Ep4 英雄、胃袋を掴む

エルフ美少女を仲間にしました。


俺たちはまず、これからどこの方角に行くのかを決めることにした。なるべく村のありそうな、秘境がいいな。


「その袋はなに?」


俺が地図を取り出したの時に中身を見たのだろう。袋の中は真っ暗なのだ。


「これは収納袋。異空間につながっている袋で、どんだけでも荷物が入るんだ。袋の口を大きくすることもできるから、大きいものも入るんだぞ」

「すごい袋なんだ。ってことはその中に沢山のものが入ってるの?」

「そういうことだ」


とまあ、袋の説明が終わったので地図を見ようか。


「いまいるのがここだな。森の浅いところだ。俺はとりあえず、この森を南に進もうと思っている」

「南に進むと、ベネトナシュ帝国があるんじゃない?」


ベネトナシュ帝国とは、アークツルス王国の南に位置している帝国だ。王国とは比較的友好的な関係を築いていたはず。


「ああ、だから帝国側には近づかない。森の丁度真ん中を目指そう」

「真ん中?そこに何かあるの?」


リアは俺の目的地に疑問を抱いたのか、そう言って来る。確かに森の真ん中だけじゃ何があるのかわからないわな。


「さっき思い出したんだが、森の中には誰にも知られていない村があるとかなんとか言われているらしい。街の噂で聞いたんだが」

「そ、そんな曖昧な情報で行くの?」

「いいじゃないか。未知の村があるとかすごい興味あるよ僕は」

「だからって・・・」

「まあ、大丈夫だ。村がなかったらそのまま帝国に行けばいいだけの話だし」

「・・・はぁ。わかった。どのみち零人について行くって決めたのは私だし、あなたのいう通りにする」


よし。方針は決まった。すぐにでも動こうかと思ったが、その時俺の腹が鳴った。


”ぐー”


「お腹が空いたからご飯にしませんかい?」

「・・・零人ってかなりマイペースだよね」

「よく言われる」


とにかく昼食だ。俺は収納袋から調理用ガスコンロと包丁、さらに先ほど買った食材をいくつか取り出す。


「料理できるの?」

「趣味。当然だけどうまいものしか作らない」

「それはすごいことで」


話しているうちにドンドン料理は進む。食事を切り、煮込み、柔らかくなったところで一旦火を止めて余熱で投入してたチーズのようなものを煮込む。


「とりあえず鶏肉のビーフシチュー煮込みを作りました」

「・・ごく。とっても美味しそう・・・」


以前の世界でも料理はよくしていた。なんなら酒造りなんかもおじいちゃんから習っていたのでできる。


「じゃあ、食べようか」

「あ、うん」


冷める前に食べてしまわないと勿体無い。熱いのが美味いのだ。

リアが料理を口に頬張り、顔を幸せそうに歪ませた。


「おいひい・・・・」

「いつも通りだな。美味い」


俺も味を確認し、満足げに頷く。まあ、俺が作るのだからまずいわけがないのだが。料理とか家庭的スキルに関しては誰にも負けない自信があるくらいだ。


「零人はすごいね。強いし、こんなに美味しいものも作っちゃうし」

「そこまですごくは・・・あ、お代わりいるか?」

「お願いします」


すっかり胃袋を掴んでしまったようだ。ペロリと平らげてしまうくらい美味しいものだったようで、俺は内心嬉しかった。


「はい。じゃ、食べたら出発しようか」

「んぐ・・。了解」


その後はほとんど会話もなく夢中で食べていたのは言うまでもない・・・。



10分後。

昼食を平らげたので、そろそろ出発することにした。


「準備はいいか?それなりに歩くと思うけど」

「大丈夫。歩くのは慣れてるから。それに森の中なんだし」

「そうか。エルフは森の民だったな」


森の中を歩くのは慣れているか。だが、それなりに距離があるので少し心配だ。


「ちょっと足を強くしておくか」

「え?」


俺はリアの足に手をかざし、力を使った。リアの足に変化はないが、本人は何か違和感を感じたようだ。


「足がすごく軽くなった?何をしたの?」

「リアの足を強化した。これならしばらく歩き続けれる。一応怪我をしていたからその配慮」


俺からのささやかな配慮だ。これくらいは受け入れて欲しい。


「・・・一体どんな魔法なの?こんな魔法聞いたことないんだけど」

「まあ、魔法じゃないから当然だろう」

「?どう言うこと?」

「それは歩きながら話そうか」


俺は歩を進めながら話すことにした。俺も足を強くしているので、歩くスピードはそれなりに早い。2時間もすれば森の中央にはつくだろう。





俺は歩きながら自分の力について説明することにした。


「俺の力はわけがわからんだろう?」

「うん。いきなり男たちが地面に倒れるし、怪我を治すし足も軽くなるし」

「そう。俺の力は非常に応用が効くんだ」

「結局どういう力なの?さっき魔法じゃないって言ってたけど・・・」


リアは早く教えろと言うように急かす。あんまり急かすなや。


「俺の力の正体は【強化】だ」

「強化?」


あまりにも単純な力に、リアは少し驚いた顔をした。あ、その顔面白い。


「そう強化。いろんなものを強くする力だ。単純だろ?」

「単純だけど・・・それであんな多彩なことができたの?」

「そうだ。たとえばさっきリアの傷を治しただろう?あれはリアの治癒力を強化したんだ」

「それであんなに早く治ったのね・・・」


リアは納得したと言うように俺の言葉に頷きを返す。


「じゃあ、零人は色んなものを治したり、強くしたりできるってこと?」

「いや、そう言うわけじゃ・・っと、魔獣か」


俺は質問に応えようとした時、眼前にイノシシのような魔獣が接近していることに気がついた。


「ちょうどいいから、戦闘を少し見せるよ。どんな力なのかを改めて確認するといい」

「う、うん」


リアには後ろに下がっていてもらい、俺はイノシシに相対した。


「かもん」

”ぶおおおお!”


俺が呼びかけると同時にイノシシが俺に突進してきた。


「まあ、一撃だろ」


俺は拳を固め、突進してきたイノシシの頭に向かって振り下ろす。


「【強化】」


俺の拳を食らったイノシシは地面にめり込み、周りの地面も陥没した。


「と、まあこんな感じ・・・ってどうした?」

「・・・とんでもない力」


リアが若干呆れたような顔をしている。そこまで強くやったか?


「今のは殴った時の衝撃と、俺の腕の強さを【強化】したんだ」


簡単な説明をした後、俺はイノシシの死体を収納袋にしまった。


「?持っていくの?」

「あれ?イノシシ料理食べたくないの?」

「食べたい!!」



俺はどうやら彼女の胃袋を完全に掴んでしまったようだ・・・。

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