第二話 彼女は?

「ここはどこ?」 三人はそろって言った。

「え、ちょっと。何なの?帰れたとかじゃないんですか?!」


 今野さんはどうやら光が見えた時に帰ってこれたと思っているようだ。


「すげー! こんなに綺麗な草原なんて久しぶりに見たぞ」


 山田は、草原に驚いてる。驚くところそこじゃないだろと内心思いつつも、結構冷静なところに驚きを隠せなかった。


「感心している場合か! ってか帰れては、いないようだな。なぜか知らないけどちょうどいいサイズの駅も一応あるようだし、ここに電車はおいて近くに人がいないか探そう。そのついでに食べ物を探しながらも行こう」


 僕が指揮を執り、周りを捜索し始めようとしたところ…


「もしかしてここ異世界っすか?! ってことはエルフとかドワーフとかいるんですかね! やべぇ。見てみたい!!」


 お前、それ以上に気にすることがあるだろ。とグダグダになりながらも食料と頼れそうな人を探すために歩き出す。一面に花が咲き誇り、天国と思ってしまうようなきれいな丘ではあるが何もない。


「ってかトンネル引き返せば戻れるんじゃないですか?」

「そうだよ!早く電車に戻って帰ろうぜ!」


 僕自身、そう簡単にいかないとは思っていた。だが、二人が進んでいくので電車の方へと向うことにした。

「よし!電源が付いたぞ!」

「本当ですか?! じゃあもう戻るだけですね!」

「で、そのトンネルはどこにあるんだい?」

「そりゃ目の前にあるでしょ?! さあ早く戻りましょ!」

「それはいいんだけどトンネルがないよ?」

「「え?」」

「よし、お前ら。元の計画に戻ろう」


 もう一度、丘へと戻り周りを見渡すと下ったところにポツンと小屋が立っているのが見える。


「丘を下るだけだけど異世界だと思うし何がいるかわからないから注意していこう」


  僕は二人に念のために注意を促す。今野さんは「はーい!」という感じに手をあげている。山田と言えば、、


「おい、小屋の方に女の子がいるぞ。ちょっと話してくるー!!」

 

 なにも考えずに小屋の方へと走っていくのでそれを二人で追いかけていった。山田に追いつくとそこにはちょこんとかわいい女の子が立っていた。

 僕が自己紹介をしようとすると山田は俺に行かせろと目を送って来たので不安はあるが任せることにした。


「ちょっといいかな?おじさんたち泊まるところもなくて、ここがどこかもわかんないんだ。だから一晩止めてもらってもいいかな?」


え、開口一番それなんですか?違うでしょ?自己紹介は!!としか思っていなかった僕だったが彼は得意のコミュニケーション能力をいかしてなのか、初めて会う異世界人にもかかわらず流暢に話しかけた。

 それに対し、女の子は一言だけ「いいよ。」とだけ言い放った。

 僕は何か嫌な予感を感じたが一晩でも寝泊まりできるのはとてもうれしいことだ。今は文句を言ってられない。泊めてもらおうということにした。

 女の子は笑うことすらなかったが悲しそうな顔を見せることもなかった。こんな僕たちに対し、夜ご飯までも作ってくれた。


「この辺りでとれたものしかなくて質素ですがどうぞ。」


 小学生くらいであろう女の子に料理を作ってもらうのはなにか後ろめたい気持ちもあったが何もわからない中で選んでる余裕もないので頂くことにした。とてもおいしく調理されており僕は驚いた。


「さとう!これおいしいな!!」 


 いや、俺じゃなくて女の子に言ってやれよ。

 

「ってか、君のお父さんとかいないのかい?」


 あ、おいしいじゃなくてそこ聞くのか。しかも結構ナチュラルに。深刻な問題だと思うぞ。親いないって。


「お父さんも、お母さんもどこかに連れていかれちゃって。いつか帰ってくるといわれたのでずっとここで一人暮らしをしています。」


 異世界は簡単に生きられる世界ではなく、過酷なのだなと僕は痛感した。しかし、ずっと黙っていると思っていた今野は、泣いていた。


「苦しいよね、大丈夫だよ。これからはおねーちゃんとこのおじさんたちが君を助けるからね!」


 先輩をおじさんといったことに不満はあるし、そんなに甘い世の中なのではないと僕は思う。しかし、行き場のない僕たちが下手に動いて生き延びれる確証はない。さらに言うと彼女を一人にさせるのはなにかもどかしさが残る。ならば一緒にいた方が僕たちもきっと安全に過ごせるし、安心して彼女の親を待てる。

 あれ、一石二鳥じゃないか。


「おねーさんたち一緒にいてくれてるの?私、うれしいな!」

 そんな女の子の初めて見せた笑顔が決定打になり、ここに居候させてもらうことにしたのだった。

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