レダ⑨
「しがみついた結果、私の魔力が無意識に彼のマスターの魔力を上書きしたようです。彼に手足が生え、幼くなって、私のドールとして復活したのです」
「手足って生えるもんなのか」
ドールはAIと電池さえあれば本来起動できるものだ。しかしそれだけでは一般のマスターには難しいため、イメージしやすいよう素体は人の形をしている。しかしアサナギには関係なく、レダは手足のある強いが幼いドールとして再起動させた。
「レダは敵ドールを倒し、私を連れ安全な場所へ避難もできました。しかし私は魔力の上書きだとか、素体が不完全な状態で手足を作り出したとか、ありえないことをしました。そして工房へ連れていかれ、レダの前マスターも亡くなっていたため、年齢は足りなかったとはいえ特例で彼のマスターとなりました」
マスターの資格はまずドールを動かせる程の魔力を持つこと。そして十五歳以上である事。というものがある。当時十歳と少しのアサナギはマスターになれるはずはないが、ここまでの結果を残した特例としてマスターになった。
「前に言った、『体が不自由なら魔力強くなる説』もこの時に発見されました。発見したのはミモザさんです。だから彼女は私のお姉さんというかんじに仲良くなりました」
「お姉さんっていうかおっさんだと思うんだけどな」
「ふふ、確かに。でもそれからは私とレダ、ミモザさんで普通の事をする事にしました」
「普通のこと?」
「お喋りしたり、さっきも言った絵本の読み聞かせをしたり、大人達のいる仕事場を遊び回ったり、お料理もしたりしました」
まるで幼馴染や兄妹のようだ。だから彼らはお互いが特別なのだろう。事情はよくわかった。しかし謎なのはなぜ今アサナギがこの事を話したかだ。
彼女はあまり過去を話したがらない。苦労が多いし、控えめな本人の性格からだろう。しかし今は普通の少女のように柔らかな表情で語っている。
「そうしてレダが最強のドールになりかけていた時に、私とレダがコンビ解する事になりました。私は前線には出られないのにこんなに強いドールはもったいないということで。そして約束をしました。もしレダが破壊されるであろう任務に行く前には再会しよう、と」
柔らかな表情から一転、固く重い表情となる。その辺りからはカルマも知っている。レダはその約束を利用した。マスターでなくなってもアサナギに会いたかったのだし、何も考えずに精一杯二人の時間を過ごしたかった。
しかしアサナギはどうだろう。その約束を悔いているのかもしれない。何度もレダが破壊されるとわかっていながら、精一杯レダに平気な振りして会わなければならない。
「……だから昨日はふたりで近況報告をして、それから西ブロックの孤児院に向かいました。私が昔暮らしていたところです」
「へっ?」
何度もその約束が行使される事についてはアサナギは語らなかった。そのことにカルマは声を裏返りそうになる。しかしレダから聞いた話は言わない方がいい。アサナギだってまだ語れない状態なのだろう。
「孤児院には食料や勉強道具とか、そういう必要そうなものをプレゼントしたんです。あ、もちろんレダの外出申請は取っていました」
「ふぅん……」
「それが、貴方の聞きたかったことでしょう?」
カルマの顔を覗き込むようにアサナギは尋ねた。カルマはそれに動揺する。どうして見抜かれたのか。
「里帰りの日、貴方とリシテアが私を尾行していたでしょう?」
「はっ?」
「えっ?」
噛み合わない会話。そこからアサナギは自分が勘違いしている事に気付く。カルマも訂正した。
「尾行したのはリシテアだけだ。すぐ帰って来たが、俺はついていってねーよ」
「ではリシテア一人でしたか。勘違いしてごめんなさい。リシテアの気配はあったので、ついでにカルマもついてきたのかと」
勘違いをしていたが、アサナギの読みは正しい。カルマがリシテアに尾行に誘われた事は事実だ。しかもリシテアは変装もして尾行しているのに、よく気付けたと思う。
「なあ、どうやってあんたはリシテアに気付いたんだ?」
「電池の反応ですよ。なんか今充電可能だなぁ、と感じたので」
「そういうもんなのか」
会話が途切れ、ほのかにアサナギの頬に赤みがさしていることにカルマは気付く。なぜアサナギは過去を語ったのか。それはこの勘違いが原因だったのではないか。
「もしかして、尾行されて変に勘ぐられるくらいなら自分の口から話したいと思った?」
「……黙っているつもりはなかったのですよ。ただ言う機会がないだけで」
子供のように言い訳するアサナギを見て、カルマも子供のように笑った。多分、レダが知るアサナギはこんな少女なのだろう。
なのにいつか失うことに慣れてしまう日々が来る。そんな焦りの中、自分だけは何があっても破壊されないようとカルマは決意した。平等にドールを愛する彼女はきっとレダの破壊と同じくらいにカルマの破壊を気に病むはずだ。
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