社会化とは

 学校の役割として一番に挙げられる機能、それが社会化である。今回はその社会化について少しばかり掘り下げる。

 そもそも社会化とは何なのか。読んで字のごとく「社会に適応する」という意味なのであろうが、田中節雄氏の「社会化の担い手としての学校の分析」の中では「従来の社会科の概念」について次のように述べられている。


『「社会化とは制度的価値ないし文化のパーソナリティへの内面化である。」

あるいはより詳しく規定するならば次のようにも言える。

「社会化とは社会がその価値,規範,目標,役割内容,慣習,知識,生活様式などを,個人に内面化させ彼をして社会の期待するような役割を演じ行動をとるようなメンバーに形成していくこと。」である。』


 「内面化」と言われるとまた分かりづらいような気がするため、私本位で簡素化すると「社会にある色々なものを『当然そうである』と思わせ、同じ価値観を有するメンバーと仲良くできるようにすること」というようなことであろう。当然、価値観の同じ人間の方がコミュニケーションは潤滑に進むであろうし、少なくとも同一の言語が話せなければ意志の疎通もままならない。言語も文化の一つであり、それを教えるのは歴とした社会化の一つである。

 しかし、ここで一つ大きな疑問が立ちはだかる。それはつまり「全員で同じ価値観を共有する」というある種の洗脳、思想統制ということにはなるまいか。細川幹夫の「教育社会学における社会化研究の動向と課題」には社会化の歴史について、移民で形成されたアメリカにおいて文化や価値観の違いで紛争が多発したため、それを収めるべく文化を統一・統合したのが社会化の概念のはじまりである、という旨が記されている。文化を一つに統合するということはそれ即ち強制的であり、同時に権力性も如実に浮き出ている。また、この論文が書かれたのは今から四十年以上前(1976)なのだが、途中に「性別社会化」について書かれている部分がある。性別二分化論が前提となっている当時だからこそなのだが、そのように「社会化」は現代でいうところの「多様性」という概念を打ち消してしまう可能性があるほど強く、権力を持った概念なのである。

 よい例が校則問題である。教師がひたすら「社会に出たら」を連呼するのはこの「社会化」の力の行使であり、社会化の権力性を理解していない証拠なのだ。また、第二次社会化に限らず第一次社会化においてもその権力性は絶大で、親が幼い頃から間違った知識を教え込んでしまえば、社会に出た後でさえその思想は消すことができない。ISIS(イスラム国)などのテロ集団の兵士育成にもよく使われる手段であるし、出家することで騒動となった清水富美加氏などの件も親からの洗脳行為が一番大きいと思われる。

 とはいうものの、やはり社会化なしには人間は生きることができない。先も言った通り、言語がなければ話せないし、人殺しはよくないなどの最低限の倫理観がなければ社会には絶対に適応できない。そんな矛盾のような概念について、田中氏は『教育は社会化を越える部分をもつ』とも記している。要は「社会化させようとしても、子供の変容は時にそれを超え、反感や創造性が生まれることもある」というのである。確かに、芸術などの分野に関しても制限を課せられようが芽が出るときは出る。社会化に関しても同じようなことが言えるかもしれない。

 もちろん、確証がない思想や観念について「社会化」するのはただの洗脳行為になる。だが、世間一般どんな国でも通用する「心遣い」や言語などのある種不変的なものは学校で教えるべきではあろうし、そこから伸びる個性の芽をしっかり育んでやるのが教育の一番の目的と言えるだろう。


参考・出典

授業プリント(第二回)

田中節雄(1980)「社会化の担い手としての学校の分析」

(file:///C:/Users/sodaj/AppData/Local/Microsoft/Windows/INetCache/IE/C896YA7M/35_99.pdf)

細川幹夫(1976)「教育社会学における社会化研究の動向と課題」

(file:///C:/Users/sodaj/AppData/Local/Microsoft/Windows/INetCache/IE/6ZM6RNQ2/31_54.pdf)

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