Ep10 英雄、巨大蛇を狩る

俺たちは大物を目指し、村からそれなりに離れているところまで来ていた。とにかく何かを相手にしたい。このままでは来た意味がなくなってしまう・・・。


「零人、ウルの背中に乗ってばっかり」

「俺のペットなんだからいいだろ」

「いや、言いたいのは自分だけ楽すんなって意味よ」

「じゃあ、代わるか?俺も運動したい」


別に歩くことは嫌じゃない。ただ魔獣を相手にできないので、ウルの上に乗って気分を紛らわせていただけだ。


「じゃあ、私が乗る」

「あ、ずるい!私も乗りたい!!」

「私も乗りたいです・・・」


3人が乗りたいとウルの背中を取り合うことになる。仕方ないな・・。


「ウル。3人とも乗せてやれ」

「ガウ!?」

「安心しろ。【強化】してやるから」


ウルの力を強化すれば、女の子3人くらい余裕で乗れるだろう。結構背中も大きいし。俺はウルに【強化】を使った。


「どうだ?大丈夫だろ?」

「ガウ!!」


今、背中には3人が乗っているが、全く歩く速度が遅くなることもない。


「これが、零人さんの魔法ですか?」

「うん。正確には魔法じゃないけどな」

「物を強くする効果があるのね」

「そういうこと。そのかわりこれしか使えないけど。みんなが使える魔法は使うことができない」


そういう力なのだろう。まあ、別に困ってはいないが、折角魔法のある世界なのだ。1回くらい使ってみたかった・・・。


「とりあえず、先を進みましょう。早く大物見つけないと、零人が拗ねちゃうわ」

「そうだね。早く見つけよう」

「拗ねちゃダメですよ・・・?」

「誰もい拗ねてねーだろ」


若干拗ねてる自覚はあるが、俺はそれをいううわけもなく、ウルの横を歩きながら進んだ。しっかりと足の【強化】を使って・・・・。




「いないな・・・」


あれからしばらく歩いているが、どうにも大物に遭遇しない。この辺りにはいないのだろうか?


「いないね」

「結構歩いてるんだけどねー」


リアとエマがウルの背中の上から声で会話をしている。ウルも先ほどからなにも反応を示さない。近くにいたら、匂いや足音で気づくはずなのだが・・・。


「もしかしたら、もういなくなったんですかね・・・?」

「いなくなったってなにが?大物?」


カナが気になることを呟いたので、俺はそれを詳しく聞こうと問いかける。大物が以前までいたのだろうか?


「はい。以前までこの辺りには大きな蛇がいたんです。もういなくなったのかもしれませんが・・・」

「蛇か・・・食ったことないな・・・」


以前の世界のことだが、沖縄とかで売られているハブ酒がある。あれは美味いのだろうか?飲んだことないのでわからないが、正直飲みたいとは思わないが。


「ま、なんにせよいないなら仕方な・・・」

「ガウ!ガウガウ!!!」


引き返そうと思った矢先、突然ウルが吠え始めた。一体なんだ?何か出たようだが、俺の視界には写らない。

俺は自分の視力を【強化】する。

すると見えたのは・・・


「なんだありゃ!?」


俺が目にしたのは、景色と同化した巨大な蛇だった。大きさは10メートルはあるだろうか?とにかくでかい。


「みんな気をつけろ!!カナの言ってた蛇だ!!」


3人に注意を呼びかけ、俺は戦闘態勢を取りながら、様子を伺う。3人も目で捉えたらしく、先ほどまでの余裕がなくなっていた。


「なにあの大きい蛇・・・」

「ちょ、ちょっとなにあれ!?あんなの危険すぎじゃ!」

「私、ここまでかも・・・」


落ち着けやお前ら。さっきまでの威勢はどうしたんだ。すっかり怯えてしまっている。このままではパニックになってしまうだろう。すでにパニックだが。


「俺が相手にするからそこで見ときな。さっきから動きたくてうずうずしてるんだ」


あの程度の敵なつい先日たくさん相手にしたばかりだ。負けることはない。

蛇の方も俺に気がついているようで、ジッと俺を見つめている。キモいな。


「ほ、本当に勝てるの?」

「当然だろ」


またリアが俺の心配をしている。もう何度も戦うところは見せているだろうが。いい加減信頼してくれ。


「今回ばかりは私も心配するわよ。勝てるわけ?」

「大丈夫なんですか・・・?」

「エマ・・・カナまで・・・」


俺の信頼性0なのかな?少し傷つくな〜。まあ、この2人は俺の戦闘力をそこまで知らないから仕方ないか。


「見とけ。あんなのすぐに終わらせてやる」


それだけいい、俺は蛇に意識を集中した。



まず、蛇の外見についてだ。どうやら景色に擬態することができるようで、今は草に同化しているため緑色をしている。俺は認識力と視力を【強化】しているので識別することが容易だ。


口には鋭い2本の牙。その先端からは紫色の毒とみられるものが滲み出ている。キショいな・・・。


と、まあこんな感じの姿だが、キモい以外に擬態化がめんどくさい姿だ。


「とりあえず、早いとこ決着つけるか」


俺は口角を釣り上げながら呟く。さっきから魔獣を相手にしたくて仕方なかったのだ。そこで思いもよらぬ大物に出会えた。これは望外の幸運だ。


「いい運動になるか。悪いけど付き合ってもらうぜ。【強化】」


俺は一瞬で蛇の頭まで飛んでいき、かかと落としを食らわせた。


”ズガンッ!!”


豪快な音と共に、周囲の地面が陥没。周りに生えていた木も何本か犠牲になった。


「あ、もう終わりか。強くしすぎたかも」


1撃で終わってしまった。案外つまらなかったが、多少の運動にはなったか。蛇の砕けた頭からは、緑色の血みたいなものが流れ出ている。キモさ100倍だわ。


「お疲れ様」

「「・・・」」


後ろを振り返ると、リアが労いの言葉を告げ、獣人姉妹は言葉を失っている。刺激が強すぎたかしら?


「あ、あ、あんた・・・何者?」


ようやく口を開いたかと思ったら、そんなことを言われた。何者とは失礼な。普通の人間だぞ。


「一般的な人間だけど?」

「人間があんなとんでもない力もってるわけないじゃない!」

「びっくりしました・・・」


まあ、驚くわな。俺が知っている限り、人間は決して魔法に適性がある種族ではないはず。


「俺は俺だ。それ以外何者でもないぞ」

「零人は大丈夫な人だから。安心して」

「まあ、別に怖がったりはしないけど・・・」

「悪い人じゃないのはわかっていますから・・・」


よかった。怖がられたりしたらこれからどうやって会話をしようか悩んだ。今更ながら、地面が陥没するほど強かったか。前にリアに見せた時と同じような威力だったが、あれでもオーバーフローだったか。反省反省。


「とりあえず、あの蛇を持って帰ろう。俺が引きずっていくよ」


腰の収納袋から縄を取り出し、蛇にくくりつけていく。


「何かに使うの?」

「また料理とか?」

「一応な」

「楽しみです・・」


3人とも、俺の料理が楽しみなようだ。この蛇は大きい。料理に使うのは少量だけでも足りるだろう。後の部分で別のものを作ろう。クックック。楽しみだ。


「じゃあ、帰ろうか」


俺はたくさんの収穫を引きずりながら、村に帰ることにした。







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