Ep15 英雄、弱点発覚

俺たちは洞窟の中を進んでいた。その際、ずっとカナを抱えていたのだが、カナはかなり大人しく俺に抱っこされていた。


「下ろすか?」

「い、いえ・・・このままで、大丈夫です・・・」


先ほどまでのあわてっぷりはどこにいったのか。


「零人、魔獣が出たわ」

「お、やっとか」


エマに声をかけられ前方を伺うと、妙に手足の長い蛙のような魔獣が出て来た。舌を出している。キショいな。


「気圧【強化】」


俺は瞬時に蛙にかかる空気圧を【強化】。蛙はあっという間に押しつぶさてしまう。呆気ない。


「本当に零人がいると楽よね」

「どんどん倒してくれる」

「マジで俺を便利屋と思うなよ」


どんどんそんな扱いになって来ている。やめてくれ。


「にしても、結構潜ったと思ってたんだが、まだこいつしか魔獣がいないな」


そう。俺たちはもうすでに20分ほど探索を続けているのだが、出て来た魔獣はこいつだけである。一体なぜ?もっと出て来てもいいと思うのだが・・・。


「いいじゃない。探索が楽になるわけだし」

「うん。楽な方がいい」

「そう、ですね」

「お前らは出て来ても出てこなくてもおんなじだろ」


どうせ倒すの俺だからな。


「この前の狩りでは手を出すなっていうし、今回は戦わないし」

「今日は狩りをしたい気分じゃないのよ」

「単にどんな魔獣が出てくるかわからないから怖いだけ。だから任せてるの」

「ちょ、リア!?」


ははーん。怖いってことか。なるほどな〜。そういうことか〜。


「可愛いところもあるじゃないか」

「は!?な、な、何いってのよ!」

「言葉通りに意味だ」


赤くなってしまった。面白いやつだな。


「とりあえず先に進もうぜ。多分そんなに強いやつは出てこないだろ」


今の蛙の手応えからして、それほど強くない。なので、このまま進んでもあまり問題はないだろう。


赤くなっていエマ、それを無言で見つめるリア、相変わらず俺に抱えられながらも俺にしがみついているカナ。

なんとも冒険には似つかわない雰囲気の中、洞窟の奥を目指すことにした。




1時間後。

俺たちは何度か魔獣に遭遇した。が、特に強い魔獣はいなかった。みんな爬虫類とか昆虫系で見た目に難があったが。


「私たちだけでも全然倒せたね」

「そうね。倒せたわ。これなら最初から戦っておけばよかったかもね」

「私は無理だよ・・・・」

「カナは抱えられてなさい」


エマとリアは調子が出て来たようだが、カナは相変わらずだ。怖いのなら無理をしなくてもいいんだぞ?


「ご、ごめんなさい・・・」

「苦手なものは誰にでもあるんだ。俺にだって・・・」

「え?零人さんって、苦手なものがあるんですか?」

「意外ね」

「意外」


俺をなんでもできるやつとか思うなよ。人間なんだから、苦手なものだってある。


「ちなみに、何が苦手なんですか?」

「ゴキブリ。あのキモいカサカサ動くやつ」

「あ、あの黒い虫ですか?!」

「そう」


あれだけは本当に無理だ。あれと早退して大丈夫な意味がわからない。あれはダメだ。見るだけで力が入らなくなる。


「で、でも、【強化】で倒せば・・・」

「触りたくない。無理です」

「本当に嫌いなのね・・・」


エマ。呆れた目をしないでくれ。あれだけは本当にダメなんだ。視界に入れたくもない。


「・・・とりあえず進むぞ」

「は、はい」

「なんだか・・・・ね」

「嫌な予感がする」


俺もそうだが、なんだか嫌な予感がした。その予感はすぐあとに、的中することになる・・・。









「あああああああああ””!!!」


洞窟内に俺の絶叫が木霊する。出やがった!!あいつが出やがった!!


「ちょ!落ち着きなさいよ零人!!」

「れ、冷静になってください!」

「こんな零人。初めて見た・・・」


3人が何か言っているが、俺には聞こえない。それどころではないのだ。本当になんでいるんだよ!!


「なんでゴキブリ出てくんだよ!」


俺の目の前には、特大サイズのゴキブリが鎮座していた。それだけでも気持ち悪いのだが、触覚が動いているのだ。やめろ。今すぐやめろぉぉぉぉぉぉぉ!!!


「あああああ気持ち悪いぃぃぃ!!!」

「本当に落ち着いて・・・」

「【舞え 風刃の刃 ウィンドスラッシュ】」


と、その時リアが魔法を放った。風の刃が放たれ、ゴキブリを一刀両断したのだ。


「もう大丈夫。落ち着いた?」

「り、リア・・・助かったよ・・・」


本当に助かった・・・。あのままだと精神的に殺されていたわ。いやマジで・・・。


「もう少し落ち着くべきよ。あと、ゴキブリに耐性を持ちなさい」

「面目無い」


見苦しいところを見せてしまった。お恥ずかしい。


「弱いところもあるんだ・・・」


なぜかカナが顔を赤くしながらブツブツ呟いていたが、一体どうしたのだろうか?


「なんにせよ脅威は去った。先を目指そうではないか」

「なにしれっとなかったっことにしようとしてるのよ」

「本当に嫌いなんだ」


もう呆れられているが、それでも嫌なものは嫌なのだ。




ゴキブリは去ったので、俺たちは奥を目指して歩き始めた。












「ああああああ””!!ゴキの足踏んだぁぁぁぁぁ!!」

「「うるさい!!」」

「いくらなんでも嫌いすぎでは・・・」


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