第2話
太陽が丁度真上を向く頃。ようやく僕はひたすら擦った赤い鼻のまま、ベンチから立ち上がることができた。
フレンズの皆は遊び足りない者、ゆったりと過ごす者、軽く勝負をしてみる者、色とりどりだった。
その様子を見た二人は
「ねぇかばんちゃん。ちょっと散歩しようよ!」
「うん、いいけど...僕たちって勝手に抜け出していいのかな...?」
「へーきへーき!皆気づいてないし、行こ行こ!」
こっそりパーティーを抜け出して散歩しようとしていた。
ぐいぐいと手首を引っ張って行くサーバルちゃんの後を追って僕も歩く。
お世辞にも綺麗とは言いがたい「ジャパリパークへようこそ」と書かれた看板が近づいてくる。
看板に被ってキラキラと輝くサンドスターが出ているのが見えた。
「さーて、どこ行こっか!」
「うーん...どうしよう」
看板に背を向けては尻尾をぴんと立たせてサーバルちゃんが問いかけてくる。
「久し振りだよね!色んな所に行きたいなー!」と言うサーバルちゃんの言葉。
そういえば、時々サーバルちゃんがいなくなっちゃったり僕も他のフレンズさんと話したりしてて全然遊んでいなかった。
なら、今日は沢山遊びたいな......
「...さ、サーバルちゃん!後ろ!」
「え?」
ごつん!!
突然何かが音もなく飛んできた。セルリアンかと思ったけど、全然違っていて。
「かばん、サーバル。こそこそしてると思ったら...何をしてるのです?」
「パーティーの主役はお前らなのです。勝手にいなくなったら見つけるのが大変なのです。」
「博士さん、助手さん!」
飛んできたのはアフリカオオコノハズクこと博士さんと、ワシミミズクこと助手さんだった。
二人の向こう側でサーバルちゃんが「うぎゃあああ!!」と言いながら頭を抱えて転がっている。
「サーバルちゃん、大丈夫!?」
「全然気づかなかった...ひどいよー!」
「気づかなかったお前が悪いのです。それより......」
それより?僕たちは博士さんの放った言葉に首を傾げる。
「...カレー付きじゃぱりまんがフレンズに好評で、もうなくなってしまったのです。」
「ヒグマはヘラジカたちと手合わせに行ってしまったのです...かばん、お前しか頼れないのです。」
二人がずいっと詰め寄ってくる。「ええっと......サーバルちゃん、いいかな...?」せっかく散歩しようとしてたけど、サーバルちゃんはいいのかな...?
「もっちろん!かばんちゃんのりょうり?はとっても美味しいから大好きだよ!私も手伝うー!」
大賛成で何よりだった。でも、この時間から作るとかなりの時間がかかりそうだ。
「我々はグルメですが、今回はかばんも疲れていると思うのです。カレーとは言わずとも、何か簡単なものを作ってくれるのならお前たちにもばすてきなものを貸してやるのです。」
「我々はかしこいので。」
「簡単なもの、ですか......あの、お米って残ってましたっけ」
___
「こ...これは」
「「おにぎり」って言うらしいんですけど、簡単で美味しいって聞いて...」
「何これ何これ!!お米が丸くなってるよー!?」
おにぎり。白いお米に黒い海苔がついている、普通のもの。
サーバルちゃんがお皿に並んだおにぎりをつんつんつついては「すっごーい!」と目をキラキラさせている。
昨日吹き出したサンドスターにも負けないくらいに輝いている気がした。
「しかし...カレーのお米には特に何も味がついていなかったのです...」
「食べてみるのです...」
箸やスプーンを使わなくてもいいから二人にも食べやすそうだ。
顔を見合わせた後、ぱりっと音を立てておにぎりにかぶりついた。
...あ、そういえば
「...酸っぱーい!!」
「とても酸っぱいのです!!」
梅干し、博士さんたちには酸っぱ過ぎたかな......
「何ですかこれは!何もしなくてもしぼんでしまいそうです!!」
「これは...あむ...駄目ですね」
「ええ...もぐ、駄目なのです」
「食べてるじゃん!!」
初めはびっくりしていたけど、博士さんと助手さんはあっという間に食べ終わって...
「おかわりを寄越すのです」「おかわりを寄越すのです」
あの時みたいに、おかわりを求めてくれました。
「満腹なのです、やみつきは腹八分目を越えるのです」
「満足なのです、簡単なものでもこれほどとは...やはりヒトは不思議な生き物なのです」
「口に合ったのなら、よかったです。」
結局余ってたお米はからになって、すっかり二人は満足した様子になった。
サーバルちゃんも一緒に食べたからか、口にはお米がくっついていた。
それに気づいたのか、ぺろりと舌で取ると「ふわー、美味しかったー!」と机に腕を放り出した。
「ここまでされたら我々はちゃんと返さなければならないのです。皆には伝えておくから二人で遊んでくるのです。」
「ついでにばすてきも貸してやるのです。我々は群れの長なので。」
「何それ何それー!」
満腹で幸せそうだったサーバルちゃんは再び顔をあげて身を乗り出した。
博士さんと助手さんは椅子から立ち上がると、頭の翼を大きく広げて飛んだ。
そして、ばすてきとやらが置いてあるという場所へ向かう。
僕たちもその後を追った。
「これがばすてきなのです。好きなのを持っていくといいのです。」
「わーい!バスが沢山あるよ!」
色んな柄のバスが屋根に守られながら置いてある。
とても大きなものから、二人ぐらいしか乗れなさそうなものもあった。
「じゃあ、これにしますね」
多分バスのなかで寝ることもないだろうから、小さなペダルを漕ぐような形の乗り物にした。
「の」の字が入った旗が上でぱたぱたひらめいている。
「おぉー!もしかして、私も運転できるの!?」
「できるんじゃないかな。一緒にやってみようね」
「わーい!」
博士さんと助手さんの了承も聞かずにサーバルちゃんは座席にぴょんと飛び乗った。
「じゃあ、それをしばらく貸してやるのです」
「まあ、多少なら遠くに行っても問題ないのです」
「ありがとうねー!」
「ありがとうございます!」
僕も座席に座ってペダルに足を乗せてから振り返って博士さんと助手さんに手を振る。
手は振らずとも羽がぱたぱたと動いている。僕はくすっと笑ってから、前を向いてペダルを漕ぎだす。
少しだけ長い、散歩が始まった。
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