リシテア⑤


 魔力というものが発見されたのは最近の事だ。人工知能を使えば生活が楽になるのはわかっているが、まだ時間やコストがかかりすぎていた頃のこと。人類は偶然に近い形で非常識な力を発見し、それを魔力と名付け人工知能と組み合わせることによりドールが生まれた。

 魔力とは奇跡的な発見だったのだろう。その時だって、これが戦闘の道具になるだなんて誰も考えなかったはずだ。

 

 「だから魔力が強いからといかにも戦闘向きな容姿のドールができるわけではないよ。逆に見た目いかついのに弱いドールもいるしね」

 「確かにいるな、ゴリラみたいな顔して腕力が俺以下のやつ」

 「戦闘力とはオマケなんだろうね。まぁ、なんのために神様が魔力なんて与えたかは知らないが、私は人類が進化するためだと考えるね」

 「進化?」

 「生物は環境に適応できるものしか生き残れない。だから魔力が適応の結果だ。意味もなく何か新しいことができるようになるとは考えにくい」

 

 突然魔力なんていうものか生まれたからにはなにか意味がある。それが生きるために必要だから変化したと考えるのが普通だ。 

 それに体の機能を失う事により魔力が増すとアサナギも言っていた。それは生きるために足りない情報を他の器官で得るというような変化かもしれない。

 さらにミモザは専門家らしい事を語る。

 

 「これは私の推論でしかないのだけれどね、アサナギのドールの容姿は彼女の知る人間全ての平均顔なんだと思う」

 「平均顔って、なんだそりゃ」

 「彼女は孤児院育ちでよく見ているのは同じ孤児だった。それか子供の世話に来てくれる人。その人達の容姿の特徴は?」

 「子供か、優しげな女の人……?」

 「そう。だからアサナギのドールは小さい子が多い。女性体が男性体に比べてやや成長しているのは世話している女の人の影響かな」

 

 そう言われればカルマもこの容姿の謎について納得がいった。そして自分の幼さも。さらにアサナギの自分に対する姉のような小言の多さも。

 ドールの容姿は彼女の記憶全てが影響している。

 

 「ちなみに人間の顔の平均を出したら美形になる、もしくはそういう顔を好ましく思うらしいよ。多くのドールは美形であることから、ドールの容姿はマスターの見た人物の平均説を推しているんだけれど……上には真面目にやれと怒られてしまったよ」

 「ふうん、俺にはすげえ発見だと思うのにな」

 「そうだろう。けど、上層部の人間が第一に考えるのはいかに他国を出し抜き強く多くドールを揃えることだからね」

 

 どうしようもない事にミモザは嘆いた。奇跡のようなそのドールという存在も、人間にかかれば兵器としか使えない。

 カルマも自らの存在について考えてみる。アサナギのような人間ほど魔力が強いのは、ドールが彼女のような人間を救うためではないのか。実際彼女の生活はマスターになることで良いものになったが、戦いの中にいる事は変わりない。

 

 「黄色い希望は存在しますか?」

 

 悩むカルマの思考の中を、平坦な声が割り込んだ。生まれたばかりの男性体ドールが無垢な瞳でカルマを見上げて尋ねた。

 彼の話す言葉は確かに言語なのだが、カルマには意味がわからない。希望

が何色かなんて考えたことが無い。

 

 「カルマ、答えてやればいい。今現在彼は学習中だからな。例え間違いであっても後に修正していけるから気楽にいこう」

 

 ミモザは面白そうにけしかけるだけだった。カルマは仕方なく座る新人に視線を合わせて答える。

 

 「希望はある。黄色いかはわからない」

 

 色までは知らない。しかし希望は確実に存在するとカルマは考えていた。アサナギのような人間の元に形成されていくカルマというドール。彼女にとって自分が希望であって欲しいと思う。そしてカルマがアサナギのおかげでさまざまな人間の感情を学んで行くことも。

 

 「なんだかふつうな答えだ」

 「うるさい。あんたに聞かせた訳じゃない」

 「まあ、いい答えだと思うけれどね」

 

 体を震わせるようにして笑うミモザを見て、カルマは真面目な答えを恥ずかしく思う。

 そこで衝立の向こうからアサナギが顔をのぞかせた。

 

 「魔力入れと着替え、ついでにヘアアレンジを完了しました」

 「あぁ、ありがとう。衝立をどけるよ」

 

 

 

 

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