かばんちゃんにできること

あおぞら

第1話

 僕があのセルリアンに飲み込まれて、フレンズの皆さんが助けてくれて。


 ラッキーさんは細身になっちゃったけど、サーバルちゃんとお話してくれるようになった。


 全ては幸せのなか、何もかもが上手くいった。




 ...筈なのに。



 少しだけ、心の入り口で出かかってるこの気持ちは...何だろう。



「か......ちゃ...!......え、起き...!」


「かばんちゃん!!どうしたの!?」


「ぅえっ!?た...食べないでくださーい!!」


「た、食べないよ!!」「サーバル、タベチャダメダヨ」


 サーバルちゃんの声とラッキーさんの声が重なる。思い耽ってた僕はサーバルちゃんの声に全く気が付かなくて。

ゆうえんちのベンチは丁度大きな木があってそよそよ風が通る音が聞こえる。

サーバルちゃんは隣で「おはよ、かばんちゃん!」と満面の笑み。


「おはよう...ごめんね、いきなり大声出しちゃって」


「そんなことないよ!私だって疲れちゃってるかばんちゃんを無理矢理起こしちゃったし...」


 さばんなちほーで最初に会った頃のように耳は申し訳なさそうに垂れて、尻尾は居心地が悪そうにあちこちぱたぱた動いてる。

僕はただ考え事をしていただけなのに。やっぱりサーバルちゃんは優しいんだなって改めて分かった。


「寝てた訳じゃないんだ。少し、考え事してて...」


「何々!また面白いこと思い付いたの!?」


 はたりと落ちてた耳と尻尾はたちまちバネのようにぴんと立ち、僕の言葉を聞き逃すまいと4つの耳を総動員させている。


「いや、そうじゃないんだけどね......少し、こう思ったんだ。


ヒトは頭がよくて色んなことを考えるけど、サーバルちゃんみたいな爪も無いし、トキさんや博士さん、助手さんのように空を飛べる訳でもない。カワウソさんやPPPの皆のように泳げないし、ビーバーさんとプレーリーさんのように地面に穴を掘れる訳でもない。なら、どうしてヒトは生き延びたのかな...」


 サーバルちゃんは静かに聞いている。


 かばんちゃんは息をするのを忘れそうになるくらいに沢山話す。


「もし、もしもだよ。ヒトがサーバルちゃんみたいな爪を手に入れて、空を飛ぶ発明をして、水の中でも息ができるようなものを作って、土を簡単に掘れる機械を作り出したら......

何もかもが、いらなくなって、フレンズさんはそれぞれ、違って、それが素敵なのに、ヒトが、僕が、奪ってしまったら、いや、もう既に奪っていたら、そう思うと、申し訳なくなって、僕のしていた良いはずのことが、どこかでは誰かを傷つけているんじゃないか、って...」


「かばんちゃん」


 ほとんど嗚咽の混じる、サーバルちゃんじゃない、他の誰か、僕に叫んでいた声がサーバルちゃんの声でぴたっと止まる。

遠くから聞こえるフレンズの声も、目指していた港の波の音も、葉の擦れる音も。

まるで時間が止まって、僕たちだけいつも通りみたいな。

サーバルちゃんは胸の底に引っ込めかけてた僕の手を掴んで、話す。


「大丈夫。だって、かばんちゃんは困ってるフレンズを放っておけなくて、少しこわがりで、でも自分を捨ててまで助けに来てくれて。今、私たちがここにいるのはかばんちゃんのお陰。傷つけるのは、確かに悪いことだよ?でも、かばんちゃんは傷つけてなんかいないよ。へいげんのときだって、フレンズのことを心配して、傷つけないように、しかも楽しくなるような思い付きをしたのは、誰でもない、かばんちゃんなんだよ。ヒトはどうなのか分からないけど...かばんちゃんは、素敵なフレンズだよ......かばんちゃん?」


 いつの間にか、時間が動き出した。

 僕が話す頃から出てこようとしていたのか、温かいものが頬を伝って治りかけの服に溢れた。


「かばんちゃん、大丈夫?痛かった?」


 サーバルちゃんが心配そうに覗きこんでくる。



「大丈夫、さっきまでずっと痛かったけど...もう、平気。きっとはやおきしたからだよ。」




「...そっか、それなら良かった。」



 

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