レダ①


 訓練と雑用のような任務が続く日々の中、その日はカルマにとって突然やってきた。

 朝からアサナギとリシテアが慌ただしい。二人して洗面所とクローゼットとアサナギの私室を行ったり来たりとしている。

 今もリビングで過ごすカルマの前をコテとカーディガンを持ったリシテアが忙しく通り過ぎていった。

 

 身支度に時間をかける彼女達ではあるが、今日は特別だった。

 そしてカルマは思い出す。今日はアサナギが『騎士サマ』と会う日だと。

 

 「なぁ、騎士サマってなに?」


 カルマはこっそりとクローゼットに向かい、何かを探しているリシテアに背中から尋ねた。リシテアは探す速度はそのままに答える。

 

 「騎士サマとは、ミモザ様がつけられたあるドールのあだ名です。本名はレダ。現在この政府と工房において最強のドールと言われています」

 「最強の、ドール?」

 

 それがアサナギになんの用だというのだろう。確かにアサナギの膨大な魔力は最強に釣り合うが、彼が会いに来る理由もめかしこむ理由もわからない。

 

 「お二人はまれに会う約束をしているようです。デートだと私やミモザ様は考えています」

 「デート!?」

 

 それは全く縁のない話題であるためカルマは大きく聞き返してしまう。デート、それはこの世界の人間にはあまり馴染みのないものだ。男女が二人居たとして、貧困からそれどころじゃないカップルは多いし出掛けて楽しいような場所があまりないためだ。

 

 「なんでまた。しかも相手はドールだろ?」

 「私は二人が意識をして出掛ける事をデートだと思っております。ドールかどうかは関係ありませんよ」

 「そう、だけどさ。そもそもどういう縁でそのレダっていう最強のドールとアサナギか知り合ったって言うんだよ」

 「お嬢様が初めて人形に魔力を入れたのがレダだそうです。私達の先輩、ですね」

 「……は?」

 

 初耳だった。カルマは最近起動したため知らない事は多いが、まったく聞いたことがない。しかしドールとマスターは問題あれば組んだり別れたりする場合も多い。アサナギが初めて組んだのがレダで、しかしコンビ的にうまくいかない事情があって別れた。そしてリシテアやカルマと組む事になったのだろう。

 

 「お嬢様が最初に起動したドールがレダです。しかしレダは前線向きの性能のため、現在別のマスターに預けられています。お嬢様は前線向きではありませんから。そしてたまに二人は会う約束をしているのです」

 「つまり、里帰りみたいな?」

 「そうともいいます。しかし私達がいては落ち着かないでしょうから、二人には出掛けてもらおうかと。中央なら少しは娯楽施設もありますし」

 

 マスターとドールに絆はないにしても、場合によってはあるのかもしれない。とくに最強のドールと最強のマスターには。

 化粧筆を出して、リシテアはカルマの持つ通信端末を示す。

 

 「そういえば、端末にレダの写真があったはずです。数年前、コンビ解消前に撮ったものが。フォルダの最初の方です」

 「ふうん」

 

 興味なさげにカルマはつぶやくが素早く指先を通信端末を滑らせる。これは親を取られたみたいな嫉妬ではない単純に最強のドールが気になるだけだ、と自分に言い聞かせた。

 そしてその写真はすぐに見つける事が出来た。記録された日付から察するに三年前のものだ。

 

 写真では今より幼いアサナギがぎこちなく笑っている。その隣にいる赤毛の少年がレダだろう。カルマと変わらない背と外見年齢で、ミモザの趣味らしい中世の騎士見習いのような格好をしている。無機質な背景からこの部屋で撮影したものと察する。

 その写真にとくにおかしいところはなかった。しかしカルマはそれ故におかしいと思う。

 

 「なんか、思っていたより普通?」

 

 写真データの少年は顔の作りが整っているが細身で、最強という単語が似合う容姿ではなかった。最強であるからには長身で筋骨隆々であってほしいものだ。

 

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