Ep20 英雄、初めての経験

帝都に着くまでの時間、俺は公爵令嬢様に質問責めにあった。とにかく色々聞かれたため、もう俺は帝都に入るまでに疲れ切っていた。歩いてもないのにね。


「あ、帝都に着きましたよ!」

「やっとか・・・」


公爵令嬢様に言われ、俺は外を見た。帝都はやはり賑わっていたが、王国とはどこか雰囲気が違う賑わいを見せていた。


「それで、エルナ令嬢 ── 」

「私のことはエルナとお呼びください。それから、敬語も不要です」

「え?いやしかし ── 」

「エ・ル・ナ。さ、エルナと呼んでください!」

「・・・エルナ・・・」


公爵令・・・エルナは名前を呼ぶと、「はい ♪」と、嬉しそうに返事をした。なにこれ懐かれてんの?


「さて、ルークさんはこれからどうするんですか?」

「とりあえず、帝都を散策しま・・・するよ。そこで食材とかを買っておきたい」


一瞬、敬語を使いそうになったところ、エルナに目を細められたので、慌てて直した。危ない危ない。


「食材ですか?旅のものでしたら、保存食とか?」

「いや、新鮮な食材だ。俺は収納袋を持っているから、腐らないし」

「収納袋ですか。それはまた・・・商人たちが喉から手が出るほど欲しい物ですね」


それはそうだろう。なにせ中の物の時間を止めるので、物は腐らないし、沢山入る。商人にはうってつけの道具だ。そう簡単に手放すわけがないが。


「そうだな。ま、なんにせよここまで送ってもらってありがとう」

「お礼を言うのはこちらです。本当にありがとうございました」


エルナに恭しく礼をされ、俺は少し照れくさくなった。そこで、照れ隠しついでにあのラズの実のジャムをあげることにした。


「これは?」

「それは俺が作ったジャムだ。美味しいから、パンにつけて食べるといい。きっと気にいると思うよ」


これが嫌いな女性はいないだろうと自分では思っている。それだけの味だ。保証する。


「わかりました。楽しみにさせていただきます。では、私からはこれを」

「?指輪?」


エルナから差し出されたのは、銀色の指輪。中央には家紋と思わしきドラゴンのマークが彫られていた。


「ええ。それは魔除けの指輪。持ち主に幸運を呼ぶ物です。そう言われているだけですが。私からのお礼です」

「いいのか?高いものなんじゃ?」

「値段など気にしてはいけません。それに、私は一応公爵令嬢ですので」

「そうだったな。ありがとう。身につけておくよ」


俺は右手の人差し指に指輪をはめた。エルナも同じ指輪をしているので、流石に薬指につけるわけにはいかなかった。結婚しているわけでもないし。


「じゃあ、俺はこの辺りで失礼するよ。ここから先は貴族街だろ?なら、俺は用はないし」


馬車はいつの間にか、貴族の住宅街へとさしかかっていた。無論、襲撃した男たちは、警備兵に突き出してある。


「そうですか・・・。もっとお話しがしたかったのですが」

「すまないな。縁があれば、また話そう」

「そうですね。では、最後に一つ ── 」

「ん? ──ッ!!」


馬車を降りようと、外に足を出した時だった。声がしたので振り返ってみると、目の前にはエルナの顔があり、そして ── 。


「「・・・」」


俺の唇は、エルナの唇で塞がれていた。すぐ近くには、エルナの真っ赤になった顔があり、それがとても美しく見えた。長い白髪も、蒼い瞳も、とても美しい。時間にして5秒ほどだろうか?唇が離れた後、エルナは顔を赤くしたまま俺に囁いた。


「これは・・・また会うためのおまじないです。言っておきますけど、初めてだったんですからね?」

「あ、ああ。お、おまじないだな。うん」


俺は初めての感触に戸惑いながらも、その唇に残る余韻を感じていた。


「そ、それでは!また会いましょう!」

「あ、また敬語になっていますよ?ちゃんと直しておいてくださいね?」


笑顔で俺に向かって言うと、そのまま貴族街に入ってしまった。


「・・・最後のは反則だろ・・・」


俺は自分の高鳴る胸の鼓動を感じながら、しばらくその場に立ち尽くしていた ── 。




零人と別れたエルナは、1人馬車の中で唇に残る余韻を楽しんでいた。


「・・・ふふ」


今日は本当にいい日だ。族に襲撃され、護衛の方々を失ってしまったのはとても悲しいことだ。が、その一方で、自分の運命とも言える出会いをすることができた。銀色の髪に、赤と蒼の瞳をした、不思議な少年。


「また、会いたいですね・・・」


エルナは右手で唇をなぞりながら、先程の口付けのことを思い出す。あの時の彼の顔も、エルナをとてもときめかせた。びっくりしたような顔をした後に見せた、あの照れている表情。族を1人で全滅させた者とは思えないような可愛らしい表情に、エルナはとてもときめいた。


「大丈夫です。この指輪が、私たちを再び巡り合わせてくれます」


エルナの左手の薬指には、さきほど零人にあげた物と同じ指輪。これは、自分の全てを捧げてもいいと、心から思った相手に差し出すために母からもらった物。


「楽しみにしていますよ。ルークさん」


左手を胸に抱き、エルナは朗らかな表情で目を閉じた ── 。










「俺、まだ心臓バクバク言ってるわ・・・」

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