ジュリエット⑥


 「お前、そんなの余計恨まれんぞ……」

 「ニルさんにはね。でもジュリエットはそうじゃない。今までこき使われてきた彼女達が、そんな答えを見れば、さすがに恋も冷めるかもしれない。そうすれば二体ともニルさんの所にいたくないと思うはずです」

 「あ……」

 

 アサナギの狙いを、ようやくカルマは理解した。ニルは悪く言えば恋愛感情を盾にしてジュリエットに利用している。そんなマスターのためにドールを一体破棄なんてしたくないし、二体ともなんてやれるはずがない。

 だから判断をジュリエット達に委ねる事にした。彼女達の目で判断させ、彼女達から諦めるように仕向ける。そうすれば二体のドールはそれぞれ別マスターの元に預けるつもりだ。彼女達は本来優秀だし、ニルがいなければトラブルを起こす理由もないのでどちらも破棄はしない。それが一番の選択だとアサナギは考えている。

 

 「ちなみにこのカメラは証拠用とジュリエット達に見せる用です。ジュリエット達は別室で待機しています」

 「証拠用って?」

 「あとでニルさんがごねた時用です。ニルさんがジュリエットを当てる時、薀蓄をたれればたれるほどわかっていない証明にもなります」

 「お前ほんとに悪い女だな」

 「いえいえ、それほどでも。それにニルさんが少しでもこの二体がジュリエットでないと気付くようなら二体とも預けますよ」

 

 アサナギはくすりと微笑む。一応は彼女もそこまで悪い女ではない。ニルが少しでもアサナギの企みに気付くのなら二体を預ける。しかしその可能性が低いからこそこれだけの下準備をしているのだろう。

 

 そして準備は完了し、ニルがやって来た。少し痩せたし顔色の悪くなった彼は、二体のジュリエットもどきをしばらく見比べる。

 

 「時間はいくらかかっても構いません。納得するまで考えてください」

 

 一応アサナギは伝えたが、本当はわかっている。ニルはなるべく早く、今日中には選ぶと。なにせ彼は身の回りの事を自分でしたくない。今日ジュリエットを連れ帰りたいだろう。

 しばらく眺めてそれとなく会話して、ニルは決めた。

 

 「黒髪の子がエットだ。そばにいるだけで心落ち着くような、やわらかな雰囲気が間違いない。そして赤毛がジュリ。マスターが変わったからといってその熱烈な視線は変わらない」

 

 予想通り、ニルは自信満々な様子で答えを出した。それも薀蓄たれた上でだ。これならあとで文句は言わないだろう。彼もそこまで恥知らずではない。

 別室では一体どうなったか。アサナギは端末を操作し、ジュリエット達のいる部屋のカメラとつなぐ。どちらのジュリエットも座った状態で脱力していた。その部屋で待機していたリシテアは丸と手でサインを送る。『喧嘩や自暴自棄になることはない様子だから大丈夫』という合図だ

 

 「では、工房への手続きは私が済ませておきます」

 

 答えに対してなんの反応も見せず、アサナギとカルマはその部屋を後にした。ネタばらしでなく回答はジュリエットもどき達のマスターに任せる手はずとなっている。

 

 「まさかお前の思うように進むとは……」

 「こうなるとわかっているからここまで面倒な準備ができたんです。ちなみにニルさんがどうしても一体選ぶとしたらの手紙、どちらの名前が書かれているかも、当ててみましょうか」

 「まじでわかんの?」

 

 別室の席につき、報告用の書類を見ながらアサナギは答えた。

 ジュリかエットか、どちらかを選ぶとしたらの名前を書かれた手紙。それは現在カルマが持っている。その封は開けられていない。ジュリエット達に余計な事が伝えられぬよう今の試練が終わるまでカルマに預けられたためだ。なのにアサナギは当てるつもりで、その表情は自信に満ちている。

 

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る