ユミル⑧
体が跳ねると同時に銃声が聞こえた。そういえば、銃を持つオーキッドの存在を忘れていた。彼にユミルを倒して油断した所を撃たれてしまったのだろう。
そこでカルマの魔力の流れは電子部分に行かなくなった。思考は停止、受け身を取ることもできず床に倒れ、華奢な少年の姿からピチピチの服を着た大柄なのっぺらぼうとなる。
「ブレインを狙ったとは思うが、ファレノ、どう思う?」
「外れだよ。君が撃った部分はハートとブレインを繋ぐコードの部分だ。人間で言うと動脈かな。それでも機能停止はできるけど」
「ならブレインを確実に撃ち抜く」
オーキッドはカルマの頭部を足で踏み押さえ、銃口を当てる。頭部のAIを破壊をすれば、カルマは今日の出来事を記録できない。証拠の隠滅ができる。
しかしファレルはユミルだった板を拾い上げナイフを捨てながら、オーキッドを止めた。
「やめよう」
「なぜだ。ユミルは破壊されたのだぞ。それにこのドールは戦闘中に大きく成長した。捨て置けない」
「だからだよ。やはりアサナギ君やカルマ君はすごい才能の持ち主だ。仲間にしたいから恨まれたくはないし、僕らが勧誘した事を忘れてもらっては困る」
ユミルが破壊されたとしても、このスパイ期間が無駄になったとしても、ファレノには怒りも悲しみもなかった。それよりも生まれて間もないカルマがユミルを倒したという興奮が勝る。
AIを破壊すれば、カルマはこの記憶を失う。この成長は残してやりたいし、勧誘した事もマスター達に伝えてもらわねば困るのだ。
「それより二度の銃声に今度こそリシテア君達が乗り込んでくるかもしれない。こちらもユミルを失ったのだから勝ち目はない。早く逃げないと」
「……そうだな」
オーキッドは銃を収めた。そして撤退する。倒れてただの人形となったカルマだけが、この部屋に残った。
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