リシテア④


 「そうだね、君と同じくらいに小さい」

 「……俺は小さくない」

 「人形の素体はマスターが魔力を入れやすくイメージしやすいように作られているんだよ。本当ならAIと魔力を貯めておける箇所さえ繋げば板でも球でも棒でもいいんだ。ただ、それでドールにできるのはアサナギくらいなものだろうね」

 

 からかいつつもミモザは解説した。様々なマスターの素質のため、ドールにしやすい人間の姿に作られているのだろう。初心者なら素体がそのまま動くだけ。中級者なら顔や皮膚などが人間に近づいて、上級者は素体を無視した体格になり細部までの完成度が高くなる。

 

 「それよりも早く服を着せてやってくれ。私やアサナギはそれを見たってどうも思わないが、彼は成長すれば女性二人に見られた過去を気にするかもしれない」

 「『それ』?」

 

 ミモザ言われながら服を着せようとして、カルマは『それ』に気付く。ドールの下半身には男性器がついていた。あわててカルマは魔力を込め中のアサナギから隠すようにワンピース状態の服を着せてゆく。

 そして三体着せ終えてから叫んだ。

 

 「な、なな、なんで『これ』がついてんだよ!」

 「そりゃあ男の子だからだろう。やはりアサナギの選別は優れているなぁ」

 「そうじゃなくて、」

 「なんだ、カルマにはついていなかったか。いや、生まれてすぐは確かにあったはずだ。私は見た。取れてしまったのかい?」

 「そうじゃない!こんなの、いらないだろう!」

 

 ミモザの下世話なからかいに真面目に相手をしてしまうカルマ。自分にも確かに存在するものだが、カルマは改めてその必要性を考える。『それ』は排泄も生殖もないドールには必要のないものだ。

 

 「マスターの魔力は強いほどドールは人間に近付く。『それ』もその法則に当てはまるのだろう。強いマスターであるほど細かく再現される。ちなみに女子も女子たる部位が再現されているとも。まあ、男子である君には見せられないが」

 

 いつの間にかアサナギは女子側に移り、リシテアと共になにやら女子らしい会話をしている。『この子の髪は長いですね。リシテア、後で結って下さい』『はい、もちろん。あら、この服では胸が苦しそうですよ』『こっちは大きすぎるみたい。取り替えましょう』などという内容だ。聞き耳を立ててミモザもそちらに混ざりたくなったが、今はカルマの監督をしなくてはならない。

 

 「ちなみに昔、工房は戦車や戦闘機にAIと魔力を込めて無人で戦う兵器を作ろうとしたようだよ」

 「……結果は?」

 「余計な機能が入ると魔力が入らないようで、無理だったよ。まぁアサナギならできるかもしれないが、その場合戦車に手足が生えたり美少女になったりするかもしれない」

 

 シュールな兵器だ。それが実現しなくて本当によかったとカルマは思う。

 そしてこのシステムが有効なのはほぼ人形だけ。それも人間に近づくほど優秀になるという。人形に必要のない部分でも精巧に作られているのは魔力の強さからだった。

 

 「他にもクマのぬいぐるみを素体として魔力を込めて貰ったことがあるけれど、それでも人間だったよ。私はクマ耳美少女の誕生を密かに期待していたというのに」

 「そんなもん期待すんなよ……」

 「まあ、アサナギのドールは美少年美少女ばかりだからね。例え元戦車だって目の保養には違いないさ」

 

 ここでカルマはぼんやりと座っているだけの男性ドールを改めて見る。三体共、ミモザの言うように容姿が整っている。しかし幼い事が気になった。皆あどけない顔をしていて、背もカルマより少し低いか高いかというくらいだ。

 

 「なぁ、なんでアサナギのドールは若いっつうか、幼いんだ?あいつがすごいから人間に近いのはわかったが、背の高い男の見た目のドールの方が戦闘に有利だと思うのに。」

 

 能力は魔力次第としても間合いなど体格差が有利な場面はあるはずだ。それに強そうな見た目のほうが敵を恐れさせる事ができるだろう。なのにアサナギの男性体ドールはとにかく幼い。女性体ドールも幼いが、それでもリシテアのように若いが年上というのも不思議だ。

 ミモザはこの質問を待っていたのか、いきいきと答える。

 

 「まず一つ言っておこうか。神様は決して我々に戦うためのドール技術を与えた訳じゃないよ。神様なんて私は信じちゃいないけどね」

 

 

 

 

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