第2章『いくら類でも友を呼びすぎ』

第8話 残り1人

実況を終え、辺りを見るとおおよそのグループができあがっていた。

しかしその中でわたわたとしている女子がいた。

髪は長く、顔がよく見えない。

ちょっと気になったのでしばらく見ていると、彼女はクラスメイトに話しかけようとしては諦め、話しかけようとしては諦めを繰り返しをしていた。

直感的に、彼女と話をしてみたいと思った僕はその女子に近づいて声をかける。


「ねぇ、君まだグループ決められてないの?」


話しかけられた女子は頭に『!』を浮かべる。

メタル〇アでよく見るやつだ!


「あの、ウチ、人に話しかけるの苦手でなかなかグループ作れなくて......。やっぱりこんなウチなんてみんなグループに入れたくないよね......」


だんだんと顔が下を向いていく彼女。

自虐がすごすぎて聞いているこっちが泣きそうになる。


「?そんなことないと思うけど?良かったら僕のグループに入る?......騒がしいやつらしかいないけど僕がなんとか抑え込むから」


「ほんと......?」


「ほんとだって!僕の席そこだから早く行こ!」


それだけ言い残し、自分の席に戻るため後ろを向く。


「......かっこいい......。ウチの王子様......」


「?」


彼女が何を言ったかはうまく聞き取れなかった。



――――――――――――


「誰?」


「あゆくん?怒りませんから言ってください」


怖い。

あと、絶対怒る。


「彼女、グループに入れなかったみたいだから入れてあげてよ。お詫びに結婚とか付き合う以外なら何でもお願い1つ聞くからさ」


彼女の前で『グループに入れなかった』と言うのは悪いと思ったが、「この子が気になったからグループに入れようよ!」とか言ったら恐らくこの子が〇ぬのでこういった言い方しかできなかった。


「仲良くしようね?」


「ズッ友です!」


なんという手のひら返し!

現金な笑顔だなぁ。

それに、急にフレンドリーになったからびっくりして彼女もオドオドしてるし。


「......オドオド......」


ほんとにオドオドしてる!!!


「歩よ。お前ってもしかして意外と結構モテるのか?」


「いや、それ何気に失礼な?」


友人が入学4日目にして酷い。

正直、未来と美月以外に僕のことを好きになってくれる人はいないと思う。

中学までは全然目立ってなかったからな。

容姿も普通で性格も普通だし。

その時、チャイムの音が鳴り、先生が入ってくる。

それを合図にしたようにクラスメイトたちが机を動かしてグループを作る。

僕達も同じように机を動かしてグループを作った。


「先生は何も言いませんから好きな時に自由に始めてくださ〜い!」


「んじゃあ空気を温めるために俺から!名前は関 幹久。趣味は恋愛の話だな!そこのお2人さんよ、歩のことでなんかあったら歩の親友のこの俺に是非とも頼っていいぞ?」


「歩くんから貰ったものって何かない?」


「あゆくんを感じられるものを持ってませんか?」


おうおう、食いつきが素晴らしいな。

机に乗り出して質問する2人に若干照れている関。


「そんなに大層なものでもないが、歩が授業中に俺に投げてきた消しカスならまだ机の上にあるぞ?」


笑いを狙ったのだろうか机の消しカスを指さす関。

すまん、あれって衝動的にやりたくなってしまうんだ。

にしても消しカスで釣れるわけ......


「あなたが神か!」


「関様降臨です!」


HIT!

どうやら2匹連れたようだ。

消しカスを1個1個丁寧にゴム手袋を付けて回収する未来と美月。


「お、おう......」


言った本人が引いてるじゃないか!


「んじゃ次私ね!名前は 未来!好きなものは歩くん。好きなことは歩くん。嫌いなものは歩くんが嫌いなもの。特技は歩くん。最近ハマっていることは歩くんです!」


1ミリも鹿 未来という人物が伝わってこない!!!


「どこからつっこめばいいんだ......!?」


「初夜の話?♡」


「ぶっっっ!!!」


『ぶっっっ!!!』

とか人生で初めて使ったわ!!!

こいつに関しては伝わっただろう。

―――底無しの馬鹿ってことがな!!!


「私は 美月です!あゆくんさえいればほかに何もいりません。あ、あゆくん関連のものは別ですが。好きなもの、好きなこと、特技など全てあゆくんの言う通りに変えます」


重すぎるわっ!!!

しかもなんという淀みのない表情!

まず2人とも苗字が鏑木なのは昨日から定着してしまったのだろうか。


「えーと、僕は鏑木 歩。趣味は、『未来と一緒に過ごすこと』と『美月と触れ合うこと』で、好きなものは『未来』と『美月』かな。......何の合いの手だこれ!!!???」


被せるタイミングがジャストすぎて僕がただのやばいやつになっている。

こいつらのことだから僕の自己紹介は静かに聞いているものかと思ったが、どうやら違うようだ。


「鏑木 歩くん。15歳。誕生日は1月7日。13時05分産まれ。身長は172.3cm。体重は51.4kg。山羊座のA型。いつも着ている普段着はしま〇らで購入したもので、1ヶ月に1度、第3日曜日の11時〜13時の間に買ってるよ。」


えっ?

はっ?

未来さん?

僕そんなことまで紹介した覚えないよ?

あと僕と出会って4日だよね?

よくそんなことまで知ってるね?


「趣味は小学2年生の4月16日からハマっているRPGゲームのシリーズをプレイすることと、中学1年生の5月25日から始めた釣りと、昨年6月5日の19時00分に放送されたテレビの影響を受けてネットで購入した将棋です。好きなものは3月4日に佐藤時計店で購入した3万1500円の時計ですね。」


美月まで!?

美月がヤンデレ化したのは卒業近くだと思っていたが、どうやらもっと前からだったらしい。

どうしてだろう。

2人がものすごく遠いところに感じてしまう。


「......何で知ってるのかな?」


「「?一般常識だよ(ですが)?」」


「そんな常識があってたまるか!!!」


「......お前の苦労がなんかもう例えられないくらい伝わってきたわ。俺、あの2人が近づいてきた時にちょっと照れてたのめちゃくちゃ後悔してる......」


関もぐったりしている。

この2人が美女じゃなかったら一瞬で警察に電話をかけていたことだろう。


「......はぁはぁ、最後は君だよ」


投げやりになりながらバトンタッチする。

彼女はあわあわしながら立ち上がる。


「......あわあわ......」


ほんとにあわあわしてる!!!


「えっと......ウチは真山まやま 香菜かなです......。ふぅ」


「「「「???」」」」


あれ?

終わり?

なんで真山さんは誇らしげにやりきった感を出しながら座るの?


「悪いんだけど、もう1つほど真山さんについて何か喋ってもらえるとありがたいかな?」


「!......ええっと、ええっと......。あ!好きな人は鏑木 歩さんです......」


「「「「えっ?」」」」


場の空気が凍りつく。

特に未来と美月が。

当の本人はというと......


「......?......え?」


いや、そこは『え?』じゃなくて『あ!』なんじゃない?

言っちゃった!?

みたいな?

気づいていないあたり、もしかして真山さんって......天然なのか?

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