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 ヴィカス・クマール、という人がいた。たぶん、来年あたりに社会科の教科書に載るはずだ。たぶんというか、はずというか、間違いなく。

 ヴィカス・クマールはインド人の男性で、元はシステムエンジニアだった。日本と同じように、むしろそれよりひどいくらいにはインドにも地域格差だとか貧富の差だとかがあり、首都・ニューデリーでそういったホワイトカラーの仕事に就いていたということはそれなりの教育を受けられた家庭の出である証明といって間違いがない。そのせいか、彼は支配者として選出されて以降、教育改革を初めとした政治的な運動を精力的に行った。

 世直し、と呼ばれるに相応しい活躍だったと思う。

 彼が死んだのは、正確に言えば、殺されたのは外交に手を出したからだったそうだ。ヴィカス・クマールは理性的な人間で、周辺国にとって害になるような条約は一切出さなかったが、そんな配慮は大して意味がなかった。支配者であるだけで忌避され、危惧され、銃で撃たれて死んだ。支配者となってから十ヶ月後の出来事だった。

 悲運の死を遂げたからかもしれないが、我欲もなく、人々のために邁進した彼には未だ多くの信奉者がいる。映画になり、本になり、彼を称える動きは今も続いていた。日本の高校生である俺でさえ頻繁に目にするほどなのだから、それがどれだけ大きい流れか、簡単に察せられるはずだ。

 そんなヴィカス・クマールの偉業と比べたら、俺たちの世直しはなんとスケールの小さなものだろう。だいたい、八王子の駅前に諸悪の根源など転がっていやしない。


        ◇


「きみたちねえ、もう三日目だよ」

「ねえ、おまわりさんって本当に自分のこと『本官』って言うの?」

「アキ、腹減ったし、牛丼でも食いにいかねえ?」


 たとえば、交番に道に訊ねに来た人がいて、警察官よりも先に応じてしまったら公務執行妨害になるのだろうか。三日前、そう質問したら、眼鏡の冴えない警察官は「ならないと思うよ」と言った。法律の専門家ではないからかあまり自信のなさそうに、手を出したり脅したりしなければ問題にはならない、と。


 だから、というわけではないが、俺たちは放課後になると八王子駅前交番に赴くようになった。当初は改札前や南北のペデストリアンデッキをうろついたり、東急スクエアの中をうろついたり、少し脚を伸ばして商店街をうろついたりしていたものの、芳しい成果が一切なかったのだ。俺たちにとって都合のいい出来事、言い換えれば、街にとって都合が悪い事件などそうそう起こらない。目を皿にしても道に迷って途方に暮れる人や重い荷物を背負って喘ぐおばあさんは影もなく、腐敗したシステムや日本を悪い方向へと導く悪徳政治家の集いもその片鱗すら見せなかった。


「アキ、日本は平和だよ」


 交番の外壁に寄りかかり、俺は溜息を吐く。むやみやたらに街をぶらつくくらいなら交番の前で困った人の降臨を待ったほうがいい、というのは我ながら名案だとは思ったが、やはり俺たちの世直しに進展は未だになかった。変化があったとすればちぐはぐな会話を楽しむ余裕ができたことと周囲の喧噪くらいだ。


「この状況も平和っていうのかな?」

「ある意味、な」


 周囲を人の壁に取り囲まれ、視線の置き場に悩む。人々の手にはスマートホンがあり、あたりには絶えずシャッター音が鳴り響いていた。目当てはわかっている。アキだ。今月、支配者になって以降、アキの顔は全国的に知れ渡っており、なんの対策もなしに往来を歩けば人を引き寄せるのは熟慮すれば当然の結果ではあった。

 問題は俺もアキもそこまで物事を考えていなかった点である。

 一対一でなければ人はずいぶん図々しくなれる。月曜日から俺たちが八王子駅をぶらついているという情報はSNSなどインターネット上で拡散されているらしく、金曜日になった今日では人の壁は穏便に掻き分けるのが難しいほどの分厚さにまで成長していた。有名税、というのだろうか、断りもなく写真を撮られるのはどうにも慣れない。そもそも俺は支配者の友人というだけで自分にはなんの力もないのだ、払う謂われのない税を払っている状態だった。


「もう一度言うけど」


 ぐったりした口調でもう一人の被害者、眼鏡の冴えない警察官である日嶋ひしまが呟く。今、俺とアキに挟まれている彼は初日に応対してしまったせいでなんらかの役目を仰せつかってしまったらしい。声色には棘こそなかったが、感情の淀みがありありと浮かんでいた。


「きみたち、今日で三日だよ。どんどん人が増えてるし、そろそろ公務執行妨害を検討しているからね」

「え、日嶋さん、公務執行妨害にはならないって言ったのに」

「程度っていうものがあるじゃないか」

「つうかさ、日嶋さん」俺はアキの抗議に追随する。「俺たち立ってるだけだし。勝手に集まってるほうが悪くない?」

「それはそうなんだけどね、きみたち」

「俺たちだって迷惑してんだよ。なあ?」

「困っているならもう少し方法を考えてくれないかな」

「しょうがないなあ」


 アキが苦笑し、一歩進み出る。その瞬間、群衆の半円がかすかに揺らいだ。シャッター音が弱まる。

 ああ、本当に日本って平和だ。

 きっとその場にいる誰もが〈命令〉を期待しているに違いない。アキへと向けられる視線はぎらぎらとしていて、どこか粘ついたものばかりだった。ジェットコースターに好んで乗るような心理と似ているのかもしれない。あるいはそれよりももっと卑俗な欲求だ。何かが起こる、という高揚に全員がアキの一挙手一投足に注目していた。


 ざわめきの中、アキは中央に立ち、端から端まで人の壁を見流した。それだけでかすかな緊張が走り、興奮に蓋がされたようにざわめきが小さくなる。そこで、アキが手を高く打ち鳴らした。ぱん。ぱんぱん。それが〈命令〉に付随する合図だと受け取ったのか、どこからか、おー、という囃し立てるような声が挙がった。命令だよ命令、何言うんだろ、録音しとけ、お前耳塞いでみろよ。湯が沸騰するみたいにあちこちで好奇心が弾け、言外の催促が始まる。

 そして、興奮が臨界に達した瞬間、アキの声が喧噪を割った。


「通行の邪魔でーす」


 すっとぼけた声色に、俺は思わず噴き出しそうになった。

 誰もが虚を突かれたらしく、ぽかんと口を開けたまま固まっている。まさか支配者がこの状況で〈命令〉ではない、単なる注意をするとは予想だにしていなかったに違いない。人々はみな空虚な表情をしており、反応が始まるまでたっぷり十秒ほどの時間を要した。

 そうしてようやく生まれた人々の動きも小さなものだった。白昼夢から目が覚めたかのように、ただただ互いに顔を見合わせている。

 アキは続けた。


「聞いてますー? ここにたまらないでくださーい。だいたい、僕の周りに来たってそんなに御利益ないですよー」


 なにそれ? 命令は? 批難混じりの疑問が漏れ始める。そこにあるかすかなささくれに、俺は下唇を噛んだ。

 好奇心は理解してもいい。だが、俺にはどうしてそんなに〈命令〉されたいのか、不思議でならなかった。普段は自由とか権利とかそういったものが大好きなくせに、目の前にいるサラリーマンや主婦や若者たちの根底には命令を受けたい欲求でもあるのだろうか。

 なんだかいよいよ馬鹿らしくなり、俺は舌打ちをして、アキをせっついた。


「アキ、もういいだろ。どっか行こうぜ」

「待ってよ、ここ散らしとかなきゃ日嶋さんに怒られるよ。ぞろぞろついてこられたっていやだしさ」

「そう言ったってよ」


 俺は日嶋の表情を窺う。ここ数日の付き合いではあるが、日嶋は高圧的な態度を取る人間ではなく、眉を下げ、言葉の選択に迷っている顔をしていた。もともと〈命令〉を行使してくれ、と言うつもりもなかったのだろう。

 全員がわずかな空白を持て余し、目的もないのに焦れる――それが終わったのは間もなくのことだった。右のほうで人の壁がもぞもぞと蠕動を始めたのである。かすかな悲鳴や不満が溢れ、やがて異物が排出されるかのように、男が空間の中に現れた。気の強そうな表情をした男だった。眉が薄く、茶に染めた髪が肩ほどまでに伸びている。彼は品定めするようにアキを睨み、一歩ずつ接近していった。その立ち居振る舞いには乱暴な性格が透けていた。


「なあ、よお」


 アキが過激な、暴力的な〈命令〉を下さないとたかをくくっているのかもしれない。男は不遜な態度で肉薄し、まるで試すかのように言った。


「お前、支配者とかなんだろ? 全然信じられねえんだけど」

「そっか」

「はあ? そっか、じゃねえよ。お前、何か、言えよ。白けちまってるだろ」


 よほど豊かな反骨精神を持っているのか、それとも状況に酔っているのか、男は「早くしろよ」と顎をしゃくった。尊大な態度に、周囲からの反応は鈍い。むしろ、同じ感情を共有していたはずの壁の構成員たちは顔にあからさまな不快感を滲ませていた。無意識下の同族意識から逃避しているみたいでもあった。


「お兄さん」とアキは囁くように言う。俺からは背中しか見えず、感情は読み取りづらい。「そんなに〈命令〉されたいの?」

「だから、やってみろって」

「アキ」


 思わず大きい声が出る。だが、俺の制止など意にも介さず、アキは少し悩み、それから、ぽんと手を叩いた。


「そうだ、なら、宇宙飛行士を目指してよ」

「……はあ?」

「お兄さんはこれから宇宙飛行士を目指すんだ。必死に勉強して、訓練して、いいと思わない? 何年かかるわからないけど、なせばなるよ」

「くっだらねえ」

「宇宙飛行士はくだらなくなんてないよ。夢とロマンに溢れる仕事だ」

「そうじゃねえよ」その返答すらアキのペースに乗せられていると気付かずに、男は反駁する。「そんな命令、効くわけねえだろ。フカノー命令ってやつじゃねえか」

「何言ってんの、不可能命令じゃないよ。目指す、なんて誰でもできるんだから」


 声にならない声が人混みの中から浮かんだ、そんな気がした。

 少しずつ、アキの言葉が浸透していく。

 宇宙人が来て、つまり、地球に支配者が生まれてから一年半近くが経っている。だから支配者が下す〈命令〉の大原則は多くの人が知るところとなっていた。


 一つ、〈命令〉は人間のみに有効であること。

 一つ、不可能な〈命令〉は無効であること。

 一つ、〈命令〉は本来の感情や記憶を直接的に左右しないこと。


 もちろんそれらはあくまで大原則であり、他にいくつもの付則が存在するのだが、今は重要ではない。重要であるのはアキの言葉が巧妙な曖昧さを有している点だった。

〈命令〉に厳格さは必要ない。たとえば「ジュースを買ってこい」という〈命令〉があったとする。このとき、支配者がコーラを飲みたいと思っていれば〈命令〉された者はコーラを買ってくるし、オレンジジュースを欲していればオレンジジュースが届く。決定権を握っているのは支配者であり、言語的明確性を欠いたとしても〈命令〉は有効に働くのだ。


 では、「目指す」という言葉はどう捉えられるべきだろう。ある人は感情の具体性を示していると考えるかもしれないし、ある人は確たる行動を思い浮かべるかもしれない。前者であれば不可能命令で無効になり、後者であれば〈命令〉は効力を発揮する。そして、その振り分けはアキの心の中で決まる。箱で覆われたレバーがどちらに傾くか、誰にも推し量ることはできない。


 もう一回言うよ。


 雑然とした喧噪は既に一帯から遠のき、誰もがアキの言葉に聞き入っていた。


 これは、不可能命令じゃないから。


 男の喉が大きく動いた。唾を飲み込んだのがわかる。強気な表情は揺らいでいたが、この場から離れることはプライドが許さないのか、拳を握ったまま、立ち尽くしていた。アキが一歩近づく。男の身体がびくりと震える。

 そして、アキは男にだけ聞こえる音量で二言三言、囁いた。

〈命令〉が成立した――群衆とは反対側にいたため、俺にはその事実が強く理解できた。雷に撃ち抜かれたかのように男の目が見開かれたからだ。思わず空を見上げる。目視はできないが、頭上に宇宙船がある事実を実感した。


〈命令〉は感情を左右しない。つまり、〈命令〉されたからといってアキの指示に喜び勇んで従うわけではないのだ。アキを支配者たらしめているのは宇宙人によって発せられる信号だ。その信号を受けたにもかかわらず〈命令〉を無視する者はまず情動系神経回路をかき乱され、心身に変調をきたす。

 恐怖を伴う強迫観念をトリガーとして――。

 俺はじっと粗野な男を観察する。男には明らかに理不尽な動揺が飛来していた。瞳孔が開き、発汗が始まっている。呼吸は次第に浅く速くなり、手足の末端には震えが生じ、ついに男は一歩、小さく後ずさった。


「ほら」


 アキがそう促した瞬間、第一段階の従属衝動を受けた男は意を決したかのように目を伏せ、わざとらしく大きな舌打ちをした。それから先は動きに淀みはなかった。恐怖から解放された彼は顔に安堵を貼りつけたまま人垣に突進し、「どけ」と叫び、駅のほうへと走り去ってしまった。

 交番前の空間には穏やかな混乱がたゆたっている。消えた男がアキの命令に従って宇宙飛行士を目指し始めたのかどうか、俺以外の人間には判然としないのだろう。一連の状況ではアキが支配者たる能力を有している確証はなく、もし俺がアキの人となりを知らなかったのならば同じような反応をしていたかもしれない。人の壁を構成する誰もが質問することもその場を離れることもできず、消極的にその場に突っ立っていた。


「さて、みなさん」アキは再び手を打ち鳴らす。「困って困ってどうしようもなければ聞きますから、今日のところは解散、解散」


〈命令〉ではないアキの指示は、今度は効果的に働いた。おそらく、代弁者である男がいなくなったからだろう。空気を読む、といった国民性が働いたのかもしれない。煙に巻かれた、と捉えた人もいるかもしれないが、とにかく人の壁は外側から徐々に瓦解していき、やがて流れへと変じた。


「これでいいでしょ」


 アキが振り返り、すっきりした顔で笑いかけてくる。俺はともかく、日嶋は何か腑に落ちない感情があったらしく、遠慮がちに弱々しく訊ねた。


「あの、鈴木くん」

「ん? なに?」

「えっと、彼は本当に……宇宙飛行士に?」

 その神妙な顔つきに、俺は噴き出す。「んなわけないじゃん、日嶋さん」

「いや、でも」

「アキはそんなことしねえって。どうせ、舌打ちして離れろ、とか言ったんだろ」

「うん、ほぼ正解。あと、このことを誰にも言わないように、って。怖がられたくはないけど、ネタバレされたら面倒だしさ」

「ネタバレ?」


 日嶋が訊ね返すと、アキは肩を竦めた。


「ほら、さっきの人がさ、本当は宇宙飛行士なんて目指してないって知られたら今後も似たようなことがあるかもじゃん。それに僕の〈命令〉で事故が起きてもいやだしさ」

「ってことは、鈴木くん、あれは不可能命令だったってこと?」

「え?」

「え?」

「え、って、日嶋さん。言ったでしょ、不可能命令じゃないって。それは深読みしすぎだよ。あのくらいの〈命令〉ならできるよ。なんなら日嶋さんが警視総監を目指すように〈命令〉しようか?」

「いや、それは」


 滑稽なほどに困惑した日嶋を背に、俺は「みんな、〈命令〉を舐めすぎなんだ」と言い残し、アキとともにその場を後にした。視線を感じ、振り返ると日嶋はまだこちらを眺めている。怖がらせてしまっただろうか、と少し反省をする。

 そこで、人の流れがかすかに淀んでいることに気がついた。先ほどまで人垣があった地点の中央で一人の女が佇んでいた。長身で、ウェーブのかかった髪の女だ。微動だにせず、アキを見つめていた。粘着質な視線ではなく、かといって、無機質なわけでもない。見送るような微笑みの感触は不快さから遠く離れた場所にあるように感じられた。


「ケイスケ? どうかした?」

「え、あ、いや、別に」

「変なの」とアキは眉を上げ、それから、少し気怠そうに言った。「でも、なんにしても〈命令〉しちゃったなあ」


 含みのある声色に、俺は改札へと繋がるエスカレーターに足を乗せたところで立ち止まった。いつもは右側をどんどん進んでいくのだが、ちょうど都合のいい隙間があったため、左に寄り、半身になる。アキも俺に倣い、後ろで足を止めた。


「別にいいじゃねえか、あれくらい。正当防衛みたいなもんじゃん。回数制限があるわけでもないんだろ?」

「それはそうだけど、政府の人に報告するのがだるいんだよね」


「政府」と無意識に反復する。繋がっているようないないような、大きすぎる存在の名前に怯み、なんとか「なんだ、それ」と返した。我ながら引き攣った声であると自覚していたが、アキは殊更にそれを指摘することもなかった。


「説明したと思うけど……覚えてないか。ほら、命令したらできるだけ報告するように言われてるんだよ。努力義務みたいなものだからしなかったところで怒られはしないけどさ」

「あー……、それはシカトすりゃいいじゃん、とは軽々しく言えないやつ?」

「そだねえ」

「なんで、わざわざ」

「不安なんでしょ。気持ちはわからないでもないよ」


 改札階に辿りつくと、俺はアキに歩調を合わせ、北口のバスターミナルへと歩いた。達観しているのか、諦念しているのか、アキは政府への愚痴めいたものをそれきり口にしなかった。それどころか「迷子、いないかな」と周囲に視線を巡らせる始末だ。一瞬の配慮はすぐさま吹き飛び、俺は窘めながら、同じように迷子や困った人の発見に努めることにした。

 退勤には早い時間帯の改札前には主婦や若者ばかりがいて、誰もが迷いなく歩いている。アキも内心では助けを求める人などいないと知っているのか、歩みは少しも遅くならず、俺たちはあっさりと人混みを通り過ぎてしまった。残念そうにしてみるが、あまりにわざとらしかったようで、アキは呆れ、小さく溜息を吐いた。


「ねえ、ケイスケ。世直しとか人助けって難しいよね」

「まあそうだよな。いいとこ電車とかバスで席を譲るくらいなんじゃねえの」

「もっと大々的に何かやらなきゃだめなのかなあ」


 ――大々的に、ってなんだよ。本当に世直しなんてしたいと思ってんのかよ。そもそも、アキ、お前、この世の悪いところ、言ってみろよ。


 一気呵成にそう捲し立てそうになり、ぐっと堪える。気を遣った、というより、もっと曖昧な感情に堰き止められた、というのが近い。一方で、なら、と自問する。


 なら、俺は何をすればいいのだろう。


 友人である支配者は政府に紐をつけられながらもできるはずのない世直しを試みている。


 なら、俺は?


 腹の底に溜まる言いようのない靄を隠し、取るに足らない話を振る。政府とか支配者とか命令とか、たった一ヶ月で俺の世界はなんだか果てのない立方体みたいになってしまった。だからたぶん、アキにとってはそれ以上の変化が起きているとも、思った。

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