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四人は門をくぐり、街を出る。他愛もない話に花を咲かせながら街道を四半刻ほど歩くと、青々と生い茂った木々が見えてきた。

葉が風に揺られて擦れ、さらさらと心地の良い音を立てている。


道から逸れて、森の中へと移動する。


「じゃあ、薬草探しよろしくな」


キースが声をかけると、三人は腰ほどの高さの草の前にしゃがみこみ、薬草探しを始める。

キースも草の前に座って、緑色の柔らかい葉の間に手を入れて軽くかき分ける。

突如として姿を顕にされた虫が驚いて飛び立つ。キースはそれを気にすることなく、草の中に目を凝らす。

何度かそれを繰り返し、ほどなくして目的のものを発見する。先のとがった楕円形の、緑色の葉が複数ついている草。探していた薬草だ。煎じて飲むと体の治癒力があがり、傷の治りが早くなる。

煎じなくても多少の効果はあるが…苦味が酷いので、余程じゃなければ食べたくはない。


キースは薬草の茎の根元を掴むと、ちぎって採る。布袋の中に丁寧に入れ、また草をかき分ける。

ふいに、キースが視線を感じて顔を上げる。リンがひょっこりと木の後ろから顔を出していた。ずい、とキースに向けて差し出す手には、薬草が握られている。


「…あった」

「ありがとう、リン」


キースはリンの持つ薬草を受け取る。


「もっといる?」

「そうだな、もう少し採っていこうか」


リンが無表情で頷く。

リンは感情を表に出すことがほとんどない。無表情で、無口だ。

はっきりとした二重の瞳、顔に影を落とす長いまつ毛。整った容姿と静かさ、白い肌も相まって、彫刻のような印象を受ける。


「リン、頭に葉っぱついてるぞ」

「とって」


リンがキースの近くにしゃがむ。キースが手を伸ばすとリンの目がそれを追う。長い髪に付いていた葉を取ると、リンが「ありがと」と、やはり無表情で言った。


キースは、そのリンの態度は感情表現が苦手なだけだと理解している。そのため、冷たく見える対応を気にする様子もなく、キースは葉を地面に置き、薬草探しを再開する。リンも同じように草をかき分ける。


その二人の様子を見ていたザックがため息をつく。


「平和だねー」


ウィルがザックに視線を向ける。


「なんだ、不満か?」

「いや、戦わずに済むならそのほうがいいけど。それにしても静かだなーと思ってさ」

「…それは、たしかにな」


街や村に近い森のため、魔物の数は少ないがゼロではない。とはいえ低級の魔物ばかりなので薬草を取りに来る村人もいるし、襲われたという話も稀に聞く。


そもそも、この森はこんなに静かだっただろうか?

魔物だけではない。普段、駆け回っている野ウサギの姿も、楽しげに鳴く小鳥達の声も無い。

聞こえてくるのは、葉の擦れるざわざわという音だけだ。

それに気がつくと、先ほどまで心地よいと感じていた葉擦れの音が、不気味に感じる。


ウィルは考えるように顎を擦った。静かだと言った張本人であるザックは、あまり気にしていないようで、黒い手袋に包まれた手で薬草をいじっている。


「天気もいいし、ステキな薬草採取日和で何よりだね」

「やっぱり不満なんだろう、お前」

「違うってば。ただ、薬草って売ってもお金にならないんだよね」

「…採った薬草を全部こちらに寄越せ。俺が預かる」

「冗談だって。売らない、売らないってば」


ウィルは否定するザックの手から、薬草を取る。名残惜しそうに没収された薬草を見つめるザックを見て、ウィルが呆れた様子で溜息を吐いた。


「今日は諦めて奉仕活動に励め。たまにはいいだろう」

「いやオレ、タダ働きって性に合わな…」


そのとき。

静寂を引き裂くように、森に咆哮が響き渡った。

その声に四人が顔を上げ、見合わせる。


「今のは…」

「大型の、魔物…?」


ザックはじっと耳を澄ませている。


「今、人の叫び声も聞こえたよね」

「何!?」


キースがザックの方に振り返る。


「どこかわかったか」

「南の方。ちょっと遠いよ」


再び聞こえてくる咆哮。

ウィルがザックへと視線を向ける。


「よかったな、念願の魔物だぞ」

「だから、そんなんじゃないって」

「ほら、先に行って助けてこい。お前が一番早く着けるだろう」

「それは、そうだけど」


指名されたザックはしぶしぶといった様子で了承すると、立ち上がって服に着いた砂を払う。


「早く来てね」


ザックが地面を蹴り、大きく跳躍した。近くの木に着地すると、すぐにその木から、また別の木へと跳び移る。


「いつものことながら並外れた身体能力だな…」


あっという間に木々の間に消えたザックを見たウィルが呟いた。


「さあ、俺たちも行くぞ」


キースの掛け声と同時に、三人は森の中へと駆けだした。

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