Ep12 英雄、木ノ実を収穫する

翌昼。


「はぁ・・・」


俺はリビングのソファーで1人ため息を付いていた。


「なんで魔法が使えないんだろ・・・」


何度も言っていると思うが、俺は魔法が使えない。こちらの世界の人間なら誰しもが使える魔法がである。


ここで一つ説明を挟む。

そもそも魔法とは、全ての種族が持っている魔力を利用してできることである。実際に、リアたちは魔法を使っているだろう。魔法に適性などは基本的にはない。ただ、どういった魔法が得意なのかは人それぞれである。


リアはエルフなので風が得意なようで、エマは魔力そのものを使う無。カナは水魔法が得意なようだ。


「俺は魔法がで使えない代わりに、【強化】の異能・・が使える」


そう。俺が使えるのは魔法ではなく異能・・。確かに俺の異能は便利である。この力はあの能天気な女神様からもらったものだ。この世界では戦闘にも生活にも役立つ。だが・・・


「自分で火を出して火加減調整とかしたい」


先程俺は蛇の蒲焼を作っていたのだが、火加減の調整が難しい。自分で魔法が使えれば、こんなに苦労しなくてもすむのだろうが。

しばらく悩んだ末の結果は・・・。


「ま、多少不便でもいいだろう。それが料理の楽しさでもあるし」


俺ってマイペース。めげないめげない。



蛇の蒲焼が出来上がったので、3人を呼んで食べた。その感想は・・・


「めちゃくちゃ美味いなこれ」


思いついたタレを使ったところ、信じられないくらい美味くなった。もはやうなぎと言ってもいいくらいだ。


「本当。おいしい」

「あの気持ち悪い蛇がこんなに美味しくなるなんて・・・」

「さすがです・・・」


3人ともお気に召してくれたようだ。こんなに美味い蛇がいたとは正直驚いた。さすが異世界。食材もファンタジーのようだ。(上手い)




昼食を食べ終えた俺たちは、今日のすることを決めることにした。


「私は今日、ラズの実を取りに行こうと思ってました・・・」

「ラズの実?」


なんだそれは。ラズベリーかなにかか?


「ラズの実は、森によくなっている木ノ実です。酸っぱくてとっても美味しいんです・・・」

「完全にラズベリーだなそれ」


味とかも完全に同じだと思う。まあ、いい。今日も暇だ。木ノ実採集をするとしよう。


「じゃあ採集をしよう。案内してくれるか?」

「はい」


俺たちは4人で森の中へと入っていく。(すでに森の中だが)

なにか新しい料理ができるかもしれない。ラズベリー・・・どうしようかな。


俺、とっても悩む。



30分後。

俺たちはラズの実がなっているという木までやってきた。


「なあ、あの木なんだよな?」

「そうですよ。あの木の上の方に実がなっているんです・・・」

「そうなのか。で?あの下にいる奴らはなんなんだ?」


普通に木ノ実を採集して終わりかと思っていた。が、そこには先客・・・というよりも、敵のようなものがいた。


「あれは・・・猿ですかね?」

「猿っていうよりコングじゃない?」

「めんどくさそう」


木の下には、妙にこちらを敵対視している猿のような魔獣がいるのだ。あれを倒してからとなると、正直だるいな。いやマジで。


「あれ倒すしかないのか??」

「あんたなら一撃でしょ」

「木も壊れる」


エマが俺に言った後、リアがツッコミを入れる。まあ、あの威力でやれば壊れるわな。根元から折れるかも知れない。


「1番簡単な解決策は・・・飛ぶか」

「「「飛ぶ?」」」


3人の声がシンクロする。お前ら息合いすぎだろ。


「俺がジャンプ力を【強化】して、そのまま枝に飛び移るんだ。それでどうだ?」

「あの猿は投擲もできそうですけど?」

「めんどくさいやつだな」


飛んでる時に撃ち落とされたらたまらないな。チッ!


「じゃあわかった。あの猿は潰してくる」

「木を折らないでよ?」

「なんか不安ね」

「大丈夫なんですか・・?」


大丈夫だ信用しろよ。俺をなんだと思ってるんだ。ちゃんとコントロールできるぞ。

こころの中でそんなことを愚痴りながら、俺は猿の元まで移動した。




「キキッーー!!」

「うるっせーな。大人しくしとけ猿が」


接近した瞬間俺に向かって叫んできやがった。耳に響くわ。こいつは明らかに敵対心を持っている。すぐわかった。


「一瞬で終わらせてやる」

「キキ・・・キッ!!!」


猿は俺に向かって石を投げてきた。しかも早いしコントロールもいい。プロ野球選手にでもなれたんじゃないか?


「っと」


それを俺は余裕で躱し、反撃をする。といっても、反撃のような感じの攻撃ではないが。


「重力【強化】」


俺は猿にかかる重力を【強化】した。しかも、【強化】の割合も強めにした。猿は地面に這い蹲り、その身体を潰されたようだ。ざま。


「終わったぞ」


俺は離れたところで見ていた3人を呼び、終わったことを告げる。大体2分で終わった。


「あんたね。も少し慈悲ってもんがないの?」

「邪魔だったからつい。それに弱肉強食の世界だからな」

「零人はこんな感じだから、諦めて」

「仕方ないです」


3人のそれぞれの意見を聞きながら、俺は木に登り始めた。そのままたくさんのラズの実を収穫し、村まで戻った。

採ったものを1つ食べて見たが、完全にラズベリー。味といい見た目といいそのものだ。美味い。


「これは使えるかもな・・・」


俺はまた一つ、新しいレシピを思いついた。







転移前の知識で作り方とか知ってるから、思いついたわけではないけれど。





「ウルの出番少なくてゴメン!!」

「ガウ!!」

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