第5話
目と鼻の先ですぐ着くだろうと思っていたおんせんだったけど、もこもこした雪に足を捕られて歩く速度はとても遅くなっていて、着いた頃には僕もサーバルちゃんもへとへとになっていた。
ようやくおんせんへの扉に手が届く、すると中からギンギツネさんが出てきた。
「あら...二人とも、どうかしたの?」
「実は色んなところをお散歩しててね、おんせん入りにきたよ!!」
待ってましたとギンギツネさんの返答も聞かずにわーいと両手を空へ伸ばすサーバルちゃん。もちろん断られることなんてなくて、
「そうそう、キタキツネがおんせんに入りたがらなくて困ってるの...ちょっと手伝ってもらえる?」
そう言いながら僕らをおんせんにあげる。分かっていたけど廊下の進む先は間違いなくげーむというものが置かれた休憩スペースだ。
「あ...久しぶり、げえむする?」
「キタキツネ!駄目よ、これからお風呂。二人とも疲れてるんだから」
「えぇ...一回遊んでからぁ」
サーバルちゃんが仲良しだねー、と笑う。しばらく押し問答が続いたけれど、結局キタキツネさんが折れてお風呂に入ることになった。
最初は服のまま入っていたけど、今は皆服を脱いでからお風呂に入る。湯気が立ち上るおんせんにはこれまた見覚えのあるフレンズさんが。
「待ってたよよよ...」
「あ、お邪魔します」
カピバラさんはいつも通りおんせんに浸かってはよよよと息をつく。僕とサーバルちゃんにとっておんせんは最高の癒しになっていた。
「温まるね...」
「そうだね...」
僕らも思わずよよよと言ってしまいそうだ。そのくらいに心地いい。
ギンギツネさんとキタキツネさんは「もういいよね...」「だめ!ちゃんと数えて...」と話している。
ふと、サーバルちゃんがうとうととしては何回かその綺麗な髪の毛をおんせんに一瞬浸からせてはびくんと戻す。
「さ、サーバルちゃん、寝ちゃだめだよ?」
「うん...分かってるよ...」
とは言いつつも髪の先がお湯に浸かる時間は少しずつ増えていって。遂には完全にがっくりと頭が垂れた。ありゃ、と僕は声を漏らす。肩を揺さぶると少しだけ目を開いたけど、何の解決にもなっていない。
「すみません、サーバルちゃんが寝ちゃいそうなので僕らは先に上がりますね」
「分かったわ、タオルとかは自由に使っていいわよ」
ありがとうございます、そう頭を下げてお礼を言うと僕はサーバルちゃんを支えるようにしておんせんを後にした。
バスタオルできちんと体を拭いてから斑点模様が特徴的ないつもの服に着替えさせる。その間サーバルちゃんはうとうとまどろんでいて。時折「かばんちゃん...」と僕の名前を呟く姿に思わず顔が綻んだ。
そして、サーバルちゃんへの対応に必死だった僕は随分冷えきった体でくしゅんと一つくしゃみが出た。鼻を擦ると指先と比べてとても冷たくてまるで僕の鼻じゃないように思えた。
ベンチの上で横になって眠るサーバルちゃんの側で僕は服を着なおす。
二枚の羽根がついた帽子を被ると同時にキタキツネさんとギンギツネさんが上がってきた。
「サーバル寝てる...」
「確か入り口辺りにこことは違うような床の場所があったはずよ、そこに連れていくといいわ」
二人とも小さな声で教えてくれる。ありがとうございます、とお礼を言うといつも背負ってるかばんを前にしてサーバルちゃんを背中に乗せた。高い木に軽々とジャンプするサーバルちゃんは思ったよりも軽くてほんの少しびっくりした。
窓の外では白い雪が一面に。少し長い廊下を抜けて、開いていた襖から部屋を覗くと辺りは薄い緑の床が広がっていた。
「わぁ...」
思わず感嘆が漏れる。その声も軽く反響すると、外と同じくらい白い壁へと自然になくなった。何個か置かれた低い机の横にサーバルちゃんを寝かせてから部屋の隅にあった座布団とやらを引っ張っては枕にした。
木の床とはまた違った柔らかなたたみ。きっとサーバルちゃんが起きてたらじゃんぐるの時みたいに爪研ぎを始めそうで、そんな様子を思い出した僕は一人小さな笑みを浮かべた。
時間が経つにつれて朱色に染まっていく外をぼんやりと眺めていたら、ふと大きな欠伸が漏れる。すやすや寝息をたてて時々寝返りをうつサーバルちゃんの隣にごろんと寝転がれば、あっという間に視界は黒くなっていく。
おんせんにいる二人に悪いなぁ...なんて考えつつも、僕は簡単に意識を手離した。
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