第3話

「よーし!頑張るぞー!」


 ある程度の動かし方をサーバルちゃんに教えると、とても張り切った様子で取っ手に力を込めている。

同じようにペダルをぐぐっと押し込む。


「わわっ、動いたよ!すごーい!」


 ペダルが一回転すると車体が見えない何かに引っ張られるように少し進んだ。

ますます闘志が燃え上がったのか、今度はもっと沢山回している。


「うみゃみゃみゃみゃみゃ!!」


「さ、サーバルちゃん!後ろ向きに動いてるよ!!」


 逆回転したのか今度は後ろに逆戻り。一歩進んで三歩下がったような感覚がした。

「こっち向きに回すんだよ」僕の近くにあったペダルを漕ぐと同じように動き始める。再び意気込んだサーバルちゃんは、今度は間違えずに進み始めた。けど、


「さ、サーバルちゃん...速くないかな」


「え、そーかな?」


 明らかに速い気がする。僕側のペダルもその速度に合わせるように速くなっている。

バスよりは遅いけれど、サーバルちゃんが楽しそうならいいかな...


 景色が若干速く流れる。大きなパークの地図が横切れば、じゃぱりまんを持ったラッキーさんが脇に立っている。初めて会ったくらいの大きさのセルリアンもいたけどあの大きなセルリアンに比べたら怖くなかった。

...その時だけちょっと速く漕いだけど。

セルリアンがいたところから大分遠ざかって、少しすると水溜まりが所々にあるのが見えて、もうすぐロッジなんだと分かった。


「えへへ...私、先走っちゃった...」


「大丈夫?サーバルちゃん」


 サーバルちゃんは初めに体力を使い果たしちゃったみたいでペダルから足を離して休憩中。僕はずっと同じペースだったから今は代わりにペダルを漕ぐ。

「もうすぐロッジだと思うからそこまで休憩しててもいいよ」というと「そうするねー」と返事が帰ってきた。

時々立つ街灯を通り過ぎ、大きな水溜まりにばしゃんと音を立てて飛び込み、ロッジの前に着いたときは既に夕日が沈もうとしていた。


「なんだか久しぶりな気がするね」


「そうだね!今なら前とは違うフレンズに会えるかも!」


 「駐車場」と書かれた場所にばすてきを停めて木で作られたロッジへ向かう。

そういえば、この建物もヒトが作ったらしい。そんなことをふと思った。

吊り橋を通ってロッジアリツカの扉を開ける。暖かい色をした照明に照らされてアリツカゲラさんがカウンターに立っていた。


「ロッジアリツカへようこそ...かばんさん!サーバルさん!」


「元気ー?また泊めてもらいにきちゃった!」


 えへへとサーバルちゃんが笑う。アリツカゲラさんも笑みを浮かべて案内をしてくれた。

どのお部屋もやっぱりよかったけど、僕たちは前と同じように「みはらし」のお部屋に決めた。

そして同じように探検をする。


「懐かしいねー!」


 少し小高い所、アミメキリンさんと初めて会った場所。「あのときはびっくりしたよー、ヤギじゃないのに!」とサーバルちゃんは笑顔で語る。

一緒に住むのも楽しそう、そんな会話を交わした廊下を歩いていたけどラッキーさんは何一つ言葉を話さなかった。


 そして、タイリクオオカミさんがいた場所では...


「やあ、かばんにサーバル。丁度いい所に来たね」


「タイリクオオカミさん、どうしたんですか?」


 何やら色とりどりのチューブを手にしてタイリクオオカミさんが話しかけてきた。側には筆らしきものといくつかに分かれたバケツのようなもの、低い仕切りがやたらめったらある板もある。

そして中心には少し分厚い紙が乗っていた。


「あなたたち!先生がこの道具の使い方に困っていて、私が推理してる所なの!」


 目を輝かせながらアミメキリンさんがどんと胸を叩く。

板には様々な色のやわらかそうな何かが乗っかっていた。

サーバルちゃんが指先でつつくと「わっ、指に色がついちゃった!」と擦っては余計に指先が汚れてしまっていた。


「これは「えのぐ」というらしいのだけど、べたべた過ぎてとてもじゃないけど使えないんだ。かばん、使い方は分からないかい?」


「そうですね...あの、ここに水を入れてもらってもいいですか?」


 バケツのようなものに水を入れてもらって、筆に水を染み込ませて板の上のえのぐに混ぜた。そして紙に線を描く。

無意識の内に描いていたのはサーバルちゃんの顔だった。


「これって私?すごーい!すごいよかばんちゃん!」


 サーバルちゃんはぴょんぴょんとその場で跳ねる。「なるほど、水をつけるのか...」とタイリクオオカミさん。「す、すごいわ!迷宮入りになっていたというのに...!」アミメキリンさんも思わず白い紙の上のサーバルちゃんをまじまじと見ていた。


「お役に立てたのならよかったです」


「かばんちゃん!他にも描いてみて!!」


 テーブル越しにサーバルちゃんがとても近くに顔を寄せた。そして僕は言われるがままに沢山のフレンズさんたちを描いた。

 その数は衰えることも知らなくて、気づいたら辺りは真っ暗だった。


「そろそろ僕は寝ようと思います。サーバルちゃんはどうする?」


「私も寝るよー、明日も沢山遊びたいから!」


「とても興味深かったよ、何かあったらまたよろしくね」


「また明日会いましょう!」


 二人に見送られて僕らは部屋に戻った。

戻るやいなやベッドに二人とも倒れ込んで、すぐ寝ることにした。

しばらくはぽつぽつと会話をしていたけれど、向こうから小さな寝息が聞こえたのを感じると僕もゆっくり瞼を閉じた。

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