レダ③
つまりレダは電池容量が少ないため起動時間が短くマスターから距離を置いた生活はできない。一方新型のカルマは電池容量が大きいため起動時間を気にする事なく過ごしているのだった。
「電池、変えて貰えばいいのに」
「それが無理な話なのだ。我のAIは順調に育ったのだがあくまで旧型で、大容量電池とは相性が悪くてな」
「そんなんあるんだ」
「うむ。同じく旧型の電池でないと動けなくてな。なんとか新型と旧型で噛み合うようAIデータを調整しようと職人も頑張っているのだが」
職人とはミモザのような人間のことだろう。しかしAIのデータは膨大だ。レダが見て聞いて考えて戦った経験が全て蓄積されていて、それをひとつひとつ合わせて今の電池に合うようにするのは難しいのかもしれない。
「カルマは何週間くらい動けるのだ?」
「たしか……リシテアが言うには、単独行動で派手めに動いて一週間か。アサナギも近くにいたら自動充電できるとか、そんな事を言っていたような」
カルマは自分の限界については知らない。まだ起動して間もないためだ。なのでリシテアの言う話を参考にする。アサナギと離れてなら一週間。スリープなど節電モードにすればもっと活動できる。そしてマスターと共にいれば無限らしい。その無限というのも自動充電という、アサナギのみ使えるような規格外な能力のためだ。位置情報が近く視認できれば魔力を飛ばせる。
もちろんアサナギは普段ドール素体の胸に手を当てて直に触れるようにして魔力を送るのだが、やろうと思えば遠隔でもできるという事だ。
「なるほど。やはり新型は羨ましいな。戦闘ならばなんとかする自信はあるのだが、時間だけはどうしようもない。常に時間を気にして戦うかマスターに前線に出てもらわなければ」
「……そっちのマスターはどういう人?」
「元傭兵だ。だから前線に出ることに抵抗はないが、流石に生身の人間がドールと戦うのは危険ではあるな。隻眼であるし」
隻眼。そう聞いてカルマは細部まで人間に近いレダの姿に納得した。片目の視力を失ったから、アサナギには劣るもののそれなりの魔力を得たのだろう。
しかしそれでもマスターが戦闘を生業としていたのなら前線に出ても足を引っ張る事はない。レダも充電しながら戦える。
こういう戦い方ができないから、レダとアサナギはコンビ解散と命じられたのだろう。
「まあ、こうして休みもくれるし、特に偉ぶる事のない戦友のようなマスターだ。ただ、電池の容量的に一日しか自由がないのが難点だな」
「休みとかあるんだ?」
「ああ、カルマにはまだ休みがないのか。起動して間もないのだったな。基本マスターは僅かではあるがドールに給料や休みを与えることになっている。AIの成長を促進するためであるな。ただ我のようなドールは自由行動といっても一日しか自由になれず結局はマスターの世話になるのだが」
人間に近いほどに強くなるAIだからこそ休息や自由行動する必要がある。与えられた事をするだけでは何も成長しない。ドールが自分で選ぶ行動こそ、AIが成長するきっかけとなる。そのための休暇と給料で、レダはアサナギに会いに来れたというわけだ。
「カルマもアサナギから休みを貰えたなら、ドール用の図書館や本屋に通うといい。いきなり自由にしろと言われても困るだろうからな」
「なんで図書館?紙の本なんてさ。俺達なら頭の中に直接情報いれられるし、人間だって電子書籍にするだろ」
紙の本はこの世界では珍しく骨董品に近い扱いで、どちらかといえばマニアが集めるものだ。わざわざ図書館で探して読むような人間自体少ない。
そもそもドールは常識や必要なスキルなど、すでに頭脳に入っている。戦場の地形などもデータとしてコードをさせばインストールできるのだから、やはり紙の本を選ぶ理由はない。
「電子書籍でも構わぬ。ようは自分以外に記憶媒体を持つことだ」
「……まぁ、電子書籍なら買ってもいいけど」
カルマは手元の端末を改めて眺めた。ドールは万能に見えるが通信機能は備わっていない。データのやり取りをするにはうなじにコードをさしてつなぐしかないのだ。なので連絡を取り合う端末を渡されていて、それで買い物もできてしまう。
しかし最強のレダが言うことだ。なるべくは紙の本を買うのもいいかもしれない。
二人の男性体ドールの長い待ち時間はそこで終わった。アサナギとリシテアかようやく出て来たからだ。
「お待たせしました」
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