レダ②
「彼が最強と呼ばれるようになったのはお嬢様の元を巣立ってからですよ。まあ、その前のお嬢様の魔力と教育が良かったとも言えますが」
お嬢様ばかであるリシテアは胸を張って言う。アサナギの魔力があれば、最高レベルの身体能力を体感することができたはずだ。その直後にマスターが変わり能力低下する事になるのはやりにくいだろうが、長期的に考えれば悪くない経験だ。身を持って性能のいいドールの状態を知ることができたのだから。
そしてアサナギの性格ならドールを大事にする。AIを、精神面を気遣うことだろう。その経験だって最強に繋がる。
と、ここで部屋の呼び鈴が鳴り、リシテアは飛び上がるようにして慌てた。
「いけない、もういらしたのでしょうか。まだお化粧も終わっていないのに」
「俺が出てやるから、リシテアはアサナギがはやく出られるよう手伝ってやれば?」
「……カルマ、ありがとうございます。お願いしますね」
予想外の手伝うような態度のカルマにリシテアは感動した。あの生まれたてほやほやの頼りなく生意気な後輩が気を使ってくれるなんて。リシテアはその思いを無駄にしないためにも急いでお嬢様の身支度へと戻る。
一方カルマはのんびりと玄関へと向かった。時間稼ぎを申し出たのは、』最強』に興味があるためだ。こんなに素早く力強く動ける体を得られたのだ。強さを極め、ドールの頂点に立ちたい。カルマはわかっていた。もうアサナギ以上のマスターには出会えない、と。
それでもいつか巣立ちの時は来る。アサナギは前線向けのマスターではないため、いつか離れる時が来るだろう。それまでに何かを学び、強くならねばならない。
「はいはい、ちょっと待って下さいね、と」
そう言いながらカルマは玄関扉を開けた。しかし彼の視線の先に人の顔はなかった。おかしく思い、視線を上げる。そこにいたのは赤みのある髪をした、筋骨隆々とした美丈夫だった。
「我はレダという。アサナギと約束していたのだが、彼女の支度は整っているだろうか?」
低く響く声に古風な口調。フリルなど絶対似合わないような厚い胸板と筋肉が目立つシンプルな格好。そして豪快に笑う顔。確かに写真の少年の面影はあるが、
「話が違う!」
カルマは大きく突っ込んだ。最強のドールレダとは自分と変わらない体格の少年ではなかったのか。
しかしカルマは思い出す。前にニクスというドールにアサナギが魔力を入れた時の事を。ニクスは本来のマスターでは青年であるはずだった。しかしアサナギが魔力を込めるとドールの容姿が幼いという癖が出る。
今回もそれだ。アサナギの元にいた時は少年だったが、別のマスターの元で青年となったのだろう。
「話が違う?約束していたのはこの時間だったはずだが、」
「あ、ええと。もう少し待ってくれ。まだ支度に手間取っている」
「ああ、構わぬ。女の支度は時間がかかるものだ。そしてかかればかかるほど期待できる」
騎士というよりは侍ではないか。そんな考えがカルマの頭の中をよぎった。そんなカルマの姿をレダは楽しげに眺める。
「確か、貴殿はカルマであったか。最近起動したばかりだという」
「ああ、アサナギから聞いたのか?」
「事務的なものだが、メールのやり取りをしている。会うのはコンビ解消して以来だからな」
意外に二人の繋がりは疎遠らしい。リシテアが言うにはマメに里帰りしているのではなかったのか。里帰りというからには何か行事があるごとに帰るものではないのか。
「やっぱり最強って忙しいの?」
「うむ、忙しい、というか電池の都合上だな。我は旧型だから」
「旧型?」
「はは、新型でアサナギの元にいるカルマにはあまり気にした事のない問題だろうな。マスター無しでの活動時間に限りがあるのだ」
ドールの活動時間。確かにそれを今までカルマは気にした事がなかった。
ドールには電池という、マスターの魔力を溜め込む部位がある。そこにある魔力を利用し、彼らは姿を変え動いているのだ。当然魔力が消えれば動けないし、木でできた素体に戻る。
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