Ep18 英雄、帝国に向かう

姿を戻すことなく過ごすこと2日。俺はこの顔になることに慣れていた。顔自体は変わっていないが、俺の髪と眼の色か。2日もすればそりゃ慣れる。


「さて、じゃあ行きますか」


木の家のリビング。そこで俺は出かけるための身支度を整えていた。今日はこの姿でとあるところに行くつもりでいる。


「あいつらを連れて行ってやりたいところだけど、獣人とエルフは厄介なことに巻き込まれやすいからな」


人間の国では、獣人やエルフなどの差別が激しい。特に獣人が、だ。エルフなども、その整った顔立ちから、奴隷としての人気が高い。あまりお目にかかれるものではないので、値段もそれなりにするが。

俺は奴隷市場などなくていいと思っている。あれは不潔だ。人間の醜悪が詰まった場所。奴隷たちの悲劇の始まりの場所である。


「帝国には絶対にあるだろうけど、なるべく近づかないようにしないとな・・・」


俺は奴隷市場には行かないようにしようと決意。

さらっと本題の場所が出たが、俺はこれから森の南にあるベネトナシュ帝国に行くつもりである。本当は近づかないようにした方がいいかと思った。万が一正体がバレたら面倒なことになりそうだからだ。


「一応、表向きは犯罪者扱いされてるからな」


俺はアークツルス王国の犯罪者として扱われている。俺が王国を救った英雄というのは一部の者しか知らない。

王国と友好的な関係にある帝国でも、俺の名前が知られているかもしれない。


「ま、いいか。今は気にすることもないし」


が、俺はこのマントを手に入れた。顔を変えられないとはいえ、髪の色も目の色も違う俺を如月零人と見破るものなどいやしない。俺は安心して帝国を散策できるということだ。

── と。


「あれ?どこかに行くの?」

「あたしたちを置いてどこに行こうっていうわけ〜?」

「お出かけ、ですか?」


リア、エマ、カナの3人がリビングに入ってきた。だからノックしろって・・・。


「ちょっと帝国まで。帝都で買い物をしてくる」

「「「帝国?」」」


綺麗に3人の声が重なった。帝国を知らないのか?いや、知っているか。リアも前に言ってたし。


「そう帝国だ。あ、3人は連れていけないからな」

「?なんでよ」

「あそこ・・・っていうか、人間の治める国では人種差別が激しいんだ。エルフや獣人は捕まえられて奴隷にされるぞ?」

「ほ、本当?」

「そ、それは勘弁・・・」

「こ、怖いんですね」


3人がいい感じに怖がっている。これならついて行くとかは言わないだろう。大丈夫だな。


「そうだ。帝都で襲われたら守りきれない。だからお留守番」

「確かに危険すぎるわね」

「お土産は買ってきてやるから安心しろよ」


帝国と言ったら何だろうか?とりあえず酒は買ってくるとして、他には ── 。


「質問します。帝都のお菓子を買ってくるか、俺が帝都で食材を買ってきてお菓子を作る。どっちがいい?」

「「「後者で」」」


やっぱりか。俺の料理の方に肥えてしまったようだ。が、俺は一応帝都のお菓子も買ってくることにした。大丈夫。金なら腐る程ある。


「わかった。一応帝都の物も買ってくるから、食べ比べにしよう」

「そうこなくっちゃね」

「楽しみにしてる」

「ありがとう、ございます」


うんうん。3人ともこれで納得してくれたようでよかったよかった。

さて、陽も結構昇ってきてるし、そろそろ行きますか。


家を出て、少女たちに手を振りながら俺は村を後ろに走り出した。



前回は村に来るまでにそれなりの時間がかかった。が、今回は違う。なにせ俺1人だからである。前回はリアが一緒にいたため、彼女の速度に合わせていたのだ。今回は【強化】を以前よりも強く使う。


俺の唯一の力は、この【強化】だ。これは魔法ではなく、この世界に来る時に女神様からもらった、謂わばプレゼントだ。

この【強化】はかなり応用性が広く、使い道も様々である。

今の俺は足と体力を【強化】しているため、スピードも速く、かつ疲れもしないというスペックである。


「 ── 魔獣か」


俺は高速の世界の中で、魔獣を発見。即座に撃退、討伐の体制に入る。


「キシャアアアアアア!!」


俺の目の前に出てきたのは大きなトカゲだ。やはり俺を狙っているらしく、舌を出して様子を伺っている。


「食われるかよ」


俺は吐き捨て、強化した足で瞬時にトカゲの頭上へと飛ぶ。次の瞬間に、足を振り下ろし、見事な踵落としを御見舞いする。


”バゴンッ!!”


大きな音を立てながら、トカゲのいた部分にはクレーターが出来上がり、砂埃が舞い上がった。


「・・・」

「呆気ないな」


俺は先ほどまでトカゲのいた場所を一瞥すると、帝国を目指し、再び走り始めた。


後には大きなクレーターと、折れた木々、そして頭部の消えたトカゲの死骸が残されていた。








「靴汚れた・・・」

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