Ep22 英雄、買い物中に
酒屋から出た俺は、次に食材を見ていくことにした。食材に関して言えば、露店にたくさん売られているので、店に入る必要はない。いいものもあれば、悪いものもあるのだが。
「まずは・・・調味料かな」
まずは料理の味付けになる調味料からだ。調味料は森の中だと手に入りずらい。俺が1から作ることもできるが、それはかなりめんどくさい。帝都にはそれなりに多くの調味料が揃っていると思うので、この機会にたくさん買い込んでおきたいのである。
「お?これはもしや・・・」
俺は露店にある調味料の一つに目をつけた。
「いらっしゃい!兄ちゃん、こいつがきになるかい?」
「あ、ああ。昔見たことがあってな」
俺が目をつけたのは、まるでカレー粉のような調味料だ。いや、マジでカレー粉。香りも完全にそれだし。
「それはカルっていう木ノ実から作られた調味料だ。少し辛いのが特徴だね」
「・・・これ全部くれ」
「毎度!!」
完全にカレー粉でした。これは料理の幅も広がる。全部買っても問題ないな。森の中だから、いつ帝都にこれるかもわからないし。あんまりあの娘たちを置いていくわけにもいかないからな。
俺はカレー粉を受け取り、他の露店も見ていくことに。
「なんだか・・・主夫だな」
商店街で食材の買い物をするなど、完全に主婦・・・もとい主夫の仕事である。俺はお母さん(お父さん)になったつもりはない。が、買い物楽しいのも事実。
(・・・まぁいいか)
これが俺だと割り切ることにし、商店街の食材を片っ端から見ては買い物を続けた。
◇
その頃。エルナ=レイステンは自宅の庭で、お茶を楽しんでいた。高級そうなカップとポット。様々な種類のお茶菓子。そして、零人から貰ったジャムがテーブルの上に置かれている。暖かな太陽がエルナを照らし、長い銀髪を美しく照らしている。
「ふふ。一体どんな味がするのでしょう?」
1人つぶやきながら、貰ったジャムを眺めている。と、そこで側にいた執事の女性がエルナに話しかける。あの殺されそうになった執事、ルージュである。
「お嬢様。先ほどは大変失礼いたしました。まさか、助けていただいたお方にお礼を申し上げることもできないとは ── 執事としてあるまじき行為であります」
「いいのよルージュ、あなたはそれだけ大変だったのだし、私を守ってくれたじゃない。それに、ルークさんはそんなことに怒るような方じゃないわ」
ルージュの謝罪を、気にしていないと言うように流すエルナ。この公爵令嬢は実に寛大で広い心の持ち主であると、王族貴族の間でも評判なのだ。
「ありがとうございます。それにしても、何故そのようなことがお分かりになるのですか?」
「実際に話したからよ。不思議な人だった、お礼もいらないっていってくれた人だし。なにより、私たちを助けたことを当然のことのように話していたわ。優しくて、とってもいい人だった」
「・・・左様でございますか」
後半から、頬を若干染めながら語る主人に、ルージュは不安を覚えながら、エルナに質問した。
「して、そちらのものは?」
「ああ、これ?ルークさんからいただいたの。彼のお手製のジャムっていう食べ物だそうよ。パンやクッキーにつけて食べるの」
ルージュは先程からテーブルに置かれていたジャムが気になっていたようだ。彼女自身が用意したものではないため、エルナが自分で用意したものだと思っていたのだろう。
「それで、味の方は?」
「まだ食べていないのだけれど・・・どれどれ?」
ルージュに味を聞かれたため、エルナはジャムを少しスプーンで掬い、口に含む。と ── 。
「!?」
「ど、どうなされました!?」
エルナが驚愕の表情をつくり固まったので、心配したようにルージュが声をかける。
「お、おいしい」
「そ、そうなんでございま ── 」
「食べたことないくらいの美味しさよ!!これをルークさんは自分で作ったていうの・・・。これは、革命的よ。お茶菓子の常識が変わるような美味しさ・・・」
「そ、そこまででございますか?」
あまりの反応に、ルージュは困惑の表情を作る。正直信じられない。そこまでの美味しさのものがあるのか?
「あなたも食べて見なさい!!味合わないと損よ!!」
「え?しかし・・・」
本来、主人の食べ物に執事が口をつけるのは常識的にありえないことだ。エルナは気にしないだろうが、執事としてはどうかと思う。が、あまりにもエルナがしつこく勧めてくるので、仕方なく口をつける。と ── 。
「 ──ッ!!これは!」
「美味しいでしょう?これはすごいわ」
ルージュ自身もあまりの美味しさに驚いてしまった。これほどまで味の物を作るとは・・・。どこかの王族のお抱えのコックと言っても信じられる。
「あの、お嬢様・・・」
「なに?」
が、ルージュは先程から心に引っかかっていることを口にした。
「助けていただいて、しかもこれほどの物までいただいてしまったのに、こちらからは何もできていないというのはどうかと・・・」
助けて貰って、そのうえ贈り物までして貰ったのにも関わらず、なにもお返しをしないというのはどうかと思ったのだ。
その言葉に、エルナは反論をする。
「仕方ないでしょう?なにもいらないって言われたのだし、受け取ってもらえなく・・・いえ?」
「?どうかされましたか?」
突然、頬を赤くして黙り込んだエルナに、訝しげな視線を送りながら呼びかけるルージュ。そして、次にエルナから聞いたことに、驚愕することになる。
「実は、2つだけ、受け取ってもらえたものがあるの」
「それは?」
「私の口付けと、婚約の指輪」
「・・・・・・はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああ!!!!!!!?」
絶叫が庭に響き渡る。顔を真っ赤にしながら身をくねらせているエルナ。それは、完全に恋に溺れた乙女の姿に他ならなかった。
「ほ、ほほほ本当に?」
「ええ。私は受け取って貰ったわ」
「お、お父上はこのことをご存知で?」
「まだ言っていないわ。護衛のことと、襲撃のことしか伝えていないから」
これは一大事である。本人はシレッとしているが、公爵令嬢が一旅人に恋をしてしまったのだ。それがどれだけ重要なことか、理解しているのだろうか?
「無論。いつか話すわ。でも、たとえお父様であろうと、この気持ちは変えられないわ」
エルナの断固とした決意に、ルージュは肩を落とすしかなかった。
◇
もうすでに夕方。俺は様々なものを買うことができ満足している。肉に野菜に香辛料、酒、家具、それから調理器具。実に充実した1日を過ごすことができた。
「さて、そろそろ帰るか・・・」
俺は森に帰ろうとした時、帝都に響いた叫び声を聞いてしまった。
「だ、だれか助けてくれええええええ!!!!」
「な、なんだ?」
男の悲鳴が聞こえ、周囲の人たちも騒ぎ始める。一体なにが?
「が、骸骨の軍勢が攻めてきたぞ!!!」
・・・ふぁ?
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