レダ⑥


 そして同じように目立つ人物を、カルマはすぐに見つけることができた。

 

 「あんたは何代目のレダだ?」

 

 どんな本棚であっても届きそうな長身で本を取ろうとするレダ。彼を見上げ、図書館なので小声でカルマは尋ねた。レダは一瞬驚いた顔をしているが、やがて何もかもを理解したように微笑む。

 

 「五代目だ。もっとも、アサナギは三代目だと思っているから内緒にして欲しい」

 「つまり俺がこの間会ったのは四代目か。アサナギはあんたが破壊された回数を正しく知らないんだな」

 「うむ。まぁ、どうにか四代目のままでいたかったのたが今回も無理だった」

 

 このレダは戦闘によりすでに四回、修復不可な程に破壊されている。うち三回はアサナギも知らない破壊だ。

 そしてその度に工房に残されたバックアップデータを復元し、蘇っているのだ。

 それにカルマが気付いたのは、彼らの発言だった。

 

 「あんたはアサナギのとこを巣立ってから会っていないと言った。でもリシテアが言うには二年前にも会っていたそうだな」

 「ああ、あの頃の我は三代目だ」

 「アサナギと再会した時のあんたは、まるで『小学生の頃から会っていない親戚』みたいだ。二年前にも会ったはずなのにその反応もおかしい」

 「一応、我がアサナギから巣立ったのは、彼女が十四の頃なのだがな。まあ、あの娘は栄養がたりていないから小学生みたいなものか。今の彼女はちゃんと成長しているのだろうな」

 「そうか。あんた、この間アサナギとでかけた時の記憶がないんだったな」

 

 話しているうち新たな情報にカルマは気付いた。今日のレダは最初カルマを知らないようだった。しかしこの間のカルマと出会った時のように、メールなど前情報から存在は知っていたのだろう。そしてこうして図書館に何代目かを聞きに来たことにより、カルマが考えていること全てを理解した。

 『なぜ破壊される前にアサナギと会うのか』と、カルマは聞きに来たのだ。

 

 「我らドールは定期的に、もしくは破壊されるであろう任務に赴く時にはデータ更新をして、復元のためのデータを残す。それは『RPGでボス前にあるセーブポイント』のようなものだな。それで我はそのセーブポイントからボスに挑むまで、アサナギに会うようにしている」

 「どうせならアサナギに会ってからセーブすればいいじゃないか。そうでないと、……復元された時にその記憶が残らない」

 「それで良いのだ。これから死ぬという時に最愛の人間に会うと、うっかり弱音やかっこつけた事を言ってあの恥ずかしい記憶があの娘に残るのは避けたい」

 

 どうせなら死ぬ前に楽しい記録は残しておきたいというのがカルマの考え方だ。しかしレダは生きて帰るかもしれないし、復元できるドールならではの考え方をしていてあえて記録を残さないらしい。

 

 「それに最後の逢瀬を楽しんだのは四代目だ。五代目の我ではない。それは少し不公平だろう?」

 「それは、まぁそうだけど」

 「それにAIで保存しなくとも記録は残せるのだ」

 「は?」

 

 カルマが思わず聞き返すとレダは持っていた本を指先だけで叩いた。

 本。それならば簡単に消える事のない記憶媒体だ。しかもすでにレダは書籍を勧めていた。紙の本か電子書籍を持てと。それは何度も復元をし一部記憶を欠いている彼こその意見だ。

 だからカルマはレダが図書館にいると考え探したのだが、レダはそれだけでない。カルマの記録を残すために彼は他の記憶媒体を勧めた。

 

 「日記か」

 「そう。それなら紛失か自分から破棄しない限りなくならない。ドールには文字を書く習慣自体ないであろうが」

 「……確かにな。俺達はメモを取ろうと思えば目で見ただけでとれるし、入力ならともかく筆記の必要はない。予定を記録する位なら出来るだろうが、日記レべルとなるとな」

 

 改めて日記の難しさにカルマは気付く。ドールはその日の出来事を書くだけならできるが、そんなものはスケジュール帳だ。日記というからにはその出来事に遭遇してどう思うかを書くまでしなければならない。そしてその行動はドールには難しい。感情はあっても、それを自覚し文字にするとなると途端に難易度が上がるのだ。

 

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