第3章『夏休み開死!!!』

第15話 鹿野 未来

「はぁ......」


春がドタバタと過ぎていき、セミの鳴き声がやたらとうるさい夏になった。

僕は夏は好きだし、実際中学は非常にエンジョイしていた。

......が、なにぶん中学と高校では環境が全くと言っていいほど違っていた。


「おはよう歩よ、ところでなんでこんな朝からため息なんかついてんだ?」


僕に声をかけてきたのは僕の数少ない友人の関 幹久だ。

僕は友達が少ない状態になっているのは僕がプリン頭という訳でもなく、顔が怖いというわけでもなく、単にいつも僕の周りに未来達がいるからだ。

流石に近づく人はいないだろう。

男子ならギリセーフだが、女子なら完全にアウト(死)だ。


「お〜、幹久か。おはよう、突然なんだけど幹久ってスケジュール帳とか付けてたりするか?」


そう、僕を悩ませていたのは僕自身がつけているスケジュール帳である。

書いている途中で絶望に呑まれそうになるスケジュール帳なんて書いたのは初めてだ。


「まじで突然だな。でもスケジュール帳は付けたことないな、予定もその日に決めることが多いし特に必要ないし。でも女子がつけてるスケジュール帳なら見たことあるぜ?」


「あれ?お前そんな仲いい女子いたっけ?」


失礼だが、こいつが女子と話しているところをろくに見たことがない。

未来達との謎の取引きの時以外。


「その子の机の上に落ちてたから親切に中身を全部見てその子に渡しただけだから別に仲がいいってわけではないな」


「思いっきり盗み見してる!!!」


真顔で言い放つ幹久がサイコパス過ぎて怖い。

れっきとした犯罪だよ、それ。


「何言ってんだこいつ」


「こっちのセリフすぎるわ!!!」


更に真顔で言い放つ幹久。

確定、こいつサイコパスだ。


「まぁとりあえずこのスケジュール帳見てみてよ......」


「ふむ、今日の日付がこれだから......えっ、お前どこのハリウッドスターなの?」


その疑問はもっともだ。


「そういうことだよ、スケジュール帳の遊ぶ予定の人の欄が未来と美月と香菜と七海さ......じゃない、七海先生でびっしりと埋まってるんだ!!!怖すぎるよ!!!このスケジュール帳をあの4人に見せてしまったのが運のつきだったよ......。瞬く間にサザ〇さんのような平和な我が家が戦場と化したんだ......そしてスケジュール帳は真っ黒になっちゃったんだ」


「なんというか......知ってる俺からはドンマイと言えるが、知らない奴からしたらハーレム主人公〇ねって言われるぞ?んでその鹿野さん達は?」


「流石に疲れすぎて死ぬと思ったから僕の使い古しの文房具とか、壊れて使わなくなった諸々とかを投擲とうてきしながら登校して来てなんとかまいたよ」


「お、おぉ、お前も成長してるんだな......」


「いらぬ方向へだけどな.....」


「歩くん!」


「あゆくん!」


「歩様!」


「鏑木くん!」


さようなら、一時の自由。

そしておかえり、永遠の束縛。




――――――――――――


機は熟した!

熱い砂浜。

照りつける太陽。

キラキラと輝き、その存在をこれでもかと主張してくる真っ青な海。

そう、今日僕たちは海水浴に来ていた。




――――――――――――


1day『未来』


「歩くん、私達2人っきりだね♡」


「そうだね......なんで?」


だだっ広い海と砂浜には僕と未来以外誰もいなかった。(なんで?)

いつものこの時期は人がごった返していて、テレビなんかにもよく取り上げられていたというのに!(なんで?)


「歩くん、私達2人っきりだね♡」


「えっ、ループ!?これちゃんと答えないと永遠に続くやつ!?」


「歩くん、私達永遠に2人っきりだね♡」


「そうだn......あれ、なんか余計なの付いてる!!!」


巧妙なトリックに引っかかり、危うく永遠を未来に差し出すところだった。

それに、どうして周りに人が1人もいないか全然答えてくれない。


「ふふっ、まぁとにかく泳ごうよ!」


そう言って未来は上に着ていたパーカーを脱ぐ。

ここでラノベの主人公ならつらつらと水着の見た目を説明し、その後感想を聞かれ、顔を赤らめるのが定石だ。

しかし、今の僕は未来の水着に対して1文字で説明ができる。


『紐』


そう。

ブラジル水着など比ではない。

ただの紐。


「ちょっと待てぇぇぇ!!!」


「?ははーん、私の水着がセクシー過ぎるからもっと見ていたいんだね?いいよ?」


そう言ってセクシーポーズを次々と取っていく未来。

セクシーだけど......いやほんとセクシーなんだけど......


「それは水着じゃないだろ!!!???」


「大丈夫、大丈夫!謎の光が隠してくれるし!見たいんだったら外すけど?」


確かに、先程からあらゆる角度から光が未来の局部を隠している。


「謎の光って制御できるの!?」


「うん、ほら、こうしたら......」


「うわぁ!僕の股間が光り輝いて大変なことに!!!」


僕の息子、輝き過ぎだよ!


「ねぇ、歩くん......」


未来は先程の笑顔から一変、真面目な顔つきになり、僕の隣にちょこんと座る。

謎の光に照らされながら。


「な、なに?急に改まって」


「子作りしたい」


「まぁそんなことだろうと思ったわ!とにかく、折角だしさっさと泳ごうよ」


僕も着ていた服を脱ぎ、水着姿になる。


「かっこいいかっこいいかっこいいかっこいいかっこいいかっこいいかっこいいかっこいいかっこいいかっこいいかっこいいかっこいいかっこいいかっこいいかっこいいかっこいいかっこいいかっこいいかっこいいかっこいいかっこいいかっこいいかっこいいかっこいいかっこいいかっこいいかっこいいかっこいいかっこいいかっこいいかっこいいかっこいいかっこいいかっこいいかっこいいかっこいいかっこいいかっこいいかっこいいかっこいいかっこいいかっこいいかっこいいかっこいいかっこいいかっこいいかっこいいかっこいいかっこいいかっこいいかっこいいかっこいいかっこいいかっこいいかっこいいかっこいいかっこいいかっこいいかっこいいかっこいいかっこいいかっこいい」


「うひゃー!早口言葉得意なんだね!」


感覚が麻痺してきてこんな感想しか言えなくなってきた僕だった......。

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