Ep31 英雄、鷹を飼う
とある日。
”パリィン!!”
「な、なんだ!」
突然ガラスが割れる音が響く。どうやら2階の窓が割れたようだ!俺はすぐ様その現場に急行する。
「一体なにがあって ── 」
その現場を見た俺は、言葉を途中で切った。俺の知らないものが、タンスの上にあったのだから、誰でもこんな反応をするだろう。
「・・・鷹?」
タンスの上には、鷹がいた。ピクリとも動かないのだが、置物か?めっちゃリアルなんですけど。
「なんでここに?つーかなにしに来て・・・」
「ピーヨ〜〜!!」
「どんな鳴き声だ」
完全にあの鳴き声だ。山のある海辺に出現する鳶の鳴き声だ。たしかに似ているけれども。この森でその鳴き声は目立つ。
「こいつ、来るのか?」
いうことを聞くのかわからないが、さっきから俺のことをめっちゃ見ている。ピクリともせずに。これって興味持たれてる感じか?
「・・・こっちおいで」
「ピー!」
お、腕に止まった。ちゃんと腕は【強化】してあるので、傷つくことはないが、結構重いんだな。
「とりあえず、キッチンに戻ろ」
忘れていた。今は料理中だった。こいつは肩に乗せておいて、朝食の準備をすることにした。
◇
「さて、こいつをどうするか」
「ピィ?」
朝食を食べ終え、一息ついているところでこいつをどうするかを考える。一体どこから迷い込んで来たのやら。ちなみに、俺が肉を調理して出してやったところ、すんなり食べた。人懐っこい性格ではあるようだ。
「狩りの役にたつと思っていいのか?だとしても・・・ん?」
そこで俺は気がついた。 腕に止まっている鷹だが、足にドラゴンの紋様が書かれた金具をしている。この紋章はどこかで・・・
「あ」
思い出した。このドラゴンの紋様は、帝国の公爵家の紋様だ。たしか・・・レイステン公爵家だったか?
「ということはあの家のペットてことか?」
それにしては不自然だろう。ここは存在自体明かされていない村だ。どうしてこの場所を特定できたのか。そして、途中で魔獣に襲われなかったのか。見た感じだが、あまり強そうには見えない。一般的な鷹といったところだ。
「・・・預かるか」
しばらく悩んだ末に導き出した結論は、一旦うちで預かる。あの公爵令嬢、エルナにはいずれ再会するだろうし、その時にでも返せばいい。・・・近いうちに帝都に行くかもしれないし。
「調味料の減りが早いんだよな〜」
鷹を肩に乗せまま、俺は1人呟いた。
◇
「零人・・・ってなにそれ?」
リアが家に入った途端に言われた。ま、頭の上に鷹が乗ってるんだから無理もない。俺でもそんな反応する。
「家に突っ込んで来たから飼うことにした」
「突っ込んで来た?どういうこと?」
とりあえず経緯を説明。リアは納得したようだ。
「なるほどね。で、狩りか何かに連れて行くの?」
「そのつもりだ。けど、こいつも一応公爵家のものだからな。怪我はさせられん」
「過保護すぎるのもどうかと思うけど。それに、その子自体弱くない」
「え?わかるの?」
こいつ弱くないのか?見た感じ、猪とかの方が強そうに見えるんだけど。
「その子、魔法が使えるんだと思う。その金具から魔力が出てるし」
「これから?」
俺は魔力を感知することができない。魔法適正が一切ない俺にはわからないのだ。一応、自分の魔力はあるのにな。
「これは・・・風かな。風の魔法が付与されてる」
「さすが公爵家か。動物にそこまでの物を付けるとは」
魔法が付与されたものは高い。1つで家が買えるんじゃないか?
「それだけこの子が大切なんじゃないの?」
「じゃあなんで逃げてんだよ」
「それは知らない」
勝手に・・・かはわからないが、とにかく逃げ出して来ているのは間違いない。こんな森の奥に来るなんて普通は無理だしな。
「ま、一旦俺のペットってことになるな」
「ウルが拗ねるかもね」
「大丈夫だ。あいつも狩りには連れて行く」
「なら大丈夫そうね」
今日から(一旦)うちのペットになりました。さて、1番重要なことを決めますか。
「名前どうしようか」
「名付け親は零人だよ。私のペットじゃないし」
それはごもっとも。どんな名前にしようか。公爵家の鷹だから、ちなんだ名前にしたいところだ・・・ダメだ、エルナの顔が脳裏を過る。顔・・・というか、あの口付けのことか。
「どうしたの?」
「なんでもない。名前を考えているところだ」
公爵家にちなんだ名前はやめておこう。名前を呼ぶたびにあれを思い出すのはやばい。
「ファルコン・・・ファルでいいか」
「ピェ!」
こいつの名前が決まった。ファル。めっちゃ単純だとは思うんだが、仕方ない。名前付けるのは大変なんだ。
「ファルね。いい名前だと思うよ」
「そりゃどうも」
この世界に英語・・・っぽい単語もあるけど、そんなに広くは浸透していない。なので、鷹の英語などわからないだろ。実際には隼だけどな。ホークだと名付けづらいし。
「よし。ちょっとウルと会ってみるか」
「ピェ?」
次はもう1匹のペットの元に行くことにした。仲良くしてくれるかはわからないが。
◇
「ウル!」
「ガウ!!」
俺とリア、それとファルはウルのいる小屋までやって来た。俺の家のすぐ隣に設置した少し大きめの小屋、ここがウルの家になる。ちゃんとした作りになっているので、快適に暮らしていと思う。
「ウル。今日から一緒に暮らすファルだ。仲良くするんだぞ?」
「ガウ?」
少し首を傾げてから、地面に降り立ったファルに近づき匂いを嗅ぐ。イヌ科の本能か?
「ガウ」
「ピェ。ピェピェ!」
「ガウガウ!」
よくわからんが、仲良くなったようだ。ファルがウルの頭の上に乗っているし。ひとまず安心だな。ここで喧嘩されたら小屋をぶち壊しかねない。それは勘弁。
「後でエマとカナにも紹介しないとな。そういえば2人はどうしたんだ?」
今日は2人が来ていないことに気がついた。遅いけど。
「2人はまだ寝てる」
「寝てる?随分と遅いな」
もう昼に近い時間帯になるが、まだ眠っているのか?いつも早い2人からして珍しい。
「昨日は遅くまで部屋の片付けをしてたから、それでだと思うけど」
「なるほどな」
寝ているなら仕方ない。紹介はまた後でにしよう。
「軽くなんか作るか。食べる?」
「うん!」
相変わらず料理のことになると反応がいい。人のこと言えないけどな。
「仲良くなったの?」
「ガウ!」
「ピェ!」
「よかったよかった」
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