルだ」

「ピェ!」


元気よく挨拶?をするファルに、2人はとても興味深そうにファルを覗き込んだ。


「賢いのね。よろしくファル」

「可愛いですね〜」


気に入ってもらえたようだ。ファルもなんだか嬉しそうにしている気がする。


「紹介も終わったし、飯にしようか。テーブルを片付けておいてくれ。色々乗ってると思うから」


俺が料理をするので、台拭きなどの仕事は女の子達に任せる。それくらいはしてもらわないと困る。そんな心配をしなくても、彼女達はやってくれるのだが。

片付けをしている3人を見たあと、俺はキッチンの方に足を向けた。










1時間後。テーブルにはたくさんのラプトル料理が並んでいた。唐揚げ、甘ダレ焼き、燻製、ステーキ、などなど所狭しと並べられている。たくさんあるコンロをフル活用しながら同時進行で作ったのだ。これくらいはできる。


「す、すごい量ね」

「これはまた美味しそうなものを・・・」

「お腹すきました!」


3人の女の子達は、並べられた料理を見ながら生唾を飲み込む。そんなに楽しみにしているとはな。味見の段階で美味いのは確定しているのだが。


「ガウウウウウウ!!」

「ピエエエエエエエ!!」


問題はこいつらだ。さっきからうるさい。嬉しいのはわかるが、少し静かにして欲しいもんだ。


「わかったから静かにしろ。お前達のもちゃんとこっちにある」


ペット達にはちゃんと別の皿に入った料理がある。もちろんこれも美味いが。


「も、もう食べていいの?」

「ああいいぞ。食べなさい」


リアが待ちきれないと言った感じで聞いてくるので、俺は許可をだす。冷めないうちに食べてしまわないと、美味しさも減ってしまう。きちんといただきますをしてから、食事

を始める。



「はぁ〜、美味しい」

「これも食べたことない味ね」

「前のラプトルも美味しかったですけど、このラプトルも中々・・・」


前に作った時は確かに・・・酢豚みたいにしたんだっけか。あれはあれで旨かったが、今日は作っていない。


「美味いか?」

「ガウ!」

「ピエ!」


美味そうに食べている。口にあったようだ。俺はそんな食事風景を眺めながら、帝都で買った酒を煽る。美味い。口に広がる酒の旨味が肉によく合うのだ。


「零人、私にも注いで」

「ん」


ポケッとした気分で、リアのコップにも酒を注ぐ。この娘は酒の美味さがわかる娘だ。


「・・・いい生活だな」




心の底から、俺は思った。こんなゆるい生活も、悪くない。こんな生活がいつまでも続けばいいと、本当に思う。




だが、のんびりできる時間も、残り少なくなっていた ── 。









要するに忙しくなる。

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