第2話
目の前には、絶望している美少女がいた。
ぺたん、と地面に座り込み、茫然自失とした様子である。
目はどこを見るでもなく、焦点の定まらないまま虚空を見つめていた。
何よりおかしいのは、急に目の前に現れたこと。
視界がいきなり白く飛んだ直後、この状況になっていた。
俺には何が起きているのかわからなかった。なんだ。これ。
朝からぼんやりしていた思考が、徐々に働き始めた。
と、とにかく、何か話しかけないと……
「…大丈夫ですか……?」
とりあえず、声をかけてみた。
が、ピクリとも動かない。
「…………………………」
目の前で、手を振ってみた。
これも無反応。
え、なに、どうしちゃったのこの子……
——今まで気がつかなかったが、この美少女、色々とおかしい。
まず服装が変だ。
この辺りでは見ない、剣士のような格好をしている。
と言っても、鎧の類はほとんどなく、動きやすさを重視されているのか、体のラインが非常にくっきりした……その、なんとも直視しがたい格好をしていた。
白いインナーに上品な青色のマント。
このインナーが所々破けており、素肌が見え隠れしている。
マントと同じ青色のスカートからは細くしなやかな太ももが見えていて、その生地すらも、この美少女の魅力を引き出しているかのように思える。
手には複雑な文様のある、なんらかの補助系魔術の施された白銀のグローブ。
そして何より、綺麗な
腰まで届いている長い髪は後頭部で一つに束ねられていて、緩やかに線を描き、いつの間にか雲の間から顔を出していた太陽の光を吸収しているかのように淡く反射させている。
こんな綺麗な女の子、今までに見たことがない……
どうすればいいのかわからないまま美少女を眺めていると、やっと、ゆっくりと瞬きをし、顔を上げ俺の顔を見た。
彼女の目には、俺の姿はどう映っているのだろうか。
動揺を隠せないままこちらも視線を合わせていると、不意に口が動き、初めて彼女は声を発した。
「あなたが、新しいパートナーなのね……」
新しい……パートナー……?
彼女がなにを言っているのか、しばらく理解できなかった。
……俺が?
この子のパートナーになるということか?なんの?
どういう意味での、パートナー?
しばらく、次の言葉が発せられるのを待っていたが、彼女はそれっきり下を向いたまま動かなくなってしまった。
どうすればいいんだ…………。
周囲を見渡すも、ここはど田舎の、それも人が通ることはめったにない道。
それから何度か声はかけてみたものの、美少女は一向に反応してはくれなかった。
————仕方ない。可哀想だけど、そのまま帰ろう。
彼女の横を通り過ぎ、そのまま道を歩いていると…………
ズンッ、と体が急に重くなった。
なんだ、これ…………⁉︎
「ぐっ…………っ!!」
歩きずらい。
例えるなら、重いものを腰に巻きつけて引っ張っているような…………
即座に後ろを振り向くと……………………
美少女が俺の動きに合わせて引きずられていた。
「え、なんで…………⁉︎」
彼女と俺の間には、もちろんなにもない。
何かで繋がってもいないし、彼女自身が動いている様子もない。
これは一体…………
「わからないことだらけだ…………何なんだこの美少女…………」
しかし、俺が一歩進めば、彼女は同じ距離引きずられている。
自分が歩くことで、引きずられていることは確かのようだ。
試しに反対側へ歩いたり、走ってみたり、後ろ向きに歩いたりしてはみたものの、どうやっても結果は同じだった。
どうやら、ある一定の距離が空くと、俺と美少女はそれ以上離れることができなくなるらしい。
仕方ない。このまま引きずって家に帰るわけにもいかない。
「君、自分の力で歩くことはできない……?」
「……………………」
…………仕方ない、仕方ないのだ…………。
「も、持ち上げるよ?」
「……………………」
なにも言わない。持ち上げても、いいよね?
このまま歩き続けると彼女擦り傷だらけになっちゃうし…………
————そっと、持ち上げた。
引っ張って歩くと重く感じたが、実際、彼女の体重はそう重くなかった。
さて、ここからどうしよう。
このまま、抱きかかえて帰るしかないのだが、村に入ってから、この状態を誰かに見られてしまうととても気まずい…………というか家に連れて行くしかないんだよね?
彼女は所々傷を負っているみたいだし、このまま道に放っておくこともできないんだから……覚悟を決めるしかない。
俺はこの謎めいた美少女を抱きかかえたまま、人ひとり通ることのない田舎道を歩き続けた。
————夕方、太陽は果てしなく続く稜線の向こうに消え、世界は徐々に夜を迎えつつあった。
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