第5話 やっぱり悪夢でした

「「「ただいま〜!」」」


いや待て待て待て!

序盤からいきなりおかしくないか?


「そのセリフは普通1つしか聞こえてこないはずだが?」


この3人の中で鏑木家かぶらぎけの住人は僕1人だったと記憶している。


「鏑木 未来だよ?」


「鏑木 美月ですが?」


「いつ結婚したんだよ!」


素の表情で言うあたり、なかなか狂気じみたものがある。

まぁ父親に聞かれなかったのが不幸中の幸いというやつだろう。

僕の母親は僕が幼稚園に入園するとともに亡くなってそれからは父親がずっと僕の面倒を見てくれていた。

その父親はとてもお調子者なので、2人のさっきのセリフを聞いたら、ご近所中に言いふらすに決まっている。

仕事が忙しくあまり家にはいないが、ひょっこり帰ってくることもあるので要注意というわけだ。


「それで2人は夜までどう何するつもりなんだ?......あれいない?」


さっきまでそこにいたのに気づかないうちにどっか行くとかまじで子供すぎるだろ!

その時、ある部屋のふすまが空いていることに気づいた。

あの部屋にあるのは......。




――――――――――――


「未来、美月、ありがとう」


「当然だよ」


「当たり前のことです」


2人がいたのは母親の仏壇の前だった。

お線香をあげ、手を合わせている物静かな彼女たちを見ていると今日起こったハチャメチャな出来事が嘘のように感じられる。

僕も仏壇の前に座り、鈴棒りんぼうでおりんを鳴らし手を合わせる。


「歩くんは私が幸せにします!」


「あゆくんは私と一緒に歩んで行きます!」


前言撤回。

こいつらただ自分の願望をぶつけてるだけだ。

その証拠に部屋を出ると早速戦闘が始まった。


「一緒に歩んでいくって何?孤独死するくせに!」


「私が幸せにするって何ですか?永遠に結ばれることなく寂しい人生を送るくせに!」


金属同士がぶつかり合う音。

うん!

いつも通りだな!

慣れたら負けだと思ってたけど、慣れって思ったより早いものみたいだ。

でも、母に線香をあげてくれた2人には感謝しておこう。


「ほら、2人とも!僕のところに集合!」


「「ワン!!!」」


あれ、なんだ?

美女2人を従えてるこの感じは?

背徳感はいとくかんがすごい!

ではなくて。


「そろそろご飯を作る時間だよ」


時計の針は早くも5時を指していた。

おそらく下校でかなりの時間が取られたのが原因だろう。


「あ、じゃあ私が作る!」


「いいえ、ここは私に任せてください!」


この流れは戦闘が始まる流れだ!

これはいけない!


「喧嘩になりそうだから2人で別々に作ればいいんじゃない?」


この言葉が彼女たちの闘志に火をつけた!

正しくは違う。

つけてしまったという方が正しい。


「「絶対勝つ!!!」」


「じゃあ僕は疲れたからしばらく寝る!」


あれ?

今勝つとかなんとか聞こえたような?


「おやすみ、あなた♡」


「おやすみなさい、旦那様♡」


「はいそこ、結婚してないよー」


まぁなるようになるんだろう。

とりあえず今は今日の疲れを少しでもとるために、ベッドでひと眠りしたかった。




――――――――――――


「......きて......」


「......きて......さい」


目を開けると美女2人が目の前にいた。

眼福眼福!


「ん、あれ?もう晩御飯の時間?」


時計を見ると7時30分。

どうやら2時間ほど眠ってしまっていたようだ。


「いや、私的にはもうごちそうさましたんだけどね、歩くんはちゃんと食べてね♡」


「すごく美味しかったです♡」


なるほど!

至る所にキスマークがついてるのはこいつらのせいか!


「......先に風呂入っちゃダメかな?」


「あったかい方が美味しいよ?」


「お風呂に行ってたら冷めてしまいます」


善意100%で言われると引き下がるしかない。

それに、2人が作る料理を早く食べたいっていう気持ちもあるし!


「あぁ、うん分かったよ」




――――――――――――


食卓につくと、未来がとことこと歩き、皿を僕の前に出す。


「じゃーん!1品目は歩くんの好きなペペロンチーノだよ!」


実は僕の1番好きな食べ物がペペロンチーノだったりする。

小学校の時に食べて以来、ハマってしまったのだ。

具材は少なく、あっさりしているが、ニンニクの香りと唐辛子の辛さがたまらくマッチしていて何杯でも食べたくなる一品である。


「おぉっ!!!美味そう!美月は?」


「ペペロンチーノです!」


同じく差し出されるペペロンチーノ。


「ん?」


「2品目はあゆくんの好きなポテトサラダです!」


美月に出されたのは僕が2番目に好きな食べ物であるポテトサラダだ。

単純な作りとは裏腹に、色々な野菜の食感や風味、塩コショウがいいアクセントになり、いくらでも食べられる。


「おぉ!ポテサラは毎日食べても飽きないからなぁ!未来は?」


「ポテトサラダだよ!」


そこには美月と同じポテトサラダが。


「んん?」


このオチは流石に読めたぞ!

こいつらのことだからそうに決まってる。

はじめからよく考えればわかることだったんだ。


「「3品目は......」」


「待て待て待て待て!!!......まさか次の料理ってチャーハンじゃないか?」


「正解!」


「やはり心で通じあってるんですね!」


「僕の好きな食べ物トップ3だからね......」


「知ってるよ?」


「知ってますが?」


やはりか。

僕のストーカーしてるんだったら僕の好みだって知っているだろう。

この2人に料理を頼めば、僕が好きなものと一致はするが、同時にもう片方も全く同じメニューを作るというわけだ。


「だろうね!いいよ!僕全部大好きだし!」


こうなりゃやけくそだ!

僕が全部食べてやる!


「あーんしようねぇ?」


「私が食べさせてあげます!」


「僕に自由はないんですか!?」

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