リシテア②


 確かにそうだが、この荒んだ世でそんな正論は通らない事は多い。だからこそ堂々と言えるミモザをアサナギは慕っていた。

 ドールにとってミモザは生みの親も同然だ。アサナギは彼女からドールを預かっていると思えば、ドール達を一層大事にしなくてはならないと思う。

 

 「さぁ、お嬢様。お茶が入りましたよ。ミモザ様もおかわりはいかがですか?」

 「ああ、もらおうか。ここに来ると可愛いメイドさんにお世話してもらえるから好きだなぁ」

 

 生みの親というよりはスケベなオヤジなのかもしれない。ミモザは茶を持ってきたリシテアに甲斐甲斐しく世話をされ、女性にしては凛々しい顔立ちをだらしなくゆるめた。彼女は可愛いものが好きらしい。その中でも容姿端麗なリシテアもまだ幼さの残るアサナギも大好きだ。そして男子としてまだ成長してはいないカルマも。

 

 「おやカルマ。せっかく私が作った可愛い服を着崩して。まあそんな着こなしも可愛いのだが」

 「……着飾らせたいなら動かない人形に着せろよ。俺達の本分は戦いだ。もっと動きやすい服にしてくれ」

 

 反抗期まっさかりなカルマの反論。しかしそんなものは息子がかわいくて仕方ない生みの親にはきくはずがない。

 

 「なるほど、本分か。しかしカルマ、君に与えられる任務はどんなものだと思う?」

 「任務って、そんなの戦闘だろ。前線とかのばちばちしたやつ」

 「違うよ。ドールといえど、君の容姿は人と区別がつかない程だ。ならば潜入や情報収集、暗殺や破壊などの任務が振り分けられるだろうね」

 

 普通のドールはこの間の顔のないのっぺらぼうだったり、関節が人形のままだったり、表情の変化がないものまで様々だ。そういうドールにこそ激しい戦闘任務が振り分けられるだろう。それは彼らが戦闘しかできないためだ。

 しかしカルマやリシテアはアサナギの魔力のおかげで人と見分けがつかないほどだ。会話も仕草も人間に近い。そうなれば人に溶け込むような任務ばかりが振り分けられると今から予想ができる。

 

 「もし君達が人間の中に溶け込むとしたら、上流階級の振りをする事になるだろうね。そんな時、ラフな服装や汚れた格好をすると思うかい?」

 「綺麗で高そうな服じゃないと、紛れ込めない……?」

 「そう。だから君は今からでもゴスロリ王子風ファッションに慣れなくてはいけないのさ」

 

 ふむ、とあらためてカルマは自分の格好を見た。どこの坊ちゃんだという格好も、坊ちゃんの振りをするには今から慣れておかなくてはならない。

 ……というのは、ミモザが今考えた嘘で本当にただの趣味の服なのだが。カルマは見事に騙されていた。

 

 「そうそう、そのカルマだけどね、君やアサナギにペナルティが与えられることになったよ」

 「……は?」

 

 寝耳に水。そんな感じにカルマは聞き返す。ペナルティとは、あの中年男のようになにか違反をしたものに与えられるのではないか。カルマはそんな事した憶えはない。

 

 「のっぺらぼうの腕を蹴り折っただろう?それがいけなくてね」

 「なんでだよ、訓練だろ」

 「やり過ぎと判断されたんだよ。修理にコストだってかかるしね。生まれ時期が近いとはいえ、相手はのっぺらぼうなんだから、君は手加減しなきゃいけなかった」

 「はあ?だったらせめて人間に近い奴を相手に用意しろってんだよ」

 「はは、そんな考えすら工房にはまだなかったんだよ。みんな生まれ時期で対戦相手を決めるものなんだから。リシテアだって初陣はあんなに圧倒的ではなかったからね」

 

 アサナギの元で先に戦っていたリシテアだってあれ程までの戦力差を見せられなかったという。その事が微妙に嬉しく思うカルマだが、アサナギにもペナルティが加えるのは納得がいかない。

 アサナギは文句も言わず静かに茶を飲んでいた。すでに彼女は訓練後に叱った事だからか何も言わない。ペナルティと聞き、やりすぎてしまったことに今更ながらカルマは反省した。

 

 「まぁ、ペナルティといってもうちの工房での手伝い作業だよ。そう重くとらえないで。アサナギは新品ドールの魔力入れ、カルマとリシテアはその補助とドールたちの初期教育係だね」

 

 

 

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