第3話 付き合わない理由

「なぁ、歩よ?」


「ん?どした?」


席に座ると、僕の席の前のクラスメイトであるせき 幹久みきひさが声をかけてくる。

顔はフツメン、以上容姿の紹介終わり。

こと恋愛ごとに関してこいつの執着心はすごく、話の90%は恋バナなのだが、僕を取り巻く環境が酷すぎて今の僕には普通のやつにしか見えない。


「入学して3日目なわけだが、鹿野かのさんがお前のことを好きだということは学校中が知っている」


ふーん......いや待って!?

学校中?

クラスの間違いだろ!?


「愛してるの間違いだよ!」


そっちの間違いじゃねぇわぁ!!!

何さらっとこっちの会話に混ざってきてんだよ!

席遠いはずなのに......。

耳元にイヤホンみたいなの見えるし、あれは盗聴か......?

これに関しては間違いないと思う。

そして、その言葉を聞いた関がめちゃくちゃ悔しそうな顔を見せる。

まぁ、はたから見れば未来は美人の域を優に超えてるからな。

そう思うと学校中が知ってるってのも間違いじゃないような気がしてきたぞ。


「......とまぁそれは分かった。んで、今日初めてクラスに来た金谷かなやさんってめちゃくちゃ美人だよなぁ。狙おうと思ったけどお前、朝一緒に登校してきたって聞いたぞ?まさか本当の彼女とか?」


今度こそ間違いだと指摘してやる!

僕には付き合ってる人なんていないとな!


「妻の間違いです!」


だからそっちの間違いじゃねぇわぁ!!!

いつの間に僕は結婚してたんだ?

あと、美月もさらっと会話に入ってくるよな。

未来と同じく席が離れてるのに。

......耳にイヤホンしとるぅ!!!

なんで!?

2人とも一緒のクラスなのになぜ遠くから聞こうとしてるんだ!?


「......2股?」


ジト目を向けてくる関。

このままじゃ完全に僕が最低人間だと誤解されてしまう!

ささやかだが抵抗してやる!


「違うわ!僕は誰とも付き合ってるわけじゃないからな!」


「結婚してるんだよ!」


「熟年夫婦です!」


俺のささやかな抵抗はこの2人の前では無同然だった。

美人に好かれるのは嬉しいが、2股のレッテルを貼られるのは嫌だなぁ。


「お前、もしかしてめちゃくちゃ大変なんじゃね?」


「おぉ、わかるか友よ」


ぐったりと机に突っ伏す。

この大変さが分かってくれるの人は数少ないだろう。

周りからはハーレム野郎だと思われてるだろうし。


「ていうか、あんな美人の2人に好かれてるのになんで付き合わねぇんだ?」


もっともらしい質問をしてくるが、その答えは至って単純。


「あぁ、それなぁ、僕あの2人から付き合ってって言われたことないからだよ」


「「はっ!?」」


そう、この2人は僕のこと好き好きとか言っといて付き合ってとは絶対に言わないのだ。


「何?お前ほんとは嫌われてんの?」


「2人とも僕と将来結婚してるって思ってるんじゃない?付き合うってステップを完全に飛ばしてる的な」


この考えが限りなく答えに近いと思う。

2人は、結婚するだの、夫婦だのと付き合うっていう段階を頭から排除している。


「どうやら本当に苦労してるみたいだな......。いや待て!それじゃあお前から告白はしないのか?」


「それこそ無いね!そもそも僕と美月は中学の

卒業近くまでは普通に過ごしてたんだけど、僕の部屋の私物を持っていこうとするのを見つけた次の日からあんな感じになったんだよ。だから、美月と未来が僕に対するアプローチを始めたのはほぼ同時期だったわけ」


昔の美月は誰からも慕われており、頭もよく、運動もできて、全生徒の憧れの的だった。

熱狂的なファンクラブもあった。

しかし、ヤンデレ化してしまったのだ。

バレたことにより、たかが外れたのだろう。


「なるほど、それは分かった。つまり結論をまとめると?」


「2人のアプローチが始まって、お互い美人だから両方好きになっちゃってどっちにしようか決められない」


我ながら優柔不断だと思うが、2人ともおそろしくスペックが高く、これほどまでに決めがたいことは無い。

それによくラブコメで1人のヒロインが主人公と付き合う展開がある。

その場合、残りのヒロイン達はどうなる?

主人公を好きで、その主人公のために割いた時間がすべて水の泡になるのだ。

ラブコメではその後のヒロイン達の学生生活についてあまり描かれていない、しかしここは現実である。

自分と違う人が選ばれたら悲しいに決まってるし、立ち直れないかもしれない。

それが依存しているとなればショックは計り知れないだろう。

そんなことを考えていると、本当に告白してしまって良いのだろうかと思ってしまう。


「お前も大概たいがいだよな......」


「まぁ、そうだよなぁ......」


あれ?

そう言えば妙に外野が静かだな。

てっきり2人が茶々を入れてくるものかと思えば一切なかった。

はっ!

もしかして彼女たちも成長したのか!?

と思ったら、未来と美月が俺の席に近づいてくる。

今度はなんだ......。


「歩くん、私と付き合わない?」


「あゆくん、私と付き合いましょう!」


「そんな取ってつけたような告白があってたまるか!」


絶対さっきの話聞いてたよな!

途中でハモって聞こえた「はっ!?」ってこいつらが言ってたのか!

今まで告白してないのに気づいてなかったのかよ!


「私の告白の邪魔しないでよ、ストーカー女!ストーカーが移るでしょ!?」


未来に特大のブーメランが突き刺さる。


「こっちのセリフです!このヤンデレ女!ヤンデレが移っちゃったらどうするんですか!」


美月にも特大ブーメランが突き刺さる。

日本語って難しいね......。


「告白の邪魔だから、とっととゴミ収集車に回収されなよ、う〇こ臭い生ゴミちゃん?」


「せっかくの告白が台無しです。早くトイレに流れてくれないですかね、拭き終わったトイレットペーパーさん?」


ガギィィィィィィン!!!

と金属同士がぶつかる音がする。

かたや特大中華包丁、かたや電ノコ。

2人の動きが全く捕えられず、金属がぶつかる音と、巻き起こる風しか感じられない。

2人とも住む世界違うんじゃない?




――――――――――――


この戦闘は、僕がなだめるまでしばらく続いた。

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