Chapter Three
お姫さまは、もう長いこと、塔の中で独りです。
いつからこうしているのか、また、なぜこうしているのか、お姫さまは知りません。気づいた時には、塔の中で、白いページを埋めていました。
淡々とした時間の流れは、お姫さまの記憶を、少しずつ溶かしていきます。昨日と今日は曖昧にくっつきあい、尽きることのない明日へ続いていきます。
お姫さまの姿は、どれだけの時が流れようと――お姫さまには、どれほど経ったのかもうわかりませんでしたが――変わることがありません。長い金の髪を結い上げ、幼い身体に白いドレスを纏っています。ドレスには、ふんだんにレースとフリルがあしらわれ、透明な飾り玉がついています。襟許と腰には、大きなリボン。
ですが、どれほど愛らしい姿をしていようと、何の意味もありません。見る人が、いないからです。
お姫さまにとって、世界とはこの部屋の中。比べるものが何もないので、お姫さまにとってもやはり、こんな金の髪も銀の瞳も白いドレスも、意味がありませんでした。
白い雲を見上げて、手を振ってみます。
でも、この仕草は、いったい誰に教わったのでしょう。
涙ぐむ空に、微笑みかけてみます。
でも、お姫さまは、誰の笑顔も、自分の笑顔さえ、知らないのです。
宙に舞う雨を、手招きしてみます。
でも、お姫さま自身が、誰かに手招きされたことがあったでしょうか。
囁く星たちに、歌を聴かせてみます。
でも、声を合わせて歌ってくれる人はいません。
けれど、お姫さまが、それらを疑問に思うことはありませんでした。
お姫さまが、何かを想うことは、ありませんでした。
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