第4話 悪夢の前兆

昼休み、それはご飯を食べる時間。

クラスメイトは皆、グループを作り、ともに持参した弁当を食べていた。

そんな中、僕たちは屋上に来ていた。

だが、いざ食べようとしたところで悲劇は起こった。

僕の目の前には武器を交える2人の美女が。


「歩くんにあーんしていいのは私だけなんだから!このクソビッチ!」


「あゆくんは私のあーんしか受け付けてないんです!この性病女!」


お、今日の唐揚げは上手くできたな。

味が染み付いてて美味しい。

この罵倒をサラッと流し、聞き慣れてると思ったその瞬間、僕の負けだと思う。

そこで僕は2人を止めるために妥協案を出すことにした。


「僕が2人にあーんしてあげるから落ち着いてくんない?」


「「あーん」」


変わり身早いな!

一瞬で僕の横であーん待機している未来と美月。

さっきまで女子力皆無だったのに、あーんして待っている姿は100点満点の女子力の高さだ。

そんな仕草に少々ドキッとしてしまう。

さてと、早く順番に食べさせて......いや待てよ?

ここでどちらかを優先すればどっちが早くあーんして貰えたかで必ず戦争が起きる。

全く、こんなことに気づけるなんて僕も成長してるのかな?

箸を1本ずつ両手に持ち、唐揚げに突き刺す。

その唐揚げをあーん待ち2人の口にむせない程度に突っ込む。


「あ!ごめん、その箸僕も使ってたんだった!」


「「ご褒美れすぅ〜」」


目がハートになっている(気がする)2人はとても幸せそうだ。

なるほど、特に気にしなくてもよかったな。

本人たちが幸せそうにしてるならそれが1番である。


「あっ、そうだ!2人とももし良ければ次の土曜日に......」


と言いかけたところで屋上の扉が勢いよく開け放たれる。

そこから男子生徒2人が僕達の方に近づいて来て、1人は未来、1人は美月の前に立つ。


「「未来(美月)さん!付き合ってください!」」


「「邪魔すんなカス」」


4人とも息ぴったりだね!

なんて口が裂けても言えない。

カス呼ばわりされた2人の男子生徒は目頭に涙を浮かべ、走り去って行った。

今日の空はとっても綺麗な青空だ!


「あいつのせいで歩くんの話聴き逃しちゃったじゃんかぁ!」


「最低ですね、あの男どうしてやりましょうか?」


「大丈夫!もう1回言うから落ち着け!3人で次の土曜日にどこかに遊びに行かないかっていう、告白に比べたらしょうもない要件を言おうとしてただけだから!」


「ううん!あんなやつの告白よりも100倍、いや、比べるのももったいないくらいの素晴らしい提案だよ!......このトイレにある消臭の玉さえいなければだけど」


「告白?はて何のことでしょう?私は今土曜日に来ていく服で悩んでいる途中ですよ?楽しみです!......路上のタイルの隙間に挟まってる小石さえいなければですけど」


名前も知らない男子生徒2人よ、すまない......。

君たちの記憶は彼女たちの中から消去されつつあるようだ。




――――――――――――


午後の授業が終わり、部活動にまだ入らなくても良い期間中の僕たちは3人で下校していた。


「ねぇ、2人とも?」


「なぁに?歩くん?れろれろ」


「なんですか?あゆくん?ちゅばちゅば」


アーマーになっており、舐められたり、吸われたりしているのはこの際気にしないとして、僕が言いたいことはただ1つ。


「ここ、僕の家なんだ!」


遠足の時に自分の家の前を通った時みたいなセリフを言う僕。


「?知ってるよ?んぢゅ〜」


「昔から知ってますが?はむはむ」


「一旦降りろぉ!!!」


スタリと降りる2人。

聞き分けがいいのはとてもありがたいことだ。


「2人とも遊びに来るんだったらあらかじめ言っておこうよ」


色々見られている(盗撮)とはいえ、遊びに来る時は言っておいてほしい。

男の子ってそういうものである。


「泊まるよ」


「泊まります」


「泊まるんかい」


やはりこいつらは僕の想像の1歩先を行くようだ。

......なら常に1歩先を行くと想定して話せばいいのか!?

僕って天才か?


「どうせあれだろ?お風呂一緒に入ったりとか一緒のベッドで寝ようとかそういう魂胆だろ?」


これが僕の出した答えだ!

さすがにこれ以上の要件は出してこれまい!


「「子作り」」


「何歩先進んでんだよぉぉぉ!!!」


確かに、一緒の風呂とかベッドとか、こいつらなら平気でやろうとするだろう。

となるとやはり目的が1つに絞られるわけか。


「なら泊まる条件だ!子作りをしようとしたり、そういう素振りを見せたら問答無用で帰ってもらう。どうだ?」


「何言ってるの?子作りするに決まって......はっ!」


「そうです、子作りするに決まってま......はっ!」


どうやら2人とも気づいたようだな。

僕の作戦に。

作戦というか、お互いがお互いの足を引っ張りあっていることで初めて成立する、ただの自滅策。

例えば、未来が行動に出たら、僕は未来を追い出そうとするし、美月も邪魔者がいなくなる訳だから僕に協力する。

すると家には僕と美月の2人きりになる。

流石に僕1人の力では対抗できないだろうから、なすすべもなく美月に好き勝手にされる。

その逆もまた然りだ。

つまりどちらかが行動に出た瞬間に負けが決まるというわけだ!

僕もよく考えたものだ......。

防衛本能というやつなんだろうか?


「条件を飲むよ......」


「今回は仕方ないですね......」


やったぞ!

あゆくん大勝利!!!

......と思っていた時期が確かにありました。

僕はこれから後悔することになる。

―――この2人を家に招いてしまったことを。

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