Ep31 英雄、鷹を飼う

とある日。


”パリィン!!”


「な、なんだ!」


突然ガラスが割れる音が響く。どうやら2階の窓が割れたようだ!俺はすぐ様その現場に急行する。


「一体なにがあって ── 」


その現場を見た俺は、言葉を途中で切った。俺の知らないものが、タンスの上にあったのだから、誰でもこんな反応をするだろう。


「・・・鷹?」


タンスの上には、鷹がいた。ピクリとも動かないのだが、置物か?めっちゃリアルなんですけど。


「なんでここに?つーかなにしに来て・・・」

「ピーヨ〜〜!!」

「どんな鳴き声だ」


完全にあの鳴き声だ。山のある海辺に出現する鳶の鳴き声だ。たしかに似ているけれども。この森でその鳴き声は目立つ。


「こいつ、来るのか?」


いうことを聞くのかわからないが、さっきから俺のことをめっちゃ見ている。ピクリともせずに。これって興味持たれてる感じか?


「・・・こっちおいで」

「ピー!」


お、腕に止まった。ちゃんと腕は【強化】してあるので、傷つくことはないが、結構重いんだな。


「とりあえず、キッチンに戻ろ」


忘れていた。今は料理中だった。こいつは肩に乗せておいて、朝食の準備をすることにした。





「さて、こいつをどうするか」

「ピィ?」


朝食を食べ終え、一息ついているところでこいつをどうするかを考える。一体どこから迷い込んで来たのやら。ちなみに、俺が肉を調理して出してやったところ、すんなり食べた。人懐っこい性格ではあるようだ。


「狩りの役にたつと思っていいのか?だとしても・・・ん?」


そこで俺は気がついた。 腕に止まっている鷹だが、足にドラゴンの紋様が書かれた金具をしている。この紋章はどこかで・・・


「あ」


思い出した。このドラゴンの紋様は、帝国の公爵家の紋様だ。たしか・・・レイステン公爵家だったか?


「ということはあの家のペットてことか?」


それにしては不自然だろう。ここは存在自体明かされていない村だ。どうしてこの場所を特定できたのか。そして、途中で魔獣に襲われなかったのか。見た感じだが、あまり強そうには見えない。一般的な鷹といったところだ。


「・・・預かるか」


しばらく悩んだ末に導き出した結論は、一旦うちで預かる。あの公爵令嬢、エルナにはいずれ再会するだろうし、その時にでも返せばいい。・・・近いうちに帝都に行くかもしれないし。


「調味料の減りが早いんだよな〜」


鷹を肩に乗せまま、俺は1人呟いた。




「零人・・・ってなにそれ?」


リアが家に入った途端に言われた。ま、頭の上に鷹が乗ってるんだから無理もない。俺でもそんな反応する。


「家に突っ込んで来たから飼うことにした」

「突っ込んで来た?どういうこと?」


とりあえず経緯を説明。リアは納得したようだ。


「なるほどね。で、狩りか何かに連れて行くの?」

「そのつもりだ。けど、こいつも一応公爵家のものだからな。怪我はさせられん」

「過保護すぎるのもどうかと思うけど。それに、その子自体弱くない」

「え?わかるの?」


こいつ弱くないのか?見た感じ、猪とかの方が強そうに見えるんだけど。


「その子、魔法が使えるんだと思う。その金具から魔力が出てるし」

「これから?」


俺は魔力を感知することができない。魔法適正が一切ない俺にはわからないのだ。一応、自分の魔力はあるのにな。


「これは・・・風かな。風の魔法が付与されてる」

「さすが公爵家か。動物にそこまでの物を付けるとは」


魔法が付与されたものは高い。1つで家が買えるんじゃないか?


「それだけこの子が大切なんじゃないの?」

「じゃあなんで逃げてんだよ」

「それは知らない」


勝手に・・・かはわからないが、とにかく逃げ出して来ているのは間違いない。こんな森の奥に来るなんて普通は無理だしな。


「ま、一旦俺のペットってことになるな」

「ウルが拗ねるかもね」

「大丈夫だ。あいつも狩りには連れて行く」

「なら大丈夫そうね」


今日から(一旦)うちのペットになりました。さて、1番重要なことを決めますか。


「名前どうしようか」

「名付け親は零人だよ。私のペットじゃないし」


それはごもっとも。どんな名前にしようか。公爵家の鷹だから、ちなんだ名前にしたいところだ・・・ダメだ、エルナの顔が脳裏を過る。顔・・・というか、あの口付けのことか。


「どうしたの?」

「なんでもない。名前を考えているところだ」


公爵家にちなんだ名前はやめておこう。名前を呼ぶたびにあれを思い出すのはやばい。


「ファルコン・・・ファルでいいか」

「ピェ!」


こいつの名前が決まった。ファル。めっちゃ単純だとは思うんだが、仕方ない。名前付けるのは大変なんだ。


「ファルね。いい名前だと思うよ」

「そりゃどうも」


この世界に英語・・・っぽい単語もあるけど、そんなに広くは浸透していない。なので、鷹の英語などわからないだろ。実際には隼だけどな。ホークだと名付けづらいし。


「よし。ちょっとウルと会ってみるか」

「ピェ?」


次はもう1匹のペットの元に行くことにした。仲良くしてくれるかはわからないが。




「ウル!」

「ガウ!!」


俺とリア、それとファルはウルのいる小屋までやって来た。俺の家のすぐ隣に設置した少し大きめの小屋、ここがウルの家になる。ちゃんとした作りになっているので、快適に暮らしていと思う。


「ウル。今日から一緒に暮らすファルだ。仲良くするんだぞ?」

「ガウ?」


少し首を傾げてから、地面に降り立ったファルに近づき匂いを嗅ぐ。イヌ科の本能か?


「ガウ」

「ピェ。ピェピェ!」

「ガウガウ!」


よくわからんが、仲良くなったようだ。ファルがウルの頭の上に乗っているし。ひとまず安心だな。ここで喧嘩されたら小屋をぶち壊しかねない。それは勘弁。


「後でエマとカナにも紹介しないとな。そういえば2人はどうしたんだ?」


今日は2人が来ていないことに気がついた。遅いけど。


「2人はまだ寝てる」

「寝てる?随分と遅いな」


もう昼に近い時間帯になるが、まだ眠っているのか?いつも早い2人からして珍しい。


「昨日は遅くまで部屋の片付けをしてたから、それでだと思うけど」

「なるほどな」


寝ているなら仕方ない。紹介はまた後でにしよう。


「軽くなんか作るか。食べる?」

「うん!」


相変わらず料理のことになると反応がいい。人のこと言えないけどな。














「仲良くなったの?」

「ガウ!」

「ピェ!」

「よかったよかった」

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