レダ⑤
「マスターの同伴、もしく申請をすれば一人でも行けるのですが。そこまでの備えはありませんでした。それですごすご帰ってきた、と言うわけです」
「さすがにそんな準備までしてたらお前はやべえ奴だと思う。しかしなんでまた西の外れの方に二人で用があるんだ?」
リシテアの尾行作戦はともかく、アサナギとレダが遊ぶのにふさわしい中央から物騒な外れに行く理由がカルマは気になった。戦闘に巻き込まれるかもしれないし、良からぬ輩に売り飛ばされるかもしれない。最強だというレダがいるのなら何も起きないとは思うが、デート向きの場ではない。
「西の方には農場や工場があるようですが、ほのぼの農場体験や工場見学デートでしょうか」
「いや、外れにある施設ってのはたいていが効率重視で従業員以外入れないだろ。ていうかいかにも労働施設ってかんじで見てて楽しくないだろうし」
クウェイル国境付近となればいつ戦闘に巻き込まれるかわからない危険地帯だ。そんな所で高価な品を生産するわけがなく、最低給料で雇った人間が最低レベルの食品や部品などを作っている。外部からの見学を受け入れるような事はない。
「まぁ、諦めたらどうだ?確かに謎だが、デートを尾行しようって考えが間違いなんだよ」
「……私はただの好奇心で尾行したいのではありません。お嬢様が泣かされていないか心配なので尾行したいのです」
「アサナギが泣くとか、そんな事はないだろ。本人の性格的にも、レダの性格的にも」
前にアサナギは暴力を振るわれても平然としていた。レダも豪快そうだが細やかな事に気付き思いやれる性格だろう。そんな二人が泣かし泣かされたりする事はありえないたカルマは考える。
「でも、前にレダとのデートから帰ってきたお嬢様はしばらく元気がありませんでした。見るからに気落ちしていて」
「それ、いつごろ?」
「二年前、でしょうか。それとなーく聞き出してもお嬢様は何もおっしゃいませんし」
その証言には矛盾がある事にカルマは気付く。まずはレダは巣立ってから今日までアサナギに会っていないという発言。そしてリシテアの二年前に会ったという発言。連絡はとりあっていたため記憶を混同しているのかもしれない。
しかしさらにもう一つ、アサナギの身長について大きくなったと言った点だ。現在アサナギは十七歳。二年前は十五歳。人の成長はそれぞれではあるが、女子ならば十五歳あたりで身長はそう伸びなくなる。彼女よりもさらに身長が伸びたレダが『大きくなった』と言えるほどの伸びではないはずだ。
そうしてカルマはその矛盾から導き出される真相に気付き、口を閉ざした。
もし『そう』だとしたら、アサナギが落ち込むのも何も話さないのも分かる。そして自分もリシテアに言うべきではない、とカルマは考えた。
「あいつが落ち込んでるのならさ、好物でも作って待っててやれば?」
「そ、そうですね。私は落ち込む理由を知ったとしても、きっとレダを抹殺する事しかできません。ならばお嬢様を励ます方がいいですよね」
「最強を抹殺するってすごいな……」
カルマの提案にリシテアは張り切って台所へと材料の確認をしにいった。この件に関してリシテアもカルマも何もできない。ならば落ち込むマスターをさりげなく励ますしかない。ただし気付いてしまったカルマにはもう一つ、できることがある。
■■■
与えられた休日。カルマは工房近くにある図書館を訪れていた。そこはドールの教育のためにある図書館なのだろう。マスターとドールが多く、紙ではあるが古く価値のない本しか置いていない。教育といっても精神を人間に近付けるという面が強いためだ。コードでつなげばなんでも覚えられるドール達が、多くの娯楽の中から自ら好きなものを選択する訓練のための施設といえる。
なのでマスターが本を選んでやり、ドールがそれを文句を言わずに読むドールという組み合わせがちらほらと見えた。
単体で来たのはカルマくらいで、その人間に近い姿から目立つ程だ。
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