Ep11 英雄、酒を造る

俺たちは巨大蛇を討伐し後、まっすぐ村に帰って来た。蛇が木の間に引っかかったりして、少し時間がかかったが、日が暮れる前には帰ってこれた。


「結構時間かかったな」

「日が暮れてないから、大丈夫」


リアと軽口を叩きながら、俺の家の前で狩った魔獣たちを地面に下ろす。

それなりに重かったのだが、そこは【強化】で何とかした。こういう時にも便利な力だ。


「んで?この大きい蛇をどうするの?」


エマが怪訝そうな目で俺に問いかける。蛇なんて食べたことないのだろうな。俺もないけど。


「少しは料理に使う。」

「少し?」

「あとは、何に使うんですか?」


カナとリアが興味深そうに俺に尋ねる。まあ、俺もなんとなく興味があるだけだし、美味しいかわからない。だが、前の世界で味見できなかったし、この大きな蛇なら作れるかもしれないと思った。


「こいつを使って、酒を作るんだ」

「「「酒?」」」


何言ってんだこいつみたいな目で見るのはやめてほしい。別に冗談で言っているわけではないのだ。


「そう酒だ。俺も作ったことはないが、蛇をアルコールっていう酒に入ってる成分に漬けて時間を経たせると、蛇の酒になるんだ。なんか美味いって聞いたことがある」


それでも飲んでみないとわからないし、そもそもこの世界にはそんな酒はない。だから自分で作るのだ。


「・・・気持ち悪いことするわね・・・」

「うん。命知らず」

「大丈夫なんですか・・・?」


心配そうに俺を見つめる乙女たち。この場合の心配は、飲んでも大丈夫なのかということと、俺の頭が大丈夫か?という2つの意味を持っているのをなんとなく感じた。


「疑っているがいい。俺は作るぞ」

「まあ、止めはしないけど・・・」


ということで、俺の酒造りが始まった。




早速取り掛かる。家の地下に熟成の部屋を作ったので、そこで行う。


まず、蛇の血抜きをする。


「・・・結構出てくるな。さすが10メートルの特大サイズ」


図体がでかい分、血もたくさんあるのだろう。それだけの養分を毎日補給していたのだから、それだけ旨味も凝縮されていると思いたい。

ちなみに3人は気持ち悪いからとどこかへ行ってしまった。まあ、女の子が好きそうなこうけいではないな。


「じゃ、次はっと・・・内臓と臭戦をとるか」


この臭線と内臓を取らないと、臭い酒になってしまうらしい。俺の祖父から聞いた話だが。


「さて、下ごしらえは終わった。そろそろ酒につけるか」


臓器と血を取り除いたので、次はアルコールに漬ける。おっとちゃんと水で洗うのを忘れていないぞ?ここまでで約2時間かかった。でかすぎて大変だ。


「どれを使うか・・・これだな」


俺は買い込んだ酒を眺め、漬ける酒を決めた。


「なんだったかの果実の酒だったな。ま、ぶどう酒みたいな味だからこれでいいや」


飲んだことのある美味しい酒だ。これは1番たくさん買ったやつである。まだ王都にいるときに、こなした依頼などの報酬でたくさんもらっていた。大体10リットルの酒樽50個分はある。まじで買いすぎ。


「・・・40個くらいでいいか。どうせ漬けるだけだし」


木で作った大きな水槽の中に、蛇を敷き詰め酒を注いでいく。とりあえず蛇の半分くらいまで浸かればいい。頭部と尻尾は切り落としたので、少し小さくなったので、400リットルもあれば事足りる。


「漬け終わったから、ここからだな」


俺は最後の仕上げをすることにした。以前の世界では決してすることができなかった技。今の俺だからこそできる芸当だ。


「【強化】」


俺はこの酒に【強化】を使った。なにを【強化】したかというと、酒の旨味だ。

旨味を強化し、熟成することによって極上の酒へと生まれ変わる。やっべ、楽しみすぎる。


「ま、食べ物を【強化】するのは酒だけだけど。他の料理は俺が普通にうまくしてやるし」


酒は別だ。酒の旨味を強くしたらどうなるか。絶対に美味いに決まっているが、この際やってみたかったのだ。楽しみだ。


「後は、熟成の速度か。【強化】」


俺は蓋をし、密閉した酒に【強化】をかけた。【強化】したのは熟成速度。本来は美味いものは10年以上かかるらしいのだが、そんなに待てるわけがない。この【強化】なら、1ヶ月もあれば完成するだろう。


「出来上がるのが楽しみだな。早くつまみと一緒に飲みたい・・・」


1ヶ月後の楽しみができた。俺は上機嫌になりながら、熟成室を後にした・・・。




俺が地下から出てくると、3人の少女たちが待っていた。言わずとも、リア、エマ、カナの3人だ。


「おー。終わったぞ」


俺は3人に声をかけながら手を振る。が、3人の目はどこか浮かない。どうした?


「零人、服」

「服?・・・あ」


リアに指摘され、服を見てみると、蛇の血でかなり汚れていた。しかも、臭いも結構きつい。これは嫌な顔もするだろう。


「悪い悪い。すぐに風呂に入ってくるから」


俺は汚れと臭いを落とすため、風呂に向かうことにした。


「全く。得体の知れないものを調理するからでしょ」

「本当に、お酒になったんですか?」


エマに指摘され、カナに問われる。


「ああ。後1ヶ月くらいで出来上がるぞ」

「できたら、1口だけ飲ませてほしい」

「私も少しだけ気になる」

「私もです・・・」


嫌がっていた割に、興味津々のようだ。見ていろ。飲んだ瞬間うまさにびっくりするだろうからな。


「わかったよ。ちゃんと飲ませてやるから安心しろ。じゃあ、俺風呂入ってくるから」


俺はそれだけ言い残し、自宅の風呂に向かって走った。



ちなみに、この酒が出来上がった後に大変なことになるのだが、それはまた別のお話・・・。










ウルは飲めないな・・・。


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