Ep21 英雄、酒屋へ

エルナと別れた俺は、市民街の商店街をふらついていた。が、買い物には全く集中できていない。先程の口付けの件が、頭から離れないでいるのだ。


「まさかあんな形でお礼をされるとは・・・」


頭の中にあるのは困惑、動揺、驚きといったもの。あんなことを突然されれば、誰だって驚くだろう。しかも、あんな顔をされるたのだ。こっちも何だか恥ずかしくなる。


「・・・恋したってことはないな・・・」


俺は自分の中にある感情を確認する。とりあえず、恋愛感情をエルナに抱いたことはない。いや、特別な存在になっているのかもしれないが、これはリアたちに抱いている感情と同じだと思う。それは親愛。恋ではなく、情が湧いたのだろう。


「でもあんなことになるとは・・・流石異世界だ」


あらためて異世界の凄さ?を実感する。以前の世界なら、こんなことは100%ありえない。


「エルナの方は・・・どうなんだろう?」


そこがわからなかった。俺は彼女に情が湧いただけなのだろうが、向こうはどうなんだろう?貴族だし、そういうことに慣れているのだろうか?だが、初めてといっていたな。それは唇には、ということで、ほっぺとか額にはあるのだろうか?


「あんまりそういうことを考えちゃいけないな。それに、俺なんかが釣り合うわけないし、なにより森の生活に支障をきたす」


深く考えるのは良くない。妙なことを考えるのは、彼女に対しても失礼だ。

俺はこの件を置いておくことにし、買い物に集中することにした。





「とりあえず、酒屋だな」


まず、俺は酒屋に向かう。こちらの酒を味わってみたい。それに、蛇の時に沢山酒を消費してしまったので補充も兼ねている。たくさん買おう。

大通りを曲がり、少し細い路地に酒屋はあった。まあ、どこにでもありそうな酒屋だ。


「いらっしゃい!!」


中に入ると、少し小太りの店主とみられる男が出迎えた。居酒屋じゃないだろここは。


「すまんが、この店で1番いい酒はあるか?」


俺はとりあえず、1番いい酒を出してもらうことにした。それで不味ければ、この店はハズレだからだ。

俺の言葉に、店主は目を丸くした。


「1番いい酒か?それならあの棚の上にある酒樽だが・・・値段は高いぞ?」

「かまわない。金ならある」


俺は収納袋の中から白金貨を1枚取り出し店主に見せる。と、店主は驚きの顔を見せ、俺に訪ねてきた。


「いや、驚いた。あんたまさかお忍びの貴族か何かかい?」

「旅人だ。金が入ることがあったから、それなりに持っているだけだ」

「そうなんか。まあ、いいぜ。どうする?試飲していくか?」

「そうするよ」


店主は酒の入った酒樽に柄杓ひしゃくを入れ、それを汲んでから俺に渡してくれた。それを俺は、ゆっくりと飲む。


「・・・これは美味い酒だ」

「気に入ったか?こいつはたまにしか仕入れることができない酒でよ。なんでも極少数の民族が作っている酒らしい」

「ほぉ。秘境の種族か」


この世界には、あまり知られていない種族がたくさんいる。そこの種族と交易のある誰かが、この酒を仕入れているのだろう。


「店主。これを店にある分くれ」

「全部か?だが、全部買っても白金貨1枚の金額にはならないぞ?」

「なら、俺が気に入った酒を酒樽に2つ分ずつもらう。それでも足りないなら、それはこの酒の試飲分だと思って受け取ってくれ」

「いいのか?ま、お前さんがいいなら俺としては文句はないけどよ」

「交渉成立だな」


それから俺は、店の中の酒を次々試飲していき、気に入った酒を売ってもらった。俺は大満足。店主もいい顔をしながら、店から出る俺を見送ってくれた。


酒は全部で酒樽70個分くらいになった。次はどこに向かおうか。俺はワクワクしながら大通りを歩いていった ── 。






〜その頃のリア達〜


「む!そこよカナ!!」

「お、お姉ちゃん!!連携をちゃんととって!」

「これは、連携とるの難しそう・・・」


森でしっかりと狩りをしていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る