ジュリエット④


 「で、でも、君のドールだってメイドの格好をして君に尽くしているじゃないか!皆だってそうだし、それと僕がどう違うっていうんだ」

 「違いませんね。ジュリエットもリシテアも変わりありません。だって、本人が好きでやってる事ですから」

 

 ニルも反論するがアサナギはそれを肯定した。たしかにリシテアもアサナギのためならなんだってやる。そういう性格な上にお嬢様命だからだ。そしてそれはジュリエットも同じ。

 だったら何が悪いとでもニルは言いたげだ。

 

 「ただ、リシテアは主従関係、ジュリエットは恋愛感情を原動力に働いているんです。けど、ニルさんの愛情がなくなったらどうするんです?働くと思いますか?」

 「愛情、なら、あるに決まってるだろ。それにジュリエットは文句を言わずに働いてくれる」

 「一体ならそうなります。けど二体だったらそうはいきません。単純に考えてニルさんからの愛情は半分になりますから」

 「半分って、そんな数字で測れるもんじゃないだろ」

 「はい、測れません。それはジュリエット達も同じでしょう。だから常に疑心暗鬼に、どちらがより愛されているかを探り敵視すると思います。いくらニルさんが平等でも争いは絶えないです」

 

 そこがリシテアとジュリエットの違いだ。愛情は測れないからこそだいたいで考えるしかない。しかしジュリエットの場合は恋愛感情から完全で平等な愛情であることを望む。そうなると生活がうまく行くはずがなくどちらかが愛されているか、争うばかりだ。

 そんなことはこの部屋の荒れた惨状を知っているはずなのに、未だにニルは二体のジュリエットを望む。そこまで非情になれないのか、労働力二倍と考えているのか、片方を捨てるつもりはないらしい。

 しかしアサナギは最初にした冷たい選択を提案する。

 

 「私はドールを二体持つ者なので、先輩としてミモザさんにどうするかを決めるよう頼まれました。しかしこの状況を見ると、どっちかのジュリエットを破棄する事をおすすめします」

 「なっ、どっちかを捨てるだって!?」

 「今のニルさんでは二体のドールを不幸にします。そんな事はミモザさんも私も見過ごせないです」

 

 二体ドールを持つマスターとして、アサナギは頼まれた。もちろんリシテアという縁もあるが、ニルの器を見極められるのはアサナギくらいだ。

 そしてこの器では二体とも、そしてマスターごと駄目になるとアサナギは判断した。一体ならうまくいく。今までがそうだったのだから、そこに戻すしかない。

 

 「じゃあ君は、君の器なら二体のドールを幸せにする事ができるっていうのか?」

 「それはわかりません。それはカルマとリシテアが判断する事ですから。でも、私の決断に納得できないのなら、一度試してみましょう」

 「え……」

 「どちらがジュリとエットか、シャッフルして当ててもらうんです」

 

 さすがにドールのこれからがかかった事を即判断する事はできない。なので、アサナギはニルにチャンスを与える事にした。よく似ている、むしろほぼ同じなジュリとエットを見ただけで当てる。それならば愛情や絆を示すことができるため、アサナギも認めるだろう。ジュリエット達も喜ぶ。勝ち目のある試練にニルはほっと笑みを作った。

 

 「ただしジュリとエットはこのまま電池を抜いて、別のマスターに魔力を入れてもらった状態で、です。前情報無しです」

 「そ、そんなのもう別人じゃないか!できるはずがない!」

 「だから試練になるんです。ちゃんと当てた場合は同一ドールを二体持てるよう私の方から工房に言います。悪くない条件だと思いますよ」

 

 同じドールであっても前情報も無しに別のマスターが魔力をいれれば、それはマスターの癖が大きく出た別人の姿となる。しかし頭脳はそのままなので会話はできる。その会話からニルは判断すればいい。なにより確率は二分の一だ。それでドールを二体持つという、限られた強者の振る舞いが許される。

 

 

 

 

 

 

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