レダ⑧
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図書館でレダに押し付けられるようにして借りた本を、自室に帰ってきてたカルマは読みふけった。紙の本は三冊。まだドールの生まれていない頃に生きた人間が書いた童話だ。小説を書くAIは確かこの時代や今の時代にも存在はするが、あまりカルマには響かないものだった。AIとは学習の繰り返しからなるものなので、反応のいい語句や展開をただ並べたようなかんじがするのだった。
読んでいる途中、ノックがあった。遠慮がちなその音はアサナギのものだろう。どうぞと読みながらカルマは答える。
「工房のメンテナンス日が明日に変更したようです。なのて明日は早めに起動してください」
部屋に入り業務連絡を淡々と済ませたアサナギだが、カルマの持つ本に視線を止めた。
「今日、レダに会いましたか?」
「……なんでわかんの?」
「その本、昔私がレダに選んであげた本ですから」
カルマは声に出さずレダに恨み言を言った。本を選んでくれたのは親切にしたようで単純にのろけたつもりなのかもしれない。もしくは図書館の本でなにか借りればマスターに連絡が行くので、アサナギが反応するかを試していたのかもしれない。
「座っても?」
「ドーゾ」
ベッドと椅子しかないような部屋だが、カルマがベッドに寝転んでいるためアサナギは椅子に座る。そして少し迷った様子で口をひらく。
「レダは、見た目とは違って読書家でしょう?」
「そうかもな。見た目とは違って」
「私、昔にレダとどう話せばいいのかわからなくて。年下の男の子の世話はよく見ていましたが会話や絵本を読んでやる事もできなかったから」
視線は本のまま、カルマは納得した。孤児院育ちのアサナギは年下の子供達の面倒を見たりしたのだろう。しかし耳が聞こえない彼女は正しく発声できないので絵本の読み聞かせまではできなかった。
「当時魔力で聴力をカバーできたばかりの私は、喋ることにも慣れていなくて。だからレダと一緒に本を読んで、一緒に練習をしました」
現在滑らかに会話するアサナギも、魔力と本人の努力のおかげでドールとの会話は違和感なくできるようになった。それはレダにとってもよい成長で、二人が打ち解ける結果にもなったのだろう。
「もっとも、レダはすでにそれなりの教育を受けていて。私が付き合ってもらったようなものですが」
「え?、すでにって……」
「レダは私より前にマスターを持っていました。それが事情があって、私の初めてのドールとなりました」
レダがアサナギの前にマスターが居たというのは意外だ。あれだけアサナギを特別視するのなら、きっと彼も初めてのマスターがアサナギかと思えたのに。
「私が孤児院に居たときの話です。孤児の皆で農場のお手伝いをしていた時に戦闘に巻き込まれて、私はそれが聞こえずに逃げ遅れました。その時に出会ったのがレダです」
それは今まで語る事のなかったアサナギの過去。それもマスターとなるきっかけの話だ。寝転がって聞いていい話ではないと、カルマは体を起こす。
「レダほ手足がなく、敵ドールに畑までふっとばされた状態でした。そこで私の中に初めて声が響きました。『逃げろ』、と」
「電池の部分は無事なのか。前のマスターの込めた魔力が声になったって事?」
「はい。とはいえ、それを当時の私は理解できません。それに足はすくんで動けません。なので私は、レダに救いを求めました。彼の体にしがみついたのです」
AIと電池のある頭部と胸部が無事なら会話くらいはできるかもしれない。しかしそれだけだ。敵ドールと戦う事なんてできない。
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