第7話 ヤンデレに慣れる僕

僕の部屋のベッドは広いので2人に譲り、床に布団を敷き僕が寝るという構図に落ち着き(2人は僕に最後までベッドでいいと言ってくれたが)、12時を回った頃。

―僕はまだ寝付けていなかった。

ぐへへとか、うへへという声が僕の頭の上で永遠にリピートされていたからだ。


「......何してるの?」


「ごめん起こしちゃった?音は鳴らないやつなんだけど」


「しっ!録音中です......」


「............おやすみ」


撮影会よく分からん何かが行われていたのでガン無視して寝た。




――――――――――――


「よし!全然眠れなかったぞ!!!」


時刻は午前7時。

結局2人の撮影会が気になったり、2人が布団に潜り込んできたりしたので2、3時間ほどしか眠れなかった。

しかも件の2人は僕の布団で仲良く眠っている。

贔屓目ひいきめなしに、まじでそこら辺のアイドルよりも可愛い。

ユニットとか組ませたらもはや敵無しだと思う。


「2人とも起きろ、朝だぞ」


声をかけると2人ともビクッと反応して鼻から血を出す。


「......朝から歩くんの声が聞こえるなんてぇ、ここは天国ぅ?」


「......あゆくんの声ですぅ、天使のささやきですぅ」


「2人とも、僕を勝手に殺さないでね?」


天国の住人になったり、天使になったり、僕は死んでも大忙しのようだ。

それに、どうやら僕は死んでも未来と美月から離れられないらしい。




――――――――――――


アーマーでの登校にはまだ少し慣れないが、なんとか遅刻せずに教室までたどり着いた。


「しっかしまだ入学4日目だってのに、大層おモテになるこって」


「......ははは」


関も冗談半分で言っているのだとは思うが、僕は乾いた笑いを返すことしか出来ない。

ふと2人を見ると、こちらをガン見しながらイヤホンをつけて何やらノートにメモをとっていた。

え、なにそれ怖い。

怯えながら関と話していると、チャイムが鳴り、我がクラスの担任の先生が入ってくる。


「みんなおはよう〜!早速なんだけど、みんなはまだ入学4日目なのでクラスの仲間たちのことはあまり知らないと思います」


「それこの2人にも言える?笑」

とは言えない。


「そこで!1時間目の授業をお借りして、グループ間で自己紹介と質問タイムを設けることにしました!先生がお願いしたいことは2つ!1つは、本当に答えたくない質問以外は極力答えること。もう1つはグループ5人をホームルームから1時間目の間までに決めておくことです。以上!今日も楽しく学校生活を送りましょう!」


授業の時間が潰れるのは非常にいいことだ。

その証拠にクラスからも歓喜の声が上がっていた。

それにしても5人グループか......。


「あと2人だな!」


「ってことはお前、鹿野かのさんと金谷かなやさんと一緒なの確定してんの?」


「僕が逃げられると思うか!!!」


「お前も哀れだな、まぁ俺もそのグループに入ってやるよ」


「さんきゅー......。あ」


ちょうど話題に挙がっていた2人が僕のところにやってくる。


「歩くん!私以外の女とグループにならないよね?当たり前だよね?」


「あゆくん!他の女にあゆくんの存在を知られると惚れられてしまうのでグループの女子は私だけにしてください!」


こうして2人の女の戦いの火蓋が切って落とされた。


「さぁ、激しい女のバトルが始まりました。実況は私、せき 幹久みきひさ、解説はヤンデレ評論家の鏑木かぶらぎ あゆむでお送りします。よろしくお願いします」


「お願いします」


どこから取り出したのかわからないが、マイクを2つ用意している関。

クラスの注目も自然とこちらに集まる。

にしてもヤンデレ評論家ってなんだよ。


「さて、ヤンデレ評論家の鏑木さん、この戦いどうなると予想されますか?」


もはや僕の中でテンプレ化してしまった流れである。

この流れを1日に何度繰り返していることか。


「おそらく次に美少女の口からはあまり聞きたくない罵り合いが始まると予想されます」


「お前みたいなビッチはキモオタグループにいるのがお似合いだよ?身の程をわきまえたら?」


「そっちこそ豚だからグループ余ってるのにその輪の中にすら入れずにハブられるのが落ちですよ?そろそろ自分が豚だと認めてはどうですか?」


やはりだ。

クラスの目を全く気にしていないと言えないような酷い言葉ばかりが飛び出す。

さっきまで一緒の布団で寝ていたのが信じられない。


「おっと、これは酷い!!!美女の口からものすごい罵倒の数々が生み出されています!俺は既にこの2人とは関わりたくないですが、クラスのM男達は若干ざわついています!」


「どうでもいいですね〜」


ちらっと見ると、

「いい......」「罵られたい」

と言っているやつらがいた。

心底どうでもいい。

多分僕と話している途中に喋りかけてきたなら罵倒してもらえると思う。

そういえば、あの告白してきた人たち元気かな?


「今のところ両者互角に見えますが、評論家の鏑木さん、最後はどうなると予想されますか?」


「そうですね、勝負がつかず、結局2人とも僕のグループに入るという『じゃあ最初から戦わなきゃいいんじゃね?』という結果になりそうですね」


「その自信がどこから湧いてくるのかわかりませんが、1つ言えるのは美女がお前のこと取り合うの『羨ま死んでくれ』ということですね!」


「こんなに怨念のこもった『羨ましい』は初めて聞きますね。そろそろ時間なのでこの辺でお別れです。See《もう》 you《二度と》 again《ごめんだ》!」

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